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親子で目指すパリパラリンピック 陸上・十川裕次選手
川又 優キャスター
2023年10月18日 (水)
来年、フランス・パリで行われるパラリンピック。この大会に大分から出場を目指すのが陸上の十川裕次選手です。
おととしの東京パラリンピックにも出場した十川選手、親子で2大会連続の出場を目指しています。その姿を追いました。
【大分から世界を狙う】
5000mでパラ陸上のアジア記録を持つ十川裕次選手。豊富なスタミナが武器です。おととしの東京パラリンピックでは1500mの知的障害のクラスで、初出場ながら9位に入る健闘を見せました。その経験は大きな刺激になったようです。
(十川裕次選手)
「パラリンピックは知的障害の世界の選ばれた人が出る大会なので、走って経験したことで『絶対次はやってやるぞ』という気持ちになった」
【練習する息子を見守る父 実は・・・】
練習に打ち込む十川選手を見守る男性。父親の崇さんです。実は崇さん、東京パラリンピックの直前から息子のコーチを務めています。寄り添いながら練習中も声をかけるなど、十川選手がリラックスできる環境作りを心掛けています。
(十川崇さん)
「やる気を出すような前向きな言葉をかけるようにしているが、頑張れと言うとシュン…とするから難しい」
【走ることが好き】
十川選手、3歳の時に知的障害と自閉症アスペルガー症候群と診断されました。幼い頃から走ることが得意だった十川選手。両親は健常者と区別せず育て中学校では野球部に入りました。
陸上競技を本格的に始めたのは高校から。駅伝の強豪、大分東明高校駅伝部に入部すると、2年生の時には全国高校駅伝や全国都道府県対抗男子駅伝に出場するなど頭角を現します。ただ、駅伝部は全員が寮生活でした。そのため当時は苦労があったようで。
(十川裕次選手)
「洗濯とか親元離れて自分でやらなきゃいけなかったので『部活を辞めたい』と親に電話してたんですけど、やっぱりここで辞めたら一生後悔するからとりあえず3年間頑張ろうという気持ちでやりました。あの経験が僕にとって財産です」
その後、大学から声もかけられましたが、高校卒業後は市民ランナーとして走り続けます。そんな十川選手がパラ陸上に取り組み始めたのは5年ほど前からでした。ただ、始めるにあたって葛藤があったというのです。
(十川選手)
「パラ陸上をやるっていうことは自分の障害を受け入れることだったのでそういう意味では嫌だったけど、『もうひとつの陸上競技に挑戦してみてもいいかな』って」
【父と母のバックアップ】
2度目のパラリンピックに向け練習に励む十川選手ですが、高校で駅伝部に所属していたようにもともとは長距離が専門です。しかし、パラリンピックの知的障害では、最も長い距離で1500m。いわゆる「中距離」です。このため、長距離とは異なり、中距離に特化した練習に取り組まなければなりません。その練習メニューを組むのが父の崇さんです。
(コーチのパソコンを見せてもらいました)
(練習メニューだけでなく移動時間も!)
崇さんのパソコンには、十川選手の練習メニューが入っています。その内容もとても具体的で、例えば走り込みに重点を置くのはいつ頃でどのくらいの距離をどれだけこなすかとか、筋力アップに重点を置くのはいつ頃で、その時はどこの筋力を鍛えるかなどなど、事細かく組み立てられているんです。その内容に、「さすがコーチ!」と思ったのですが、その根拠を聞くとこんな答えが返ってきました。
(十川崇さん)
「有名選手の練習をブログに載っているのを見て取り入れたりしています」
実は崇さん、陸上競技の経験がありません。有名選手のブログ以外にも、専門書を読み込んだり専門家から話を聞いたりして十川選手の練習メニューを組み立てているそうです。笑顔で話してくれましたが、ここに至るまでには試行錯誤が続いたと言います。
(十川崇さん)
「練習メニューの設定が大変ですよね。最初の頃はよく失敗していました。途中で走らなくなるとか「速すぎる!」「こんなの無理!」とかね。走れなくなっていましたね」
(私たちのやりとりを聞きながら少し恥ずかしそうに笑う十川選手
アスリートにとって、練習も大事ですが同じくらい大事なのが食事です。ここは食事は母親のケイ子さんがバックアップしています。
(おいしそうですよね・・・このメニューも計算されているんです)
ケイ子さん、栄養士からのアドバイスを受けながら、練習で筋肉が落ちないようにたんぱく質や炭水化物を多めにしているほか、食べる量や食べるタイミングにも細かく気を配っているそうなんです。
「母の味で一番好きなのは何か」、十川選手に聞いてみると。
(十川選手)
「お好み焼きです。いつもと違う食事をすると全然練習もできないし元気も出ない。すごくサポートしてくれているなと感じている」
ちなみにこのお好み焼き、脂が抑えられた野菜たっぷりのものなのだそうです。
この2年間、故障知らずだという十川選手。その背景には綿密に計算された父、崇さんの練習メニューと、母、ケイ子さんの食事のおかげもあるんです。
【課題の克服に向けて】
十川選手が出場を目指す陸上1500m。パリの切符を勝ち取るために、今、課題としているのが、“瞬発力の強化”です。この課題克服に向け、新たにバイクを使ったトレーニングメニューを取り入れています。その理由について、崇さんはこう話します。
(十川崇さん)
「長距離選手は一気にぐっと出すことをしない。できるだけ回転数を上げてパワーを高く出す中距離のための練習です」
練習では最初に一気にトップスピードに上げ、そのあとはスピードを落とさないように負荷をかけた状態で40秒間、一定の回転数でこぎ続けます。このメニューを行っている十川選手の息づかいが荒くなってくるなど、横で見ていてもかなり厳しいものなんだなと感じました。そんな十川選手に崇さんが声をかけます。
「頑張れ!キープキープ!ラスト!あと5秒」
【親子で目指すパリ】
どんな時も味方でいてくれる崇さんに、十川選手は全幅の信頼を置いています。
(十川裕次選手)
「父親であり、コーチであって人としても尊敬している。先を見ていってくれるので信じてやってきてここまである」
そのうえで、パリパラリンピックに向け、決意を語ってくれました。
「まずパラリンピックで選ばれること。勝てるようにいろいろ経験してパリパラではメダルを取りたい」
東京に続く2大会連続のパラリンピック出場を目指して。親子一丸となった挑戦が続きます。