「知っておきたい 甲状腺の病気」③ ~甲状腺ホルモンが異常に少ない「橋本病」~

24/05/29まで

健康ライフ

放送日:2024/05/01

#医療・健康#カラダのハナシ

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24/05/29まで

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【出演者】
荒田:荒田尚子(あらた・なおこ)さん(国立成育医療研究センター 診療部長)
聞き手:福島祐理 キャスター

元気がなくなる、疲労やだるさを感じる

――日本甲状腺学会 監事で、国立成育医療研究センターの荒田尚子さんに伺います。
甲状腺は首の前側、のどぼとけの下にある臓器で、体を元気にするために不可欠な甲状腺ホルモンを作っています。今回お伝えするのは「橋本病」についてです。これはどんな病気なんでしょうか?

荒田:
「甲状腺ホルモンが異常に少なくなる病気」はいくつか種類はありますが、患者数が最も多いのが「橋本病」。「慢性甲状腺炎」ともいいます。30~50歳代の女性に多く、成人女性の10人に1人、成人男性の40人に1人にみられるといわれています。きちんと治療を受けていれば命に関わることはなく、健康な人と同じように過ごすことができます。

――荒田さんの患者さんの中にはどんな方がいらっしゃるのですか?

荒田:
たとえば40歳の女性の方です。
いつも体が冷え、ゾクゾクするような寒気を感じていました。食欲がなくなって食事の量が減ったにもかかわらず体重は増えてしまい、体がひどくむくんできてしまいました。さらに、心にも変化が出てきて、特に忙しいわけでもないのに強い疲労やだるさを感じ、何もする気になれない「うつ」のような症状が出ていました。首がはれてきたり「こぶ」のようなしこりもできるといいます。医療機関の検査で、甲状腺ホルモン量が異常に少なくなる「橋本病』だとわかりました。

――元気がなくなるような症状が多いようですね。誰にでもおこりそうな症状ですね。

荒田:
はい。橋本病は甲状腺から出るホルモンの量が異常に少なくなり、さまざまな症状を引き起こすことのある病気です。橋本病と分からずに、単なる体調不良や更年期障害、うつ病などと間違われ、症状がひどくなって日常生活に支障をきたす方がいらっしゃいます。

――どうして甲状腺ホルモンが異常に少なくなってしまうんでしょうか?

荒田:
前回のバセドウ病と同じく、免疫機能の異常が原因で起こると考えられています。免疫は本来、体の外から入った異物を攻撃するものです。橋本病の場合は、自分の甲状腺を異物とみなして攻撃・破壊するため、甲状腺ホルモンの分泌量が低下し、異常に少なくなるということがあります。ときには破壊のため、甲状腺ホルモンが多くなることもあります。

「橋本病」の症状は?

――では橋本病にはどんな症状があるのか、さきほどの患者さんの例で伺います。「体が冷たい」や「寒がり」といった症状はどうして出るのでしょうか?

荒田:
代謝が悪くなってエネルギー消費量が低下し熱をつくれなくなり、寒さを感じたり手足が冷たくなったりします。

――そして食欲がないのに体重が増加してしまう、ちょっと不思議な症状ですね。

荒田:
そうですね。これも代謝が悪くなってエネルギーがうまく消費できないうえに、余分な水分が体中にたまって顔や手がむくんで体重が増えてきます。
むくみは皮膚を押してもへこまないのが特徴です。悪化すると心臓の筋肉がむくみ、血液を送り出す働きが低下する場合もあるので注意が必要です。

――また症状として、疲労やだるさ、無気力、うつ症状もありましたね。

荒田:
これも代謝が悪くなり、神経や心身の働き、活動力の低下によって起こるものです。なかにはうつ病と間違われ、うつの治療をしても改善せずに仕事や生活に支障をきたす方もいらっしゃいます。橋本病でもうつ症状が出るということをぜひ知っておいていただきたいと思います。

――そして先ほどの患者さんは首に腫れもあったということでしたけども、この首の腫れにはどんな特徴があるんでしょうか?

荒田:
甲状腺全体が腫れたり、腫れ方が左右非対象になったり、硬くてこぶのように感じることもあります。痛みはありません。このような腫れから橋本病がわかるケースが多くあります。

――橋本病になるとすぐにこういった症状があらわれるのでしょうか?

荒田:
いいえ、橋本病はゆっくりと進行する病気で、ある程度進行した場合にこのような典型的な症状が重なってあらわれてきます。気になる症状がある場合はお近くの内科を受診してください。血液検査で甲状腺ホルモンの値や甲状腺を破壊している免疫状態、すなわち「抗体」を調べればすぐに診断がつきます。基本的にどの医療機関でも受けられる検査です。必要に応じて内分泌や甲状腺の専門施設を訪ねてもいいと思います。

――橋本病はどう治療していくのでしょうか。

荒田:
橋本病と診断されても8~9割の人は軽症で、治療はせずに半年に1回程度の定期健診で経過観察をしていきます。
血液検査で甲状腺ホルモンが明らかに少なくなった場合は治療を開始します。具体的には甲状腺ホルモンとほぼ同じ成分のホルモン剤を、1日1回足りない分だけ飲んでいきます。薬で症状は改善し、問題なく日常生活を過ごすことができます。

――最後に今日のポイントをお願いします。

荒田:
元気がなくなるような症状が続く場合は、血液検査で甲状腺ホルモンの値を調べましょう。


【放送】
2024/05/01 「マイあさ!」

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24/05/29まで

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