「限界集落 住んでみた」 ディレクターが語るこぼれ話

12月に放送した「限界集落 住んでみた たっぷり59分版」。
太平洋に面した塩釜市の寒風沢島で暮らした
3年目の若手ディレクターがここだけのこぼれ話を教えてくれました!

 私が行ったのは塩釜市浦戸諸島に浮かぶ寒風沢島。最初にこの島に到着し、まず散策した際に目についたのは猫です。集落の中を歩いていても住民の方に出会うことはほとんどなかったのですが、多くの猫と出会いました。路上で寝転ぶ猫、民家の軒先で丸くなる猫。交通量が少ないこの島は彼らにとって安心して暮らせる環境のようです。

shuraku220106_1.jpg

 住民の方によると、島に多くの猫が暮らすようになったのは震災後とのこと。もともとは家で飼われている猫しかいなかったようですが、震災で暮らしていた家が被災。家を失った飼い主は島から離れ、なんとか生き抜いた猫たちの子孫が、いま島にたくさんいる猫たちです。
 ただ、島にいる猫はほとんどが飼い主がいない猫。エサはどうしているのか気になります。
 別の日、島の漁港に行くとたくさんの猫がいました。そのなかには初日に集落の中で出会った猫も。というのも、漁師さんたちが漁を終えて、たくさんの魚を積んだ船で港に戻る午前中の時間帯に猫が集まっていたのでした。漁師さんたちは、売り物にならない魚を猫たちに恵んでいたのです。
 動きの素早い猫は漁師さんが投げた魚をうまくキャッチするのですが、動きの鈍い猫は、ほかの猫に魚を取られて悔しそうな表情をしているのが、まるで人間のよう。彼らは島の人たちの愛情があってこそ、暮らしていけるのだと感じました。

shuraku220106_2.jpg

 寒風沢島の方たちは、普段から取れた魚や育てた野菜などをあげたりもらったりのやりとりをよくやっています。猫だけでなく私も島を離れる際はたくさんの野菜や魚介類をいただきました。本当にありがとうございます。


島での日常生活

 私は民宿に一か月滞在させて頂いておりました。島での暮らしは、想像以上に不便さを感じさせませんでした。電気は送電線が本土から伸びていますし、水道は上下水道完備。水道管は塩釜市の本土側から海底を通って繋がっています。
 そのため、料理やお風呂、トイレといった日常生活には何一つ困ることはありませんでした。ガスは一般的なプロパンガスを使用していました。さらに今年度中にインターネットの光回線も整備される予定です。
 ごみの収集は、島民の中から代表者を決め、市から委託を受けて収集にあたります。島の中で集めたごみは船で本土へと運び処理されます。台風などで海が荒れた際には船が接岸できず、本土へごみを運び出すことができなくなるとのこと。島ならではの悩みです。

 島の中には商店や病院がないため、買い物も通院も基本的には本土に渡る必要があります。65歳以上の島民の方には、本土と島とを結ぶ市営汽船の無料券が配布されています。そのため週に1回から2回程度、塩釜に買い物や通院で行く方が多く、朝の塩釜行きの船はほぼ満員でした。

shuraku220106_3.jpg

 驚いたのは、塩釜港に到着した島民の方々が真っ先に向かうのは港の前の月極駐車場だったことです。実は、塩釜市の本土側に乗用車を置いている島民が多いとのこと。車を港の前に置くことで、買い物や通院をしやすくしているのです。

shuraku220106_4.jpg

 一方、島の中で移動手段として活躍しているのが軽トラックや原付バイク。ただ、島にはガソリンスタンドはありません。給油をどうしているかというと、実はドラム缶ごとガソリンを買い、各家庭で備蓄していました。ドラム缶は2か月に一回ほどのペースで船で売りに来るのだそう。

shuraku220106_5.jpg

 ガソリン以外にも、住民の皆さんの家庭では備蓄されているものが豊富です。住民の大半が、漁師さんであるため、各家庭では大型の冷凍庫に魚介類を備蓄。さらにほとんどの島民の方が自前の畑を持っているため野菜も豊富にあります。また、寒風沢島では稲作も行われているためお米の備蓄もあるのです。
 そのため、2011年の東日本大震災の際には、各家庭から食料や燃料、発電機などを避難所に持ち寄り、外からの支援が来るまでの間、暮らしていくことができたそうです。 


寒風沢島の歴史

 寒風沢島は仙台湾の中央部に位置し、外海へのアクセスが良かったことから、江戸時代には仙台平野で取れた米を江戸に運ぶ際の集積地として栄えました。島内には仙台藩により穀倉が設置され、遊郭もあったほどの栄華を誇ったそうです。
 その痕跡として、寒風沢島には「縛り地蔵」と呼ばれるお地蔵さまがあります。当時、遊郭の女性たちが船乗りの客にできるだけ長期間留まっていて欲しいと、天候の悪化を願って地蔵を縄で縛ったことに由来するということです。

shuraku220106_6.jpg

 そのほかにも、生まれてくる子どもの顔が見目麗しくなることを願い、訪れる人々が地蔵の顔に白粉を塗った「化粧地蔵」と呼ばれる地蔵もあります。

shuraku220106_7.jpg