令和4年8月大雨 新潟被災地 住民が新たな避難対策 村上・関川
- 2023年06月16日
2022年8月の記録的な大雨で、多くの住宅が浸水するなどの被害があった村上市と関川村。災害から10か月以上が経過しましたが、被災した集落では住民が主体となって新たな避難の方法を考え始めています。本格的な雨のシーズンを迎えるなか、対策の動きを取材しました。(新潟放送局記者 米田亘、藤井凱大)
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村上 小岩内集落 要支援者の「見守り役」決める
2022年8月に発生した記録的大雨で土石流が発生した村上市の小岩内集落。
多くの住宅が壊されたり、浸水したりしました。
災害の発生から10か月以上が経過し、流木の撤去や被害を受けた住宅の取り壊しが進みましたが、土石流が再び起きるおそれがあるとして発令された避難指示は、2023年6月16日の時点で解除されていません。
治水などの応急工事にメドがついたため、避難指示は本来、ことし春にも解除される予定でしたが、秋以降へ延期となりました。
集落の区長、松本一男さんです。
避難指示の解除が延期となった背景には、住民からの不安の声があったといいます。
小岩内集落 松本区長
去年の大雨のあとの出水時期の雨で、どんなあんばいか住民は様子を見たいわけですよね。前より復旧はしているんですけど復興までいっていない。
とくに住民が心配するのが「砂防ダム」です。
県は土砂の流入を防ぐため、2022年の水害のあと、集落の上流で「砂防ダム」のかさ上げ工事を進めています。
しかし完成予定は、2024年の12月。
いまの応急工事だけでは、大雨に耐えられないとの声が相次いでいるのです。
松本さんは、地区の住民には「もう1つの懸念」があるといいます。
松本区長
前の水害と合わせて2回水害を経験した方もいっぱいいるから。あのような水害がまたくるかもしれない。
56年前に発生し、県内の死亡・行方不明者が134人に上った「羽越水害」。
集落では2022年の大雨が2回目の被災となった人も多く、また水害が起きるのではないかと心配しているのです。
こうしたなか、集落では次の大雨に備えた新たな動きが。
松本区長
こちらになります。
集落でまとめた「災害時見守りカード」です。
1人暮らしの高齢者や、足の不自由な人などを「要支援者」に選定。要支援者1人に対し、地域の中から3人の「見守り役」の候補を決め、独自の「避難計画」の策定を目指しているのです。
松本区長
私の家はこのあたりなんですけど、支援を担当しているのはここのお宅と、ここのお宅。何かあった場合は最終的に確認して。大丈夫か確認して、私が一緒に避難することになる。
(記者:区長が不在だったら?)
同じ人を担当している人がほかに2人いるので、その人たちに支援してもらう。
区長が担当する1人暮らしの76歳の女性は。
皆さんのお世話になるけど、安心ですね。
(記者:何かあったときに見守ってくれる人がいることについては)。
ありがたいです。ありがとうございます。
松本区長
今後どのようになるか分からないですから。お年寄りなどが避難するときの助けになればいいなと。住民の声を聞いてなるべく早く帰れるように、不安を解消できるようにしなければならないと思う。災害以前のような暮らしに早く戻りたいです。
関川村 高田集落 村と連携 初の避難訓練実施
一方、隣の関川村でも動きが。
荒川に面した高田集落では、行政と集落が一体となり避難のあり方を検討しています。
去年の大雨では、集落を流れる支流が内水氾濫。ほぼすべての住宅が浸水しました。
避難において課題となったのが役場との情報共有。集落に河川の水位など詳細な情報が入ってこず避難の判断が難しくなったといいます。
そこで今月初めて行ったのが。
高田集落 区長
避難訓練の仮設本部を立ち上げます。
村役場と共同での避難訓練です。
集落独自ではこれまでも行ってきましたが、役場にも参加してもらい より実態に即した動きを確認することがねらいです。
訓練は対応が混乱した2022年の反省を受けて役場が新たに作成した「タイムライン」をもとに実施。
河川の水位に応じ連絡を密に取り合い情報を共有します。
役場から「避難準備」の情報が入ると。
高田集落 防災班長
荒川の水位がだいぶあがってきていますので、これから避難の準備をしてください。
住民に電話で避難の準備を呼びかけます。
これまでの連絡手段は固定電話だけでしたが、連絡網に携帯電話の番号も加えたり、集落のLINEグループを作ったりして、すべての住民に早く情報を届ける方法を模索しています。
(防災無線)
「訓練、訓練」
河川の水位が上がり役場から「避難指示」が。
集落の防災担当者が家を巡回して避難を呼びかけます。
防災班長
今、避難指示出ましたんで、川北小学校のほうに避難お願いします。
ただ、ここにも課題が。
防災班長
去年も3回まわったんですけど、いるかいないかの確認が分からないから、結局全部同じところをぐるぐるまわったんですよ。
今後は、避難したことが外から見ても分かるように意思表示ができるカードを全世帯に配り、避難する時に玄関に貼ってもらうことで確認の重複を防ぎたいとしています。
また、介助が必要な高齢者の避難も。
あらかじめ決められた支援者が家まで行き、介助しながら避難所に連れていきました。
役場も参加し実際の流れに沿って行われた初めての避難訓練。
得られた教訓を、集落の「避難計画」に反映させていきたいとしています。
地区の防災対策を担う 住民の田村弥一さん
訓練で一番大きかったのは村との連携。今までのはいっさいそれがなかったので、村と連携するということで、村にタイムラインを作ってもらったので、村と情報のやりとりをしながら、みなさま方に避難してくださいというタイミングでやれたことが一番大きいかなと思います。昨年の水害で意識が変わったと私は思っています。集落の避難計画をより改善していいものにすべきと考えています。
防災の専門家「持続可能な避難計画を」
防災の専門家は住民の主体的な動きを評価したうえで、「持続可能な仕組みづくり」が重要だと指摘しています。
新潟大学 災害・復興科学研究所 卜部厚志所長
地域のことは地域の中で何とかしないといけないんだ、ということを去年体験されているので。それを続けていくような、作戦を立てておくというのはすごくいいこと。高齢化が進んでいく地域だと思いますので、何か組織とかグループというのでやっていけるような方向性が個人的にはいいのかなと思います。
そのうえで。
10年先、15年先、20年先の継続性というのも課題になりますし、誰かが責任を持つということになってしまうと、負担がすごく大きくなって、だんだんそれが重荷になってくると思うんです。いまは「頑張ります」と言うでしょうけども、うまく10年先も動かしていける、長く引っ張れるやり方をみなさんでぜひ見つけていただけるといいかなと。