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湯布院駐屯地に「第2特科団」 ミサイル防衛の拠点に

変わる大分の安全保障
  • 2024年04月15日

 

 

大分県由布市にある陸上自衛隊湯布院駐屯地。ここに置かれているミサイル部隊「西部方面特科隊」が「第2特科団」に格上げされた。「特科団」になることで、九州・沖縄に展開しているミサイル部隊を統括する司令部が置かれる。大分市では「反撃能力」を行使するため、敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」も保管できる大型の弾薬庫の建設も進められている。防衛力強化が進む中、大分県で今、何が起きているのか。
                                  (記者 志賀祥吾)

 

「第2特科団」発足の式典の様子

4月13日、湯布院駐屯地に展開している陸上自衛隊の「西部方面特科隊」を「第2特科団」に改編する式典が開かれた。

 

湯布院駐屯地の正門に掲げられた「第2特科団」の看板

陸上自衛隊に特科団がつくられるのは1954年に北海道に設置された第1特科団以来、70年ぶりのことだ。

 

12式地対艦誘導弾発射装置
  1. 第2特科団の定員は2200人程度。5つのミサイル部隊で編成される。
    (かっこ内は本部の場所)
    ・第2特科団本部および本部中隊(大分県由布市・湯布院駐屯地)
    ・西部方面特科連隊(熊本県熊本市・北熊本駐屯地)
    ・第5地対艦ミサイル連隊(熊本県熊本市・健軍駐屯地)
    ・第7地対艦ミサイル連隊(沖縄県うるま市・3月21日付けで勝連駐屯地に新編)
    ・第301多連装ロケット中隊(大分県由布市・湯布院駐屯地)

第2特科団の初代団長となった伊藤久史陸将補は、式典で次のように述べた。

 

第2特科団長 伊藤久史 陸将補 

この度の第2特科団の増強改編は、防衛力の抜本的強化の「象徴の1つ」であり、紛争を起こさせない抑止力を担う重要な部隊になったものと認識しています。特に、3月21日付けで奄美大島、沖縄本島、宮古島、石垣島に新編した第7地対艦ミサイル連隊の存在は南西地域の抑止力そのものです。(中略)この新たな第2特科団が危機の時代に、抑止を効かせる中心的存在となり、もって国民、地域住民に貢献し得る、健全で精強な部隊を作り上げていく覚悟であります。

特科団は「遠距離火力の切り札」

 

本松敬史 元・陸上自衛隊西部方面総監

陸上自衛隊で2つめとなるの特科団が設立された意義について、九州・沖縄の陸上自衛隊を統括する西部方面隊のトップをつとめた元陸上自衛隊幹部は次のように説明する。

昨今の我が国を取り巻く安全保障環境、非常に戦後、最も厳しいと言われている安全保障関係において、軍事力の質、量的に優勢な脅威、対象国が存在をしている。これに対して陸上自衛隊は、防衛力の抜本的な強化という、安全保障の3文書に基づいて、実効的な抑止と、対処を可能とすべく、防衛体制を強化していく。なかでも、領域横断作戦に必要な能力の強化をしっかりと構築していかなければならないという流れの中にあって、西部方面隊の遠距離火力の中核を担う西部方面特科隊に様々な部隊等を新編することによって、かなり拡充をして、第2特科団という、まさに対地、対艦、ピンポイントの攻撃の集中から、面制圧まで、様々な火力支援を行うことができる遠距離火力の「切り札」という特科団というものが今回新編されたということになる。

離島防衛想定「レゾリュート・ドラゴン」

 

日出生台演習場を走る自衛隊車両(去年10月)

大分の安全保障環境は大きく変わりつつある。2023年10月、「レゾリュート・ドラゴン」と呼ばれる国内最大規模の日米共同訓練が大分県でも行われた。陸上自衛隊日出生台演習場での訓練では、これまでで最多となる4100人が参加。オスプレイを使ったけが人の搬送訓練や、相手の離島上陸を阻止する実弾射撃訓練が行われた。

 

日出生台演習場に飛来したオスプレイ(去年10月)

陸上自衛隊西部方面総監部によると、オスプレイはアメリカ軍から6機、自衛隊から2機の計8機が参加。陸上自衛隊のオスプレイが「レゾリュート・ドラゴン」に参加したのは初めてで、西部方面総監部は「オスプレイの有効性を確認することができた」とその意義を強調した。ただ、オスプレイをめぐっては、去年11月、鹿児島県の屋久島沖でアメリカ軍のものが墜落し、乗員8人全員が死亡したほか、大分県でも去年9月、アメリカ軍の大分空港に緊急着陸するなどトラブルが相次ぎ、住民からは安全性に対する不安の声も多く聞かれる。

 

大分空港に緊急着陸した米軍のオスプレイ(去年11月)

戦闘機が“大分空港”に

「レゾリュート・ドラゴン」が行われた翌月の2023年11月、大分空港で初めて戦闘機の離発着訓練が行われた。自衛隊が2年に1度行っている大規模な演習の一環で、自衛隊の基地が使えなくなったことを想定。福岡県の築城基地に所属するF2戦闘機4機が相次いで着陸し、民間のタンクローリーから旅客機と同じ燃料を給油したあと、離陸した。

大分空港に着陸したF2戦闘機(去年11月)

 

空港近くの公園では訓練に反対する集会も

“大型”弾薬庫の建設も

訓練だけでなく、施設の建設も進んでいる。2023年11月、防衛省は大分市にある大分分屯地の敷地内に、大型の弾薬庫を2棟建設する工事を始めた。

 

陸上自衛隊大分分屯地(大分市鴛野)

この弾薬庫は敵の射程圏外からも攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」も保管できるとされる。九州防衛局によると、弾薬庫は敷地内の山にトンネルを掘って地下に整備される予定だが、地元からは「敵の標的になるおそれがある」として反対や不安の声が上がっている。

 

建設に反対する住民グループ

「防衛力強化」大分でも見える形に

安全保障問題に詳しい立命館アジア太平洋大学の綛田芳憲教授は、「政府は海洋進出を強める中国を念頭に南西諸島の防衛力を強化しているが、台湾に近い九州の防衛力も同時に強化する必要があると考えており、防衛力の強化が具体的に目に見える形になっているのがいまの大分だ」と話す。そのうえで、このまま配備を進めていくことに懸念を示している。

立命館アジア太平洋大学の綛田芳憲教授 (APU提供)

中国や北朝鮮の軍事力増強に日本も軍事力増強で対抗した場合、軍拡競争となり、かえって日本の安全性が低下することや民生経済が圧迫されることが懸念される。また、敵地攻撃力の保有は憲法が禁じる戦力の保有に相当するものであり、平和都市宣言をしている由布市や大分市が、違憲性の高い長距離ミサイルの配備やその弾薬庫の配備を問題視せずに、唯々諾々と受け入れることは不適当だ。

湯布院駐屯地がミサイル防衛の拠点に?

陸上自衛隊は令和6年末、第2特科団が配備された湯布院駐屯地に、新たに地対艦ミサイル連隊を配置する方針を明らかにしている。これによって湯布院駐屯地の定員はおよそ2400人と200人ほど増える見込みだ。本松元総監によると、現在は北の防衛を担う北海道の第1特科団が最大だが、新たな部隊の配備によって、第2特科団が自衛隊で最大の特科団になるという。

大分も安全保障の「最前線」に?

陸上自衛隊は去年11月のアメリカ軍の墜落事故を受けて見合わせていたオスプレイの飛行を、3月21日から再開した。陸上自衛隊は九州の部隊が南西諸島に展開していくうえで、オスプレイの機動力や展開能力に大きな期待を寄せているが、事故原因の詳細は明らかにされていない。また、国による防衛力強化に向けた取り組みが国民に浸透せず、沖縄では陸上自衛隊の訓練場の新たな整備計画をめぐり、地元住民の反発によって計画が撤回されている。国が防衛力の強化に力を注いでいる中、大分もその最前線に組み込まれようとしている。こうした時だからこそ、国にはこれまで以上に丁寧な説明が求められる。

  • 志賀祥吾

    記者

    志賀祥吾

    大分県竹田市出身。竹田高校OB。
    日田支局で10年間記者をしたあと、熊本放送局を経て、大分放送局に戻る。大分放送局では県政キャップを3年務め、現在は遊軍。由布市、豊後大野市、竹田市を担当。
    2児の父で趣味は料理。休日は大分市のかんたん港園周辺で釣りをしていることが多い。




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