愛知のアサリ最前線 「おいしい!」けど「実は不漁?」
- 2023年07月06日
今回、マチコエ調査班に寄せられたのは、「愛知の潮干狩りの“人気の秘密”を教えて下さい」という質問。
たしかに愛知は潮干狩りが盛んなイメージがありますが、「なぜ人気か」は、あまり考えたことがありませんでした。
愛知の潮干狩りを徹底調査すると、アサリ漁業の現場で起きている問題も見えてきました。
(NHK名古屋 記者 大野浩志・山野瞭太)
愛知の潮干狩り なぜ人気?
愛知の潮干狩りの人気ぶりを確認するべく調査班が訪れたのは、県内屈指の潮干狩りスポット、西尾市の「吉田海岸」。
シーズン最後の日曜日で“大潮”ということもあり、遠浅の砂浜にはあちこちに潮干狩り客の姿が。
話を聞くと、県外から訪れる人も多くいました。
みなさんはどちらからいらっしゃったんですか?
静岡県から来た家族
「1時間半ほどかけて静岡から。楽しんでますよ、きょうは!」
僕らは岐阜で“海なし県”なので、家族一緒にコミュニケーションも取れるし一石二鳥かなと。
では、なぜ愛知を選ぶのか。
理由として特に聞かれたのは、アサリの「味の良さ」です。
貝の質が高いとお聞きして来ました。味はもう最高ですね。
おいしいって聞いたものですから、前に一度来てみたら本当においしくて。お味噌汁にしてもだしいらずで、おいしさに感動して。
愛知のアサリ おいしさのヒミツは?
では、なぜ愛知のアサリがおいしいと言われるのでしょうか。
続いてやってきたのは、愛知県庁。
水産課の担当者においしさのヒミツを聞いてみると…。
おいしさの秘密は“地形”にあります。伊勢湾・三河湾が愛知のアサリを育む土壌になっていると言っていいと思います
指摘したのは、2つの湾の“かたち”です。
いずれの湾も、外海からの入り口部分が狭くて、その中に湾内の水が広がっている“閉鎖性の強い湾”なんです。そういう所はアサリがよく育つんです。
この閉鎖した湾に、矢作川や豊川、木曽三川からたくさんの水が流れ込むことで、アサリの生育地となる干潟に豊富な栄養をもたらすのだといいます。
閉鎖性の強い湾では、陸域からの栄養が湾内にとどまる特徴があります。そのため、アサリが餌をたくさん食べて、まるまると太って、おいしくなる。これが、愛知県のアサリがおいしい要因なのかなと思います。
愛知のアサリに変化が?
愛知のアサリの“おいしさ”の謎は解けましたが、もうひとつ気になることが…。
潮干狩り客から、こんな声が多く聞かれたのです。
アサリの数が減ってる気がします。前のほうがもっととれたんで。
ピークの時は短時間で袋一杯分くらいはとれたんだけどね。帰るときに計測所で、とり過ぎた分は「返してくれ」って言われてたくらいだったから。
実は、愛知県内のアサリ類の漁獲量はここ10年ほどで、激減。
最盛期の10分の1ほどにまで減少しているんです。
この変化、アサリの漁業者はどう感じているのでしょうか。
帰港してくる漁師さんたちに実感を尋ねると…。
きょうはいかがですか?
きょう?いまいちだね。去年なんか、この半分くらいしかとれなかったし、おととしはこの小さいかごに1杯くらいしかとれんかった日もあったよ。
不漁が長引く中、アサリ漁から離れる人も多いといいます。
吉田漁業協同組合 中島万三樹 組合長
「続けても、生活できゃせんからね。それまではこの港も、ずーっと船が並んどったんだわ、アサリ屋さんの船が。もう今はガラガラでしょ」
話を聞いていると、こんな方も。
農業との兼業を始めた漁師
「もう30年くらいアサリやっとるけどな、この5~6年は食ってけんで、いろいろアサリ以外のこともね。今はイチジクとシジミも少しやって。このところは若い連中もけっこう辞めて、サラリーマンになった人も多いよ」
アサリ減少の理由は… 〇〇を頑張りすぎた?
愛知のアサリはなぜ減ってしまったのか。
答えを求めて向かったのは…
南知多町にある愛知県水産試験場・漁業生産研究所。
アサリの減少を研究する日比野学 主任研究員に、質問をぶつけてみました。
ずばり、愛知のアサリが減少している理由は何ですか?
いろんな理由が考えられますが、一番は“エサ不足”です。エサとなる植物プランクトンが減ったせいで、アサリの身がどんどん痩せてきて、体力や活力が低下して、死にやすい状況が発生しているんです。
日比野さんによると、海の栄養分である「窒素」や「リン」が減ったことにより、アサリのエサとなる植物プランクトンも減少し、結果としてアサリが減少したとのこと。
では、海から窒素やリンが減ってしまったのはなぜなのか。
その理由は意外にも、生活排水を“浄化し過ぎた”ことだといいます。
下水処理自体は当然やるべきことですが、今は、海に流れ込む窒素やリンがアサリに必要な水準よりさらに低くなる状況まで削減してしまっている状態なのかなと考えています。窒素やリンの処理のやりかたを、ひたすら『削減』するという考え方から『管理』という考え方に変えていくことが重要なのかなと思います。
あの手この手 アサリ回復作戦!
日比野さんが語る、「削減」から「管理」への方向転換。
実は、愛知では数年前から、県をあげての対策が始まっているんだそうです。
こちらは、下水の処理を行う矢作川浄化センター。
海の栄養を適度に保つため、窒素やリンの浄化の度合いをコントロールし、海に流れる量が減りすぎないようにしています。
窒素とリンはすべての生物の養分になりますし、あくまで法律の基準内での放流になるので、人間や環境に害はありません。
さらに、水産試験場ではアサリを守るためにこんな対策も…。
これは?
これは生分解性(微生物の働きで自然に分解される性質)の「網袋」です。この網袋に1.5cmから2cmほどのアサリの稚貝を入れておくことで、アサリを食べる生き物などから守ることができます。アサリが十分な大きさに成長する頃には、海水中で自然に分解されるようになっています。
このほかにも、愛知県では海底に砕石をまくことでアサリにとって暮らしやすい環境をつくる取り組みも行っています。
アサリはふだん、砂の中にもぐって生息していますが、干潟に存在する通常の細かい砂の場合、波の水流などによって砂ごと掘りおこされることがあります。そのたびに、また一定の深さにまでもぐろうとするため、エサ不足に加えて無駄なエネルギーまで使ってしまうことになり、さらに弱ってしまいます。
なるほど…アサリが疲れちゃうんですね。
この砕石を海底にまくことで、海底が安定するので、アサリにとって暮らしやすい環境になるんです。
こうした取り組みの成果か、ここ2年はアサリの漁獲量がゆるやかに回復し始めました。
日比野さんも手応えを感じているようです。
愛知県水産試験場 日比野学 主任研究員
「対策の効果が現れてきたという期待感があります。愛知県のアサリって、唯一無二の食材だと思うんです。まずは、漁業者さんがアサリで漁業を営めるような環境づくりを進めていくことが、これからの愛知の食文化にとっても大切なことだと思います」
今回の調査結果は…
今回の調査結果です。
愛知の潮干狩り、人気の秘密はアサリの「味のよさ」。
そこには、愛知の湾や川などの地形が関係していました。
そして、アサリのとれる量が減っているという実態。
そこへのさまざまな対策も進んでいることが分かりました。
取材した漁師さんたちの話でも、この1、2年は少しずつ回復していると実感を語っていました。
愛知のおいしいアサリが、このままたくさんとれるようになってほしいです。
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