小さな浜が動き始めた!

ことし3月、15年ぶりに七ヶ浜町を訪れました。その時、花渕浜で偶然出会った方から「浜の人たちが地元を活性化しようと頑張っているみたいだ」と伝えられました。その一言が頭から離れず、4月に再び花渕浜を訪ねました。私の記憶にある風景と震災後の今の風景は違いますが、訪れた花渕浜は青空の下、南国リゾート感あるカフェやシュロの樹、きれいな漁港とヨット、仙台湾の潮の香りと穏やかな波の風景が広がっていました。

そして、確かに小さな浜が動き始めていました。

(仙台放送局 映像取材 小幡倫之)


【リゾート感ある七ヶ浜町の花渕浜で】

▼仙台湾に面した花渕浜の風景
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その日は散歩するにも気持ち良い晴天で、開店準備中の飲食店やマリンショップの店員が、私に気さくに声をかけてくれました。花渕浜で働き始めたばかりという20歳の男性が熱く語ってくれたのは「浜をみんなで盛り上げようと動いています。その中心人物が武山さんです。実は僕、武山さんの元教え子です」という話です。私も武山さんと話してみたいと思っていたところで、その青年が「あの人が武山さんです」と教えてくれました。

▼若い頃の夢を追い求めた元高校教師
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多賀城市出身の武山裕記さん(38)は、花渕浜で海鮮丼屋を営んでいます。それまで12年間、県内の高校で体育教師をしていましたが、若い頃から抱いていた飲食店を持ちたいという夢が忘れられずに、去年4月に店をオープンしました。七ヶ浜町を選んだのは、子どもの頃に七ヶ浜のサッカークラブに通っていたり、親身に相談にのってくれる知人がいたりと、身近な町だったからです。そして何より、教師をやっていた時には「生徒に夢を持て」と言いながら、自分はどうなんだという葛藤を抱えていたそうです。反対していた妻を説得し、コンテナを改造した小さな店で新たな人生を歩み始めました。熱く語りかけてくれる武山さんに自分も心が熱くなるのを感じましたが、一方で、武山さんをここまで動かすモノってなんだろうとも思っていました。
 

【地元の魚で地域を盛り上げたい】

▼七ヶ浜産の魚介類にこだわったメニュー
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武山さんは、店を始めるまでの1年間、漁港を歩いて地元の漁業者にあいさつをして顔を覚えてもらうところから始めました。最初の頃は反応が薄かった相手も、あきらめずに話しかけ続けたことで、次第に雑談できる関係に変わっていったそうです。そして漁業者から家に招かれ、地元で獲れた魚を使った「漁師メシ」をごちそうになるうちに、自分の店のコンセプトを思い立ちました。地元でとれた魚介類をいかして地域を盛り上げようと心に決めます。当然、日によってとれる魚も違い、悪天候で全くとれない日もありますが、地域の人に認めてもらおうと、試行錯誤を続けてきました。

▼漁師の鈴木利雄さん(左)から託された大漁旗と武山さん
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武山さんの店には、大漁旗が飾ってあります。地元で漁を営む鈴木利雄さん(79)から託された大漁旗です。鈴木さんは16歳で漁業の世界に飛び込み、ノリ養殖や近海での刺し網漁を行ってきたベテラン漁師です。しかし、東日本大震災の津波で、自宅や漁船、漁具など全てが流され、やる気も失っていました。かろうじて残っていたのが、自宅跡から見つかった泥だらけの4枚の大漁旗です。かつて船を新造した際に近所の人や漁業者仲間から渡された大切な旗ですが、鈴木さんはその旗を武山さんに託しました。

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漁業歴60年以上のベテラン漁師・鈴木利雄さん
「この辺りで地元の魚を使った飲食店はこれまでなかった。われわれがとってきた魚をさばいて1人でも多くの人に提供してもらえる場所というのに感動した。俺は震災で船も道具も家も全部無くした。くやしかったなあ。でもこういう人に来てもらえると勇気がもらえる。」


【浜への恩返し、自分ができることは・・・】

▼浜の人をつなぐため、武山さんが動き始めた

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「浜の一員として認められた」と自信を深めてきた武山さん。一方で、地元の飲食店やマリンスポーツなどのアクティビティを提供する事業者たちと話すうちに、「浜の魅力がいかしきれていない。もったいない」という気持ちも芽生えてきました。武山さんが当時感じたのは、浜には事業者同士の連携があまりなく、それぞれが個々でサービスを提供しているということです。サップやボートなどのマリンスポーツ、釣り船、飲食店、宿泊施設。浜に数多くあるサービスが連携することで、観光客に浜の魅力を満喫してもらい、地域の活性化につなげられるのではないかと考えるようになりました。そして、お世話になった浜の人への恩返しの気持ちも込め、自分が地域をつなぐための旗振り役となろうと決心したのです。それから事業者一人ひとりを訪ね、自分の思いを伝えた武山さん。花渕浜の遊び場所が一見して分かるようなHP作りなど、新たなプロジェクトに向けて動き始めました。

▼初めての全体顔合わせ、生まれた横のつながり
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4月下旬、武山さんの考えに賛同した地元の事業者たちが初めて集まりました。武山さんは準備した資料を見せながら、改めて自分の考えを伝えました。「この花渕浜という物を、付加価値をつけて最終的にはブランド化していきたい」。例えば、観光客が宿に泊まり、地元のカフェで朝食を食べ、釣り船に乗って釣りをし、釣った魚を飲食店に持ち込んでさばいてもらい、新鮮なうちに味わえる。地域みんなで連携して作る観光プランです。これまで浜に無かったプロジェクトに、参加者の反応は上々でした。武山さんのアイディアがようやく形となって動き始めました。

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地元の飲食店経営者
「やっぱり活性化の取り組みが全然無いのが今までの悩みだった。こういうプロジェクト作ってもらえてすごく良かった。」

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浜活性化のプロジェクトを呼びかけた 武山裕記さん
「本当に毎日が楽しい日々で、人との出会いや可能性を感じながら充実した日々を過ごしています。これからはもっともっと地域を盛り上げていくため、自分自身に何が出来るのか、常にアンテナを張って色んな人と出会うことで、可能性が生まれると思っています。人がたくさん集えて、海で遊んで、おいしい物食べて満足して、そして泊まるところもある。魅力ある花渕浜にしていきたい」

 


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仙台放送局 映像取材
小幡倫之
青森・山形・東京・秋田などをへて
ことし2月から宮城県の地域職員として仙台局へ
地域の役立つ情報を発信すべく、県内各地を駆け回っています

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