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佐賀 “ロマンシング佐賀” 異例のコラボ10年 冒険の旅路

ニュースただいま佐賀
  • 2024年02月28日

 

佐賀駅のホームに列車が到着すると、流れてくるメロディがあります。

冒険型ロールプレイングゲーム、サガシリーズのテーマ曲です。
学生の頃に遊んだことがある私は、耳にするたびにどことなく懐かしさを感じます。

佐賀県は読み方が同じ名前ということで、サガシリーズを観光などに役立てようと、
コラボ企画を続けていて、なんと今年で10年。

自治体とゲームという異例のコラボレーション、その冒険の旅路を取材してみました。
(NHK佐賀放送局 藤岡信介記者)

始まりは“ひらめき”

 

国内最大の潮の満ち引きが起きる有明海は、ちょうど引き潮の時刻になっていました。
足もとを見ると、幾重にも重なった貝殻で敷き詰められています。

2023年の暮れ。私たちは佐賀県の南西部にある太良町を訪れていました。
有明海に向けて並ぶ3つの赤い鳥居「海中鳥居」が観光スポットとして知られています。

ほぼ雲に隠れた太陽は傾き、雪混じりの冷たい風は吹きやむことがありません。
この冬一番の寒波に身を縮めていたところ、レンタカーが到着しました。    

 

車から降り立ったのは、
大手ゲーム会社「スクウェア・エニックス」のプロデューサー・市川雅統さんです。
にこやかな表情で海中鳥居をくぐっていきました。

同行者を率いて、軽い足取りで海に伸びた船着き場へ歩いていきます。
すると、わずかな時間のうちにあたりの景色が変化。
有明海が「マジックアワー」と呼ばれる日没前の荘厳な色彩で覆われていきました。

 

前に来た時は、潮が満ちていてこの場所まで来ることができませんでした。
幻想的でめちゃめちゃ何回も来ていますけど、毎回風景が変わる。すごい好きです。
この風景だけでも見に来る人はいるんじゃないですか。どこか、ゲームっぽい感じがしますね。
(スクウェア・エニックス 市川雅統 プロデューサー)

実は、この人。

冒険型のロールプレイングゲーム(RPG)、サガシリーズを世に送り出した人なのです。

 

サガシリーズの魅力は、シナリオにとらわれない自由度の高さです。
戦闘中に新たな技や術を習得する「ひらめき」や、その技や術を仲間でつなぐ「連携」など、
独自のシステムも採用。

 

発売から35年となるいまも、人気を集めています。
6年前にリリースされたスマホのゲームでは、佐賀県の名だたる景勝地も登場しました。

【動画】玄界灘の白波と、唐津市の「七ツ釜」

 

弥生時代の建築物を再現した吉野ヶ里歴史公園

佐賀県と一緒に面白いことができないか。

10年前、コラボを「ひらめいた」のが市川さんでした。
始まりは、市川さんが佐賀県庁にかけた1本の電話だったといいます。

 

こんなに長くコラボが続くと僕も思ってなかったんです。
2014年の頃、ちょうどサガシリーズが25年を迎えるっていう時に、
何か面白いコラボができないかってことで、佐賀県にお声がけをしました。
東京で佐賀県を広めるのも当然面白いと思うんですけど、佐賀県で何かやりたいなっていうのが
ずっと心にあったんです。

【記者】ひらめきだったんですか?
【市川さん】ひらめきです。
(スクウェア・エニックス 市川雅統 プロデューサー)

冒険者たちは佐賀へ

 

コラボ企画は、東京・六本木でのグッズ販売などからスタートしました。
伝統工芸の有田焼にキャラクターを描いた作品などが人気を博し、4日間で約7000人が来場。
グッズは完売し、初めての試みは大成功でした。

その後、佐賀県の旅を楽しむプロジェクトが進みます。

 

キャラクターをあしらったマンホールを設置。
嬉野温泉や武雄温泉といった温泉地を中心に、街を散策するきっかけが足もとに現れました。

ちなみに全国のマンホールのおよそ6割は佐賀県にある工場で製造されているとのこと。
隠れた佐賀の特産品に目を付けたのです。

 

次第に範囲は拡大します。
黄色の車体を基調にキャラクターなどをラッピングした列車も登場。
JR唐津線と筑肥線を走る16すべての車両が、オリジナルデザインで彩られました。

ゲームの世界観とともに唐津市伝統の秋祭り「唐津くんち」の曳山なども描かれ、
沿線の地域に人を呼び込むことにつながりました。

 

その恩恵を受けている温泉地があります。
佐賀駅から北へ20キロほど離れた山あいにある古湯温泉です。
ぬるめで優しい肌触りのお湯が湧き出していて、ゆっくりと温泉を楽しむことができます。

 

観光団体の担当者は、当初、サガシリーズのことはほとんど知りませんでした。
そのため、コラボ企画の効果があるかどうか半信半疑だったといいます。

 

全国的にも有名な嬉野温泉ですとか武雄温泉に比べると、
古湯温泉はまず知られてない温泉地です。
ここ数年、コロナ禍だったのでなかなか遠くからお客様がいらっしゃることが
ほとんどなかった時期でしたが、ゲームをきっかけにたくさんの方がこんなに来てくださるとは思っていなくてですね。正直、本当にびっくりしました。
(古湯・熊の川温泉観光コンベンション連盟 村岡夏子さん)

 

寄せ書きノート

ファンが寄せ書きできるノートを見せてもらうと、
北海道から沖縄まで各地の地名が並んでいました。

2022年度、古湯温泉をはじめとした県内各地で展開されたコラボ企画で
記念品を受け取った人は、のべ約1万人。
そのうち8割以上は県外からの来訪者でした。

 

冒険者たちとの交流を象徴するアイテムも。

大切に保管している小さな「ほうき」と「ちりとり」。
チョコでコーティングされた、さくさくの食感がおいしい、
ご当地アイスを食べているキャラクターのイラストが描かれていました。

 

ご当地アイスも一緒に

マンホールをいつでもきれいに撮影できるようにと、訪れた人からの贈り物です。

このほうきの存在をSNSで知って、遠方から訪れるファンがいるのこと。
今では古湯温泉を訪れる人たちと会話するきっかけになっています。

 

マンホールを掃いてきれいに

コラボ企画のキャンペーンが長く続いていることで、リピーターとして2度3度訪れてくださる人もいらっしゃいます。
お休みで「せっかくならキャンペーンをやっている佐賀県に行ってみようかな」という気持ちでおいでになる人もいらっしゃいましたし、「今度、家族旅行でどこに行こうか」と目的地を探していた際、面白そうな取り組みをしていると知って、佐賀県に決めてくださった人もいらっしゃいます。この地域にお客様が来てくださる機会が増えたことがすごくよかったと思います。
(古湯・熊の川温泉観光コンベンション連盟 村岡夏子さん)

佐賀県とサガ “連携”深める

 

サガシリーズとの連携を深めてきた佐賀県庁。
ファンがSNSなどで発信する情報を絶えず確認し、コラボ企画の反応を探ります。
佐賀県と関わりを持ってもらうきっかけにつなげようとしていました。

 

好意的なファンの反応は、すぐにSNSで確認しています。
県内では、いろんなエリアでコラボ企画をやってるので、今回どこに注目されてるかなとか、
何を一番楽しみにされてるのかなとか、逐一チェックして、何かこちらでできることがあれば
先に動いて、おもてなししようと思っています。
(佐賀県政策部企画チーム 島松宗一郎 係長)

県は、ゲーム会社だけでなく、市や町、それに観光団体を巻き込んだ協議会を4年前に結成。
訪れた人が思い思いにサガシリーズにちなんだ旅を楽しむことができるよう環境を整えてきました。

最終的には観光に限定するのではなく、地域に多様なかたちで関係を持つ人たちを指す「関係人口」、言い換えると佐賀県のファンを獲得することを目的にしています。

 

普通の観光PRではなく、最初のとっかかりがゲームなんです。
ゲームで佐賀を知って、実際に佐賀に来てもらう。
そして、各市町が抱える地域の行政課題をファンの来訪を使ってどう解決していくのかを
目指しているのが、この施策の大きなポイントかなと思っています。
何回来ても楽しめる佐賀県のことをファンの方に知ってもらい、
何度も何度も足を運んでもらうことができれば、我々の目標達成と考えます。
(佐賀県政策部企画チーム 島松宗一郎 係長)

 

ゲームを通じて佐賀県に興味を抱いた人にいかにして来てもらうか。
毎週協議を重ねて、広報戦略を確認していきます。

取材した日は、限定グッズを配布する方針や、サウナに関するイベントなどについて
オンライン会議で意見を交わしていました。

 

都内でサウナをPRするイベントに参加するかどうかを考えると、
例えば、武雄市ではサウナを推していきたいという動きがありますね。
ファンが「やっぱり佐賀県のサウナを体験しに行くかな」とか、
そういう動きにつながるのであれば、ひとつの意義としてはあると思います。
(佐賀県政策部企画チーム 松村美由紀 政策企画監)

実は、佐賀県は一連のコラボ企画を通じて、ゲームの開発や、
キャラクターの使用にかかる費用(知的財産権)をゲーム会社に支払う必要がありません。
そのかわり、地元の観光PRやグッズの開発などに注力できているといいます。

10年にわたるコラボ企画について、
県が県内への経済波及効果などを試算したところ、事業にかかった費用の6倍余り、
金額にして少なくとも約14億円にものぼるということです。

シナリオのない冒険は続く

では、佐賀県の今の「推し」は…。

 

弥生時代の大規模集落が残る遺跡で有名な吉野ヶ里町。

 

そして、カニやカキなどの海の幸が豊富な太良町です。

その太良町を訪れたプロデューサーの市川さん。
永淵孝幸町長に海中鳥居などをゲームで紹介したことを報告しました。

 

町長に報告

観光名所にキャラクターを描いた有田焼の陶板や、マンホールを新たに設置したことに対し、
町長からは感謝状が贈呈されました。

ゲームをきっかけに佐賀を訪れるファンが増えてほしい。
市川さんの思いも、佐賀県と同じです。

 

ゲームのファンの人たちにより楽しんでもらおうと思って、ゲームを作ってるんですけど、
ゲーム以外でも、佐賀県に陶板を見に行くとか、マンホールを見に行くこともできる。
ただゲームをプレーして遊んで終わりって体験じゃなくて
そのエリアに行っていろいろなおいしいものを食べたりとかする。
出会うこと自体がちょっとRPGみたいになっている。
(スクウェア・エニックス 市川雅統 プロデューサー)

小さなひらめきから始まった冒険の旅路。次の10年には何が起きるのか。
シナリオのない旅は、これからも続きます。

取材後記

2月上旬、九州の地方議員で構成する観光関係者の会合に、市川さんが講師として登壇しました。

佐賀県への熱い思いや、ゲームクリエイターとしての関わり方などを語る中で、
市川さんが何度か口にしたのは、「コラボ企画は順風満帆だったわけではない」ということでした。
県庁の担当者と真っ向から意見をたたかわせる機会があったからこそ、
より面白いアイデアが浮かび、その結果としてゲームユーザーが佐賀県の魅力を知るようになったと。
自治体と企業のコラボ企画が10年も続くのは全国的にも珍しく、
市川さんの言葉から関係者が苦悩しながら歩みを進めてきたことが伺えました。


サガシリーズは、手強い相手と向き合った時にこそ、新しい技や術をひらめく。
20年ほど前に自分が遊んでいた頃の記憶に残るのは、ぎりぎりで新たな技をひらめいたことで、
窮地を乗り切った場面が多かった気がします。
今後も続くというサガシリーズと、コラボ企画。
いったい佐賀県にはどんな冒険が待ち受けているのでしょうか。



特集ニュースの動画は、こちらからご覧になることができます。

  • 藤岡 信介

    NHK佐賀放送局

    藤岡 信介

    青森、福井、科学文化部を経て2022年から現所属。
    サガシリーズでは、「サガ フロンティア2」が好きです。

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