佐賀にワイナリーを! 本土唯一の〝空白地帯〟で始まった挑戦
- 2023年11月22日
国産のブドウのみを使って醸造されたワインは「日本ワイン」と呼ばれ、世界的な賞を受賞するなど高評価を受けています。いまやワイン造りは全国で盛んに行われていますが、佐賀県は本土で唯一の〝ワイナリー空白地帯〟となっています。その現状を変えようと立ち上がった1人の女性を取材しました。
(NHK佐賀放送局・記者 藤本拓希)
始まった挑戦
雑草の伸びた耕作放棄地で草刈りをしていた女性が1人。
佐賀市に住む髙平登志子さんです。
2年前から佐賀県にワイナリーを開設しようと取り組んでいます。
原料となるブドウの栽培からワイン醸造まで、一連の工程をすべて県内で行うことで「100%佐賀県産ワイン」の生産を目指しています。
まず始めたのは畑作り。大変な作業でも情熱は冷めません。
実は本土で唯一ワイナリーのない〝空白地帯〟となっている佐賀県。
その現状を変えようとしています。
「佐賀にワイナリーがないのは『できないからないんでしょ』って言われるんです。
でも全国にあるし、同じ九州の長崎にも福岡にもあるんです。
できないわけがないじゃないですか」。
畑は佐賀県の中央に位置する大町町にあります。
南に向かって開けた傾斜地になっており日当たりは抜群。
かつてミカン畑だったこともあり、ブドウの栽培にも適していると考えました。
そして何より、高台からの景色が髙平さんの背中を押しました。
「この景色を見た瞬間に気に入って、ここでブドウを栽培したいと思いました。
一目惚れですね」
畑仕事のあとはワインバー
佐賀市でワインバーを経営している髙平さん。
朝から畑仕事に汗を流したあと、夕方からはカウンターに立ちます。
平日は毎日、佐賀市と大町町を車で40分かけて往復しています。
店には、客席から見える位置にワインセラーがあります。
棚にはイタリアのワインがずらり。
豊富な種類をそろえ、客の好みに応じて提供します。
店で扱うワインを選ぶため、年に1度は必ず現地に足を運ぶ髙平さん。
自分の舌で味を確かめ、気に入ったものを店に並べます。
ときにはイタリアの生産者とのワイン談義に夢中になることも。
交流を深めるなかで、ワイン造りへの情熱に触発されたといいます。
「皆さんも情熱がたくさんあって、私にもできるかなと思った。
『私もやりたい』と言うと『トシコなら絶対できる』と言ってくれた」。
ただ農業の経験はもちろんブドウを栽培したこともありませんでした。
福岡県や広島県のワイナリーに出向いては、栽培や醸造のノウハウを学んでいます。
大町町で借りた畑はあわせて6000平方メートル。
いまは草刈りや土を耕す作業に追われています。
こうした中、ワイナリーの開設を支援してくれる人も見つけました。
髙平さんに畑を貸した吉丸誠一さんです。
ブドウ栽培の経験を持ち、土造りや苗の育て方などを助言しています。
「耕うん機とかショベルやってても『自分でしたい』と言ってくる。
やる気があると何でもできるなと思わせられる。自分も体が続く限りは手伝いたい」
畑の一部には、2年前に試験的に植えたワイン用のブドウがすでに実を付けていました。
食用のブドウと比べると粒は小さいですがその分、甘みや酸味が強烈に広がります。
ワインに必要な渋みを出すため、厚い皮と種があるのが特徴です。
ワイナリー空白地帯を変えたい
ブドウの本格栽培は来年から始め、2026年には最初のワインを造ることを目指しています。
「これだけ素敵な土地なので、温かみあるおいしい果実ができると思います。
それをしっかりワインで表現していきたいです」。
「空白地帯・佐賀」を変えたい。情熱を原動力に、髙平さんはまい進します。