「小さな旅」の取材で出会ったひと
- 2023年10月17日
日本各地の美しい風景と暮らしを訪ねる「小さな旅」。10月8日放送の舞台は、伊豆半島の西海岸にある静岡県沼津市井田(いた)。山と海の隙間に広がる、小さな集落に暮らす人びとに出会いました。
「青 澄み渡る海 ~静岡県沼津市井田~」
(2023年10月8日放送)
ダイバー憧れの地!豊かな海の世界
沼津の市街地から車でおよそ1時間。海沿いの一本道を進むと、井田(いた)地区に到着します。集落には50人ほどが暮らしています。
集落の入口から歩いて10分ほど行くと、目の前にはすぐに海が広がります。日曜日の朝、海辺には多くのダイバーたちの姿がありました。
“井田ブルー”と呼ばれる青く澄んだ海は、一年を通して人気のダイビングスポットです。浅瀬でもさまざまな種類の魚がいるため、船に乗らず歩いて海へ入るのが特徴です。
潜ってみると・・・早速ソラスズメダイの群れが迎えてくれました。
進んでいくと急に深くなり、水深25メートルに。
すると、景色は一変。色鮮やかな八包サンゴの仲間が広がり、多くの生き物が息づいています。
海の青に生き物たちの彩り。ダイバーを魅了する、美しい水中世界です。
美しさもたらす海流 土地にも関係
透明度の高い井田の海。その理由のひとつに、黒潮の支流が入りやすく、常に流れがあることが挙げられるといいます。
実は、この井田の集落も、海流によって形作られた土地です。
はるか昔、この地は入り江でした。
絶え間ない海流によって運ばれてきた砂れきが、長い時間をかけて細長くのびるように堆積していきました。そして、湾の入口をふさぎ、やがて海と切り離された土地ができたのです。
暮らしをつなぐ人たち
この土地をいかして、井田の人たちは海辺の暮らしを続けてきました。
「小さな旅」では、海水をくみ塩作りをする家族や、ダイビングショップを営む父親の手ほどきでダイビングに挑戦した男の子に出会いました。
番組では少しだけしか紹介できませんでしたが、長年米作りに励んできた農家との出会いがありました。
平田登志隆さん 米をとるために
井田で生まれ育った平田登志隆さん(83)です。農業高校で学び、米や野菜作りのことでは集落の人たちから一番頼りにされる存在です。
8月下旬。井田では、早くも稲刈りの時期を迎えます。
海岸沿いの集落には珍しく、一面に広がる田んぼ。その重要な用水を供給しているのが、かつて海から切り離されてできた「明神池」です。雨水や沢の水が混ざり、今は淡水をたたえています。
明神池の水を利用するようになったのは、30年ほど前。それまでの米作りは苦労が多かったといいます。
平田さん
「昔は水源がなかったんです。雨が降らないと田んぼに水がなくなって大変でしたけど、今はこの池の水を利用して、それぞれの田んぼに蛇口を配管してあります。水は心配なくなりましたね」
用水が整備されず、米があまり作れなかった昭和20年代には、海辺の集落ならではの工夫も。
平田さん
「海水を煮詰めて、塩をつくったんです。その塩を長野の方、海のないところへ持っていって、向こうの米と交換していました。子どもの頃、父がよくやっていましたね」
区画整理なども経て、今では井田で安定して米作りができるようになりました。とれた米は家族や親戚に分けられ、一年分の大事な食糧になります。この夏は猛暑、そして台風もきましたが、無事収穫できました。
そしてことし、平田さんにとって特別な稲刈りとなりました。静岡市に暮らす孫の悠人さん(19)が初めて手伝いにきたのです。
悠人さんは現在、静岡市にある調理の専門学校に通っていますが、いずれは井田に移り住んで、平田さんが営むダイバー向けの民宿を継ぎたいと考えています。
悠人さん
「昔からここの土地がめちゃめちゃ好きで、小さい頃から住みたいと思っていました。でも、今は人がいなくなって、お客さんもあまり泊まりに来られないという状態なので、自分が民宿を継いでおいしい米や海の幸を提供して盛り上げられたらなって。すぐにはできないんですけど、修行してからやりたいと思っています」
井田の土地を生かしてできるようになった米作り。またひとつ、海辺の営みが受け継がれていきます。