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原子力総合防災訓練 避難めぐる課題は

新潟県で18年ぶりに実施 住民1400人あまりも参加
  • 2023年11月01日

 

東京電力が再稼働を目指す柏崎刈羽原子力発電所で重大事故が起きたという想定で、国や県など119の関係機関のほか住民1400人あまりが参加した訓練が、10月、新潟県で行われました。こうした訓練が新潟県で行われるのは18年ぶりで、取材すると避難をめぐり積み残されている課題が見えてきました。解説を交えてお伝えします。(新潟放送局 記者 伊藤奨)

放送した動画はこちら

刈羽村では”全住民避難”を想定

訓練は震度6強の揺れの地震が起きて柏崎刈羽原発で電源が失われ、原子炉の核燃料の冷却ができなくなったという想定で行われました。

東京電力・柏崎刈羽原子力発電所

全域が原発からおおむね5キロ圏内にある刈羽村は、今回の事故の想定では原則すべての住民の避難が必要です。村の中心部の体育館で住民が避難先の村上市に向かうバスに乗車しました。

 

乗車などの際、活用されたのは県が開発を進めるアプリです。QRコードを読み取ると事前に登録しておいた個人情報が行政側に伝わります。一刻を争う避難の際、個人情報を確認する上で時間の短縮になります。一方、手書きで行う住民もいて普及やサポートが課題になるという声もありました。

 

訓練の参加者

さらに放射性物質が放出され一時移転の指示が出されたという想定で、原発からおおむね30キロ圏内の住民が避難する訓練も行われました。放射性物質の付着を調べる「スクリーニング検査」の手順も確認。まず車両の放射性物質について調べ、基準を超えた場合は乗っていた人の測定を行います。
放射性物質が付いていた部分は拭き取って除染します。

広域避難など住民も参加

今回はこれまでで最大規模の訓練になり広域避難やスクリーニング検査などで住民が参加しました。
一方、不安の声が聞かれたのが今回の訓練では住民が参加する形で行われなかった「大雪への備え」です。

去年12月、原発事故の際の避難ルートに指定されている柏崎市の国道8号で、
大規模な車の立往生が発生。およそ38時間にわたり通行止めになりました。

これについて参加者からはより厳しい想定での訓練が必要だという声が聞かれました。

訓練の参加者
訓練の参加者

積み残された課題「大雪への備え」

今回の訓練では大きなトラブルはなく避難に関する手順などは一定程度、確認されていました。
一方、積み残された課題と感じられたのが住民からも懸念の声が聞かれた「大雪への備え」です。

 

柏崎刈羽原発からおおむね30キロ圏内に住む人はおよそ40万人で、県の広域避難計画では村上市や上越市など県内各地に避難することになっています。しかし去年のような記録的な大雪と原発事故が重なった場合、本当に円滑に避難できるのか地元からは不安の声が根強く聞かれます。

大雪との複合災害にも多くの課題がありますが、今回の訓練では住民の孤立への対応などが非公開で検討されました。その内容について内閣府の担当者は次のように説明しました。

 

原子力防災を担当 内閣府 森下泰審議官
避難の時は国道、高速道路を使うというのが基本になっていますからその道を止めない、止まった場合にはすぐに除雪する。それから雪の場合は家にとどまるということになるが屋内退避を継続できるよう支援体制というのが大事。物資供給など検討する必要があるんじゃないかと。

避難のための除雪、それに屋内退避の場合は物資の供給が重要になりますが、
今回はあくまで机上での非公開の訓練にとどまり住民が参加する形ではありませんでした。
これについて柏崎市の桜井市長は訓練の想定がまだ不十分だと指摘しています。

柏崎市 桜井市長
一番過酷なパターン、シチュエーションは冬・積雪時・夜間というパターンが一番厳しい条件になるだろうということを申し上げてきた。(今回は)まだそれほど過酷な気象状況のもとに行われた訓練ではない。今後やはり国による過酷な条件での訓練は必要なのではないか。

大雪の際の避難の想定では、放射性物質が放出されるなか除雪をどのように行うのか、物資を誰が届けるのかなど多くの議論が積み残されています。現在、国などは避難計画の作成を進めていますが、こうした問題への対応策を示し、訓練などで実効性を高めることができるのかが今後の焦点になります。

  • 伊藤 奨

    新潟放送局 記者

    伊藤 奨

    2016年入局。福井局、仙台局を経て2023年から新潟局。長岡支局で原発や中越地震からの復興などを取材。

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