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岡山発 自転車も“ヘルメット着用を” 娘を亡くした遺族の願い

NHK岡山「もぎたて!」ゼロへのAction~なくそう交通事故死~
  • 2023年06月23日

岡山市で11年前の12月、交通事故がありました。中学生が自転車に乗っていて横断歩道をわたっていたところ車にはねられたのです。秋田あゆみさん、14歳。頭を強く打ち、その後、亡くなりました。令和5年4月、自転車のヘルメットの着用が努力義務になりました。「あの子にヘルメットをかぶせていれば助かったかもしれない」。悔やみ続ける母親は、必ずヘルメットをと訴えています。 
(岡山放送局 記者  入江和祈)

あの日は突然

秋田あゆみさんの母親 秋田明美さん

「いってきまんぼう!」
そう言って元気にあいさつをするとあゆみさんは出かけていきました。
岡山市の秋田明美さんが最後に見た、元気な娘の姿です。

事故は、平成24年12月の夜に起きました。

学習塾から家路を急いでいた中学2年生のあゆみさん。
自転車に乗ってさしかかった横断歩道を渡っていたところ車にはねられました。
頭を強く打ち、意識不明の重体で病院に搬送されました。
かけつけた秋田さんは病室で眠る娘を見て、事故のことを信じられませんでした。

(秋田明美さん)
きょうは目を覚ますかな。私をまたお母さんって呼んでくれるのかな、呼んでくれたらいいなって過ごしていました

あゆみさんの入院中の写真

友人たちも駆けつけ、懸命に生きたあゆみさん。
しかし、事故から40日後、亡くなりました。

ヘルメットをかぶせていたら

あゆみさんが使っていた剣道着

秋田さんの自宅には、あゆみさんの剣道着やぬいぐるみ、賞状が飾られています。
剣道と勉強に励み、元気いっぱいな子どもだったといいます。
そんな日常は、一瞬の事故で奪われてしまいました。
その日から“娘にヘルメットをかぶせていたら”と自問自答しています。

(秋田明美さん)
私が 「気をつけてね」 と言葉をかければこうなっていなかったのかなって。子ども に「ヘルメットをかぶって」と言い続けなきゃいけないんだなと感じました。「ヘルメットをかぶって」 と言わず、ただ見ていただけでした。声をかけなかったことを   すごく後悔しています。

“娘の事故のことを知ってほしい”講演活動は約10年に

講演会であゆみさんの話をする秋田さん

秋田さんは、娘の事故のことを知ってほしいと講演しています。
県内の小中学校を中心に年20回ほど。
交通安全を呼びかけて、活動は約10年になりました。

あゆみさんが実際に使っていた学校と塾に行くときのかばん

講演会に出かける日にいつも持っていくものがあります。
それはかばん。あゆみさんの物です。
あゆみさんが事故に巻き込まれたあの日も使っていました。
このかばんに、講演に使う資料と、遺影を入れていきます。

「あゆちゃんがそばについている」

秋田さんはそのように感じていて、緊張がほぐれると話します。
講演中、当時のことを話すと、今でも涙をこらえられなくなることもあるそうです。
後悔で心が苦しくなっても、
「ヘルメットをかぶって」「交通ルールを守って」と強く呼びかけます。

“ヘルメットをかぶることの大切さ”知ってほしい

これまでに送られてきた感想文

秋田さんのこの思いは多くの人に届いています。
これまでの講演を通じて、もらった感想は数え切れないほど。
すべてに目を通しています。

(講演会を聞いた人たちから寄せられた感想)
「交通事故の怖さをあらためて感じた」「ヘルメットを着けて少しでも気をつけたい」

一人でも多くの人に知ってほしい。
自転車に乗るとき、ヘルメットをかぶることの大切さ。
感想文を見ては、交通安全への思いが強まり、講演を続ける励みにしています。

(秋田明美さん)
自分にできることは何があるのかを考えて家族と一緒に話し合ってみますというコメントが多くあります。これからも話していこうと私が前向きになれる大切な宝物 です。

秋田さんの思いが人形劇に

ことし、あゆみさんを主人公にした人形劇が完成しました。
制作したのは犯罪被害者を支援する岡山県のボランティア団体、「あした彩」です。
秋田さんの講演会を聞いたメンバーの大学生たちが、台本から人形までおよそ3年かけて準備してきました。

大学生が人形劇を練習する様子

小さい子にも理解してもらえるよう、人形の色ははっきり塗って、せりふを簡潔にしたりするなど工夫しました。

(ボランティア団体の中心メンバー・黒田栞古さん)
秋田さんの気持ちを一番大切にして人形劇を作っていこうと考えました。小学校低学年になると自転車に乗る子も増えてくると思います。この人形劇で聞いたこと、学んだことをもとに、交通事故に巻き込まれないよう、普段から意識してもらえればうれしいです。

(秋田明美さん)
娘のことをテーマにした人形劇を作って伝えようとしているその姿がすごくありがたくて、うれしくて、楽しかったです。交通事故は自分だけじゃなくて相手がいるということを、被害者や加害者になってからではなく、なる前に、皆さんに気づいてほしいです。

「ヘルメット着用」で致死率が4分の1以下に

令和5年の4月から自転車に乗る際のヘルメット着用が努力義務になりました。
岡山県内で去年までの10年間、自転車事故で死亡した人は146人います。
警察が分析したところ、頭のけがが致命傷となった人が最も多く64人、全体の43%を占めました。そして、ヘルメットを着けると、着けない場合に比べて、致死率が4分の1以下でした。

交通事故で悲しむ人が増えないために自分ができることの1つが「ヘルメットの着用」です。
「髪が乱れる」「暑くて蒸れる」「自転車を降りたとき邪魔になる」と言わずに、まずは着けてみませんか。
一歩踏み出すことが、自分の命と周りの安全を守ることにつながります。

  • 入江和祈

    岡山放送局 記者

    入江和祈

    2021年入局 警察担当として事件や事故などを取材

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