佐賀 鳥栖 知的障害者バレーボール トスでつなぐ思いやりの輪
- 2024年01月19日
ことし佐賀で開かれる国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会に向けて、県内20市町の魅力を伝えるプロジェクト「さがめぐりまるっと20」。今回は、鳥栖市の特集です。
鳥栖市は、バレーボールV1久光スプリングスの本拠地でもあり、バレーボールがさかんな地域です。
今回は、バレーボールの中でも、知的障害者のバレーボール。
全障スポでは、こちらも鳥栖市で行われます。
佐賀で開催される全障スポで優勝を目指すチームを取材しました。
知的障害者バレーボールとは
佐賀県の「知的障害者バレーボール男子チーム」
佐賀での全障スポに向けて、2019年に結成されました。
2022年に初めて九州予選を勝ち上がり、全国障害者スポーツ大会に出場。
いまや全国レベルに成長しています。
知的障害の程度はさまざまです。
・臨機応変な判断が苦手
・教わったことを理解するまでに時間がかかる
・気持ちのコントロールが難しい
・自分の感情を表現するのが苦手
などそれぞれの特性があります。
6人のチームで行うバレーボール。
チームによると、知的障害者の多くは、人前で話すことが苦手で、互いにコミュニケーションを取ることに苦労するといいます。
さらに、相手の位置やボールとの距離感などの空間把握が難しい人が多く、状況を瞬時に判断して適切なプレーを選ぶことは容易ではありません。
“司令塔”セッターの川﨑響貴選手
チームの司令塔、トスを配球するセッターを務める、川﨑響貴(かわさき・ひびき)選手。
特別支援学校の高等部3年生です。
持ち味は、正確なボールコントロール。
やわらかいタッチで、仲間が打ちやすいトスを上げます。
チームの監督を務める井之利昌(いの・としあき)さんです。
響貴選手の学校の担任でもあり、
3年間、チームでも学校でも同じ時間を過ごしてきました。
響貴選手は、恥ずかしがり屋な性格で、人と話すことが得意ではありません。
セッターに求められる、周りの選手への声かけなどのコミュニケーションに苦労することがあります。
人と話すのがとても苦手なのですが、チームは社会人の方が多くて、
それに慣れるともっと違う人とコミュニケーションが取れることがあります。
取材時は、ニコニコと笑顔で話す姿が印象的だった響貴選手。
最初はどうだったのか聞いてみると・・・。
(当初は)笑いもしなかったから。でもバレーを続けてきたことで、こうしてもらいたい時はこうしてもらいたいと言う表現力が少しずつ高くなってきました。
自分の感情を表現することが苦手だったという響貴選手。
合宿などでチームメイトと長い時間を過ごしたり、練習で自ら声かけする経験を重ねるなかで、嬉しいときは嬉しい、悔しいときは悔しいといった自己表現ができるようになりました。
さらに、セッターを任されて3年。チームメイトのことを考えながら試合を組み立てる経験を通して、年上の選手とも少しずつ話せるようになったといいます。
井之監督は、選手どうしがコミュニケーションを重ねる中で、お互いを思いやる心を育てたいと考えています。
いつも私は、響貴に対して「声かけをしろとか、組み立てをしろ」とか言っているよね。でも、逆に言えば、その手助けをするのは誰なんよ?
バレーってそういうものじゃない。お互いの助け合いじゃない?
苦しい時に誰かが声をかけてあげたり、こうしてあげようっていう。
それが何でもつながっていくんじゃないのかな。
この人いま苦しいだろうなって、
その人の気持ちになって考えてあげることが大切なんだと思う。
井之監督は、ミスがあるとプレーを止めて、たびたび選手に声をかけます。
選手たちは次第に、自分だけでなく周りも見られるようになり、お互いにアドバイスをしたり、なかにはチームの空気を盛り上げようと声かけをする選手も出てきました。
選手たちの親も、子供たちの変化を感じていました。
(選手の親)「入った当初は人見知りだった。だけど、みんなと徐々に話をできるようになって。見ていて分かるが、全然違う」
(選手の親)「職場の方から、最初入った時よりも言葉遣いとか こういう言葉遣いができるんだなとか。そこはやっぱり嬉しい。家ではふだんそんなに変わらないが、外で変わったと言われると、親としては成長しているんだという気持ちがある」
クラブチーム設立 “知的障害への理解を広げたい”
チームは、去年12月、クラブチームとして新たなスタートを切りました。
練習着も新調。県内企業など9社がスポンサーとなりました。
佐賀県によると、知的障害者のバレーボールチームが企業の支援を受けて活動するのは、全国でも初めてです。
選手の勤め先でもある、協賛企業の森善弘(もり・よしひろ)さん。
チームが継続的に活動できるよう、客観的な視点でアドバイスを行っています。
(協賛企業 森善弘さん)「学校だと同じ障害の子たちが集まる場所があるが、就職してからはなかなかないと思う。バレーによって集まる場所がある、企業としてもそこを応援したいということでサポートさせてもらっている」
井之監督は、クラブチームとして長期的に活動を続けることで、知的障害を知ってもらうきっかけにしたいと考えています。
(井之監督)「みんな手助けをしてくださいという意味ではなくて、社会で共存できるようになってもらいたい。知的障害の特徴がある選手でも、ここを支援していけば一緒に頑張れるんだと分かっていただければ」
佐賀での全障スポをきっかけに誕生したチーム。
思いに共感する多くの人に支えられ、理解の輪が広がり始めています。
取材を終えて
響貴選手は、学校生活でも変化がありました。
自ら立候補して児童生徒会に入り、体育祭実行委員長を務めるなど、人前で話すことにも挑戦しているそうです!
初めて会った時から、響貴選手の屈託のない笑顔に惹きつけられ、応援したい気持ちでいっぱいになりました。しかし、取材を進めるなかで、その笑顔は“チームでの活動を通して培われたものだった”と知り、あらためてチームの存在意義を強く感じました。
知的障害の選手たちは、一見障害があると気づかれにくく、それゆえに配慮が行き届いていない現状があるといいます。「必要な配慮をすれば、社会で一緒に頑張っていける」と話す井之監督。クラブチームの活動を通して、知的障害を知り、理解しようという心が広がることを願っています。
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