温泉がヒラメを救う
和田弥月アナウンサー
2023年08月31日 (木)
東京・新橋の日本料理店で、最近、看板メニューとなっているのが、ヒラメのお刺身。
このヒラメ、大分の養殖場が出荷したものです。
出荷量日本一を誇る大分の養殖ヒラメですが、厳しい一面もあります。
(養殖業者)
「お金をかけても半数近くが死んでしまって、経営的にもつらい部分があった」
そんな中、ヒラメの養殖現場を改善しようというものが出てきました。キーワードは、大分が誇る「温泉」です。
温泉が養殖ヒラメをどのように救おうとしているのか、取材しました。
温泉から、傷口の腫れなどに効く藻の一種を発見!
温泉の湧出量日本一を誇る別府市にある、研究施設です。
この施設の会長、濱田茂さんです。
化粧品会社を経営する濱田さんは、以前から温泉の効能に注目していました。
(濱田茂さん)
「昔から温泉は体にいいねとか、そういう話がいっぱいあるんですけど、何かがいるんじゃないかということでずっと研究してきています」
濱田さんは研究を進める中で、あるものに注目します。
それは、温泉の中に入っている、体長3ミクロンの藻の一種です。80℃の強酸性の源泉の中にしました。
厳しい条件の中で生息するその生命力に注目して、研究を進めたところ、傷口の腫れや化のうを抑える効果があることが分かりました。
92番目に見つけたことから、「RG92」と命名。
特許を取得して、アトピー性皮膚炎の人も使える化粧品などを開発しました。
さらに、広島大学や順天堂大学などと共同で研究を進めたところ、体内へのウイルスの侵入を抑える効果があることもわかりました。
温泉がヒラメ養殖を救う
このRG92の効果に意外な人が注目しました。それはヒラメの養殖業者です。
佐伯市でヒラメの養殖場を経営する木野雄貴さんです。
ヒラメは免疫力が弱く、病気にかかりやすいため、体内にウイルスが侵入すると高い確率で死んでしまいます。
このため、稚魚から出荷にたどり着くのは、全体の6割ほどです。
育ちにくい上、エサ代や電気代の高騰もあり、最盛期には佐伯市内に250あった養殖業者は、16にまで減っています。
(木野雄貴さん)
「お金をかけても半数近くが死んでしまい、悪循環でエサ代も上がる、最悪な状態でした」
そんな中、知人を通して濱田さんの研究のことを知ります。
いちるの望みを託す思いで、RG92をエサに使いたいと相談したのです。
2人は去年3月から実験を始めました。
RG92を混ぜたエサと、そうでないエサをヒラメに与えて、その違いを調べました。
すると、RG92を与えたヒラメは、実験開始から4か月っても、まったく病気にかかりませんでした。
さらに予想していなかった効果もありました。通常のエサに比べて、食いつきが良かったのです。
8か月後、RG92を与えたヒラメは、そうでないヒラメに比べて、平均で300グラム以上重くなったのです。
(木野雄貴さん)
「まんべんなくエサを食べて、太りもいい。大きさだけじゃなく、厚みもつく。最終的に味はどうか心配したが、それがまさに相乗効果」
プロの料理人も認めるうま味!
木野さんが養殖したヒラメは、プロの料理人の間でも注目を集め始めています。
東京・新橋にある日本料理店です。
天然のヒラメに引けを取らないほど、うまみが強く、しかも年間を通して味が安定していると言います。
(日本料理店 料理人)
「脂の乗りはやっぱりいいですよね。淡泊すぎずにちょうどおいしい状態になっているのがすごいなあと思います」
(和田アナウンサー)
「とっても濃厚で、クリーミーです。すごく歯ごたえがしっかりしていて、弾力があります。本当にうまみがぎゅっと詰まっています」
(日本料理店 料理人)
「僕がすごく信頼を置いているのは、養殖場の中でお魚が死なない、健康的なヒラメだということなんです。クオリティも高いので、ぜひおすすめしたいヒラメです」
大分が誇る温泉が、出荷量日本一の養殖ヒラメを助けようという取り組み。大分ならではのコラボレーションが、新たな可能性を広げようとしています。
(木野雄貴さん)
「おんせん県の大分県で日本一の生産量を誇るヒラメ。この2つをくっつければ、強いブランドになると思ったんですよね」
(濱田茂さん)
「今まで化粧品という分野で研究してきたんですけど、それがこうして魚とかのお役に立って、よりこの研究を加速させて、多くの人に貢献できるように、ますます頑張らないといけないなと思っています」
ヒラメ以外にも広がる可能性
ヒラメ以外にも、シマアジやタイ、トラフグやチョウザメの養殖現場でも、RG92を使った実験が行われています。
また、スリランカでは、エビの養殖でも使われているそうです。
このほか、畜産の分野でも、RG92を混ぜたエサも使う取り組みが行われています。
大分の温泉が、食の分野でもその効果を見せようとしています。
引き続き、大分の温泉効果について、様々な角度から取材を続けたいと思います。