宮城から届ける"命と向き合う"映画  今、伝えたいメッセージとは

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命と向き合うさまざまな人の姿を描いた映画「有り、触れた、未来」。東日本大震災を経験した宮城県の人たちから着想を得た自主製作の作品です。撮影も全編、宮城県内で行われました。

今の時代に命の尊さを伝えたいと作られたこの作品、3月から全国で公開されています。どんなメッセージが込められているのでしょうか。監督の山本透さんと、主演の俳優、桜庭ななみさんに話を聞きました。

(石巻支局 記者 藤家亜里紗)

 

 

【命と向き合う人々を描く】

映画「有り、触れた、未来」に登場するのは、災害で家族を亡くした人や、娘の結婚式に出席したいと願う末期がんの女性など…。命と向き合うさまざまな人の姿を通じて、生きることの意味を訴えかけています。

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桜庭さんは、主演のオファーを受けたときの心境をこう語りました。

桜庭ななみさん
「命について扱う作品で、繊細な部分を表現しないといけない。私がそこに携わっていいのかという不安はありましたが、監督の熱い思いや、最初に台本を読んだ時に感じた強いパワーを私も届けられたらなと感じて、大切に演じたいと思いました」

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【“命を守りたい”】

山本透監督がこの映画を手がけたきっかけは、仕事をともにした俳優が、3年前、みずから命を絶ったことでした。若者の命を守るために何ができるのか、思い悩んだといいます。

山本 透監督
「自分の身のまわりで命を絶つ俳優が現れて、別の俳優も亡くなっていきました。そんなことがあって、何か自分にできることはないかとすごく思うようになりました。映画監督として『命の流出』を止めるような、生きる力を届けられるような、『死なないでほしい』と伝えられるような映画を作りたくて、どうやったらそういう映画を撮れるんだろうといつも考えていました」

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【ヒントは被災者の姿に】

こうした中、山本監督は、仕事仲間からもらって手元に置いていた本をじっくりと読みました。宮城県東松島市にある石巻西高校の震災当時の教頭が、避難所となった学校の様子などをつづった本で、厳しい状況の中を生き抜く宮城県の人たちのことが記されていました。強い関心を持った山本監督は宮城県内の被災地に何度も足を運び、互いに支え、助け合う人たちの姿に心を打たれたと言います。

山本 透監督
「宮城の被災地に来てみると、失ったものの大きさをすごく感じることが多く、同時に、人間の力がすごいなと思いました。困ったときはお互いさまという感覚で、みんながともに歩んでいる様子をたくさん見聞きしました。支え合っている、未来に向かっている、と思った瞬間が何度もあったので、これを映画に込めればすごいエネルギーになると確信を持ちました」

 

【進めなくても大丈夫】

こうして作られた作品には、いくつもの物語が折り重なるように描かれています。

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桜庭ななみさんが演じるのは、10年前に事故で交際相手を亡くした女性です。
年月を経て、新たな環境で一歩を踏み出そうとしています。

桜庭ななみさん
「傷が癒えていない部分もたくさんあります。それでも前に進まないといけない環境や状況は、台本を読んでいてもすごく勇気づけられて、私もそういう気持ちになりました。見ている方たちにもパワーを届けられたらという思いで演じました」

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一方で、家族を亡くし、生きる希望を失った親子も登場します。絶望のふちをさまよいながらも、やがて人に支えられていく姿を通じて、「今、前に進めなくても大丈夫」というメッセージを伝えようとしています。

山本 透監督
「立ち止まっている人が、立ち止まっていることを自分自身で責めているとしたら、この映画は『立ち止まっていても大丈夫』ときっと言ってくれるんです。人生の障壁や乗り越えなきゃいけないものは人それぞれで違っていて、懸命に立ち向かう姿があればあるほど、その答えもニュアンスが違ういくつかのものが得られると思います。だから、どんな人にとっても、『大丈夫だよ』って言ってもらえるような作品にしたかったんです」

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【宮城の印象は】

宮城の人たちに着想を得たこの映画。撮影もすべて県内で行われました。原案の本を著した元教頭の娘が俳優として出演しているほか、宮城の地元の人たちも大勢、エキストラとして参加しているということです。撮影中の宮城の印象を尋ねると…。

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山本 透監督
「撮影期間中、宿泊施設もロケ場所も、本当にいろんな方に支えていただきました。あたたかい場所で、人間味あふれる方がたくさん住んでいる場所という印象を受けています」
桜庭ななみさん
「すごくあたたかさを感じてありがたいなと思いました。撮影中はおいしいものを食べさせてもらって。お寿司がめちゃくちゃ迫力あるんですよ。ネタも大きくて、すごくおいしかった」
山本 透監督
「かきもおいしかった!」

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【閉塞感の時代に】

新型コロナに戦争…。閉塞感が漂うこの時代に届けたいメッセージを聞きました。

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桜庭ななみさん
「立ち止まったり、生きることに疲れてしまったり、そんなことがあるかもしれないけれども、それでも前を向いて生きていかないといけないし、生きていてほしい。そういった時に寄り添ってくれる作品だと思います。そして、見終わったあとに隣の人の手を握ったりとか(隣の人のことを)思ったりとか、その思いを感じたりとか、そういうふうに心が通じ合えればうれしいなと思います」

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山本 透監督
「世の中、前に進みにくい状況はこの先もきっとあるように思います。そのたびにこの映画は『大丈夫だよ』と言ってくれる、そんなエネルギーを持っています。支え合うことでギリギリ生きてこられた、前に進んで来られた宮城県で着想を得て撮影したこの物語が広くいろんな人の傷を癒やすと僕は思っています。優しい映画だと思うので、きっと皆さんを癒やしてくれると思います」

 

hujiie20230320.jpg石巻支局 記者 藤家亜里紗
2019年入局
仙台局で事件取材を経ておととし11月から石巻支局。
生がきは味付けせずにそのまま食べる派です。