佐賀 絶やさず“つなぐ” 肥前名尾和紙 新たな歩み
- 2024年02月21日
佐賀市大和町で300年以上の歴史があるとされる「肥前名尾和紙」。佐賀県の重要無形文化財です。その唯一の工房が、3年前の記録的大雨で被害を受けましたが、去年、新しい工房に移転。若い職人も加わって、新たなスタートを切っています。
歴史ある名尾和紙 工房は唯一に
佐賀市大和町の名尾地区で300年以上続く「肥前名尾和紙」。佐賀県の重要無形文化財です。
長く強い繊維が絡まり合い、薄くても丈夫なのが特徴です。障子紙や提灯紙(ちょうちんがみ)、文化財の修復などに重宝されてきました。「唐津くんち」の曳山や「博多祇園山笠」で使われる提灯にも用いられています。
しかし、担い手の減少で、昭和の初め頃まで100軒以上あった工房は、いま1軒だけとなっています。
仲間入りした 若い職人
その工房に新たに加わった若者がいます。
田中 ももさん(24)です。去年2月、福岡市から移住してきました。
もともと大学で和紙の生産を学び、基礎を身につけた田中さん。今は、職人に教わりながら、さまざまな質の和紙がすけるよう、腕を磨いています。
田中ももさん「楽しいです。私がすいた紙が名尾和紙の紙として売れていく、使われていくのが、紙をすきながら不思議に思うことがあります。」
田中さんを指導するのは、工房の6代目・谷口 祐次郎さんです。この工房は代々、谷口家が受け継いできました。
和紙職人は、求められた通りの厚みと質で、何十枚、何百枚とすかなければならないといいます。ただ、体の使い方は、職人それぞれが自身の体格に合わせて調整するため、詳細に教えることはできません。
谷口祐次郎さん「紙をすくのは、ひとりひとり体の大きさも力も違うので、探りながら覚えていくことになります。」
きっかけは“谷口流”和紙作品
日々奮闘する田中さんが初めて名尾和紙に興味を持ったのは、高校生の頃です。現代的なデザインにも挑戦する谷口さんの作品を見たときでした。和紙であるにもかかわらず、立体感のある斬新な作品だったと振り返ります。
田中ももさん「『誰が作っているんだろう』って調べて、谷口祐次郎さんっていう人が名尾和紙を作っているんだっていうことを知りました。ちょうど進路を考える時期だったから、(谷口さんの作品を見て)和紙の世界に入ってみたいって思ったのがきっかけです。」
高校生のときに母親と一緒に工房を実際に訪れ、その思いを谷口さんに相談した田中さん。「ゆっくり考えたらいい」と進学を勧められ、谷口さんのもとで働くことを目指して京都の工芸大学で和紙を学ぶことを決めました。
しかし―。
令和3年 記録的大雨で“かつてなかった被害”
2021年8月に、佐賀県を襲った記録的な大雨。工房付近で、土石流が発生しました。
流れ下った土砂で建物がゆがみ、工房は休業を余儀なくされます。実は、創業以来このような被害はなかったということです。そうしたなかで、田中さんを受け入れることができるかわからない状況になりました。
田中ももさん「(工房に)連絡したんですけど、被災をしているし来ない方がいいって。その状況を知るぐらいしかできなかったです。」
これまでになかった被害。存続も危ぶまれましたが、紙すきに欠かせない道具が無事だったことで、谷口さんたちは再び立ち上がります。地域の人たちも力を貸し、土砂をかき出すなど多くの「名尾和紙ファン」が一緒になって汗をかいたということです。
県や佐賀市の支援も受け、去年の夏に工房を移転することができました。
ことし迎えた 新たな1年
移転してから始まった新たな1年。田中さんは、目標としていた職人の道を歩んでいます。
名尾の和紙作りでは、和紙の原料「カジノキ」を刈り取るのも仕事です。年明けに、カジノキを収穫して1年分の繊維に加工するのです。
みなでカジノキを蒸し、皮を剥ぐ。手間ひまかけたその皮が和紙のもとになります。膨大な作業を総出で行って、伝統の和紙が守られてきました。田中さんは、日々、名尾和紙を受け継ぐ思いを強くしています。
田中ももさん「手すき和紙が、先代の縁をつなぎながら愛されているんだと知りました。そういうところに対して、何か自分も、名尾和紙の一員として貢献できたらいいなと思っています。」
絶やさないよう代々守られてきた名尾和紙が、また新たな担い手に受け継がれようとしています。
谷口祐次郎さん「今まで自分が行ってきたこと、先代でやってきたこと、大事にやってきたこと、名尾和紙がやってきたことを全てを知ってもらって、次の時代に持っていければいいなと思います。」
田中ももさん「今までそうやって生きてきた人と一緒に、紙を作って、紙すきがしたいなというのを考えたので。失敗とかすぐにはうまくできないことも含めて、すごく楽しみながら枚数を重ねていっています。」
取材後記
田中さんは、紙すきだけでなく、ご紹介した原料作りのほかポストカードなどの和紙製品の開発・アイデア出しなども行っています。和紙工房の谷口さんたちは和紙の用途や可能性を広げようと自由な作風を大切にしていて、若い人がのびのびと才能を発揮できる場を積極的に作っているんです。福岡出身の田中さんですが、和紙の修業をしながら、名尾で過ごす日々の心地良さも工房を訪れる人に伝えていきたいと話していました。
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