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新たな脅威“クリハラリス”

  • 2024年04月16日

 

外国から入ってきた生物のうち、
地域の生態系に特に悪影響を及ぼしかねない「特定外来生物」。
大分県はことし2月、このリストにある動物を加えました。
大分でも大きな影響が出かねず、“侵略者”に例えられることもあります。
いったいどんな動物なのか取材しました。(ディレクター 生形寛之)

かわいい"侵略者”

先月下旬、別府市の山中。県から依頼を受けた調査員が、その動物を探していました。

椿の木がやっぱ怪しいですよね

特定外来生物、クリハラリス。3年前、別府市で生息していることが初めて確認されました。

中国や台湾などアジアから持ち込まれ、日本各地に深刻な被害をもたらしています。

どんどん広がってしまうと、農業被害につながってしまうかもしれませんし、
すごく大分県は大きなリスクを背負った状態にあると思います

クリハラリスなぜ怖い?

クリハラリスはなぜリスクになり得るのか。専門家は、その習性に原因があると指摘します。

生息密度が高くなりやすい生き物であるということが怖い点ですね

専門家の調査によると、ニホンリスの生息密度は、10ヘクタールに2頭ほど。
それに対して、クリハラリスは、100頭規模の群れで暮らすと考えられています。
しかも、何でも食べる雑食性。果物や木の中に隠れた虫を食べることなどから、
大分県では大きな被害が出かねないと言います。

果樹栽培しているところにそれが到達すれば果物の被害が出るし、
椎茸のほだ木をかじって壊して中の虫を食べたりするんですが、
椎茸への栽培への被害っていうのも他の場所では知られてますから、
大分県内でも広がっていけば、そういう被害が起きるのは容易に想像できます

招かれた侵略者たち

クリハラリスがアジアから日本に来た最大の理由は、そのかわいらしい見た目にありました。
地域観光の資源にしようと、神奈川県や熊本県、
そして大分県など全国各地の公園や動物園に連れてこられたのです。

瀬戸内海国立公園の一部、大分市沖の高島。
1950年代、県は島全体を豊かな自然の中で動物が暮らす、動植物園にしようと計画。
その中心に据えたのが、クリハラリスでした。

しかし、放ったリスによって、思わぬ事態に見舞われました。
島に生息する天然記念物のカラスバトの卵や貴重なビロウの木が被害にあい、
生態系が危機に陥ったのです。

この木にもリスがかじった跡がたくさん付いてますね。
ここはたくさん付いてます。他にも、あの木ですね。
これにもリスがかじった跡がずっと付いてます。これにも付いてます。
クリハラリスはよその地域で進化してきた動物なのでこの島に入ってしまって、
その中で生態系のバランスを少し違う形に変えてしまっていた

外来生物に対する危機感が高まったのは、2000年代に入ってから。
高島ではおよそ2千万円をかけて対策が進められ、島内のリスはほとんどが捕獲されました。

リスが別に悪いことをしようと思ってやってきたわけではない。
人が持ち込んだものですのでリスにとってはとてもかわいそうな話だと思います

被害を食い止めるために

そうした中、別府市で見つかったクリハラリス。知らない間に生息域を広げていたのです。

ここにリスがいるってわかったときには何かの間違いだろうと思いました。

今年度、県が新たにつけた予算は、およそ2千万円。
被害を食い止めるための取組みが始まっています。

少しでもいると将来爆発的に増えてくることがあるので。
この特定外来生物クリハラリスを根絶するまで、そのリスクは続くと思います。

見つけたらどうすれば?

クリハラリスは特定外来生物に指定されており、

①飼育・栽培すること

②保管・運搬すること

③輸入・販売・譲渡すること

④野外に放つこと

この4つの行為が外来生物法によって原則禁止されています。

取材によると、九州にはニホンリスがいないため、
日中にリスを見かけたら外来種のリスである可能性が非常に高いといいます。
県ではクリハラリスなどの外来生物を見つけた場合は、
各市町村または県への連絡を呼びかけています。

取材後記

私も動物好きなだけに、取材していてかわいそうだなと心の中では思っていました。

ただ、高島での事例のように生態系への影響が懸念されるため野放しにはできません。

調査員や捕獲を担当する専門家も本音では動物好きですから、
今度の別府で発見されたクリハラリスを防除していくことについて気落ちすると同時に、
そもそも国内に無責任に持ち込んだことに対して残念だと話していました。

懸命に生きている彼らに罪はありません。
身近にあるこの問題は、ひとりひとりが自分事として考える必要があると思いました。

  • 大分局 ディレクター

    生形 寛之

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