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アートで伝える海洋ゴミ問題

  • 2024年03月29日

    長崎の離島、対馬には大量の海洋ゴミが漂着します。回収が追いつかず対応に苦しむ対馬市は、ゴミからアート作品を作って販売し、この問題に関心を持ってもらう取り組みを始めました。
    (NHK長崎放送局 ニュースカメラマン 奥瀬拓也)

    アート作品は海洋ゴミから

    海洋ゴミで作られたアート作品

    木枠の中にびっしり詰まっているのはプラスチック容器の一部や漁網です。
    これは海洋ゴミでできたアート作品です。ゴミで覆われた対馬の海岸を表現しています。
    材料はすべて長崎県対馬市の海岸に流れ着いたゴミです。

    押し寄せる海洋ゴミ

    国境の島、対馬。
    海流と季節風の影響で年間約3万から4万立方メートルもの海洋ゴミが流れ着き、
    その約7割は海外から来ていると言われています。

    対馬の海岸に押し寄せる海洋ゴミ

    海岸を覆うのはペットボトルや絡まった漁網。
    中には、さびた大きいボンベに冷蔵庫まであります。

    海岸に転がるさびたボンベ

    今回、環境問題の解決に取り組む対馬市職員、久保伯人(くぼ・はくと)さんに海岸を案内してもらい、海洋ゴミの現状を教えてもらいました。

    年間約3億円。
    対馬市が海洋ゴミ回収にあてている予算です。
    多額の回収費は市の財政を圧迫しています。
    しかし、これだけのお金をかけても回収できるのは全体の3割ほどです。

    対馬市職員 久保伯人さん

    このまま海洋ゴミを放置しておくと対馬の美しい景観が失われるだけでなく、
    漁業や船舶の運航、さらに生態系にも悪影響を及ぼすとされています。

    理由のひとつが海洋ゴミのマイクロプラスチック化です。
    流れ着いたプラスチックゴミが紫外線や波によって細かく分解されて小さくなり、
    再び海に流れ出すと回収が困難になると考えられています。

    マイクロプラスチック化していく海洋ゴミ
    久保さん

    対馬の問題ではあるんですけど、決して他人事ではないんです。このままでは日本海にもゴミが広がっていろんな所に悪影響が出る可能性が非常に高いと思います。

    対馬の海洋ゴミをアートに

    次々に押し寄せる海洋ゴミを本気でどうにかしたい!
    対馬市はゴミを活用したアート作品をアーティストに制作してもらい、市が販売することにしました。
    作品を通して海洋ゴミ問題を広く知ってもらい、その収益をゴミの回収費用にあてようと考えたのです。

    今回、市が作品の制作を依頼したアーティスト、しばたみなみさんです。
    福岡を拠点に海洋ゴミでアート作品を制作しています。

    作品を制作するしばたさん

    10年ほど前、海岸清掃に参加したのをきっかけに、海洋ゴミで作品を作るようになったしばたさん。
    これまで、海洋ゴミを材料に使った作品を多く作り、環境問題について発信するなど活躍しています。
    2021年には、海洋ゴミ対策の優れた取り組みを表彰する「海ごみゼロアワード」で環境大臣賞も受賞しました。

    日本各地で作品を作るしばたさん

    以前から、対馬の海洋ゴミ問題の深刻さを聞いていたしばたさん。
    実際に海岸を訪れた時、その光景にあぜんとしました。
    特に海洋ゴミの多い対馬で作品を作ることで、海洋ゴミ問題についてより強いメッセージを発信できるのではないかと制作を引き受けました。

    作品の “素材” を集めるしばたさん

    しばたさんは連日、対馬各地の海岸を歩き回り、海洋ゴミの中から作品の“素材”を集めました。

    しばたさん

    現地で拾ったもので作って、それを見てもらう方が伝わるんじゃないかなと思って。
    なるべく持ち帰りたいので、ついつい集めるかごもいっぱいになりますね。

    作品のアイデアは “ほこら” から

    対馬ならではの作品を作りたい。
    しばたさんはそのアイデアを求めて島内を巡りました。

    その時、目に留まったのが町のあちこちにある「ほこら」。
    地域で大切にされ、地元の人が朝早くにお参りやお供えものをしている光景が見られます。

    ほこらにお供えものを運ぶ女性

    何も知らない人は気づかずに通り過ぎてしまうかもしれないけど、
    ほこらは地域の人にとって心の支えになっている。
    しばたさんは、対馬の人が大切にするほこらをモチーフに海洋ゴミで作品を作ることに決めました。

    作品を制作するしばたさん
    しばたさん

    ただのゴミからありがたい存在、新しい存在に変えられたらなと思って。
    なんでこんなところに(ゴミが)流れて着いているんだろうという想像力を使ってもらって、いろんな視点から作品を見てもらえたらと思います。

    しばたさんは対馬各地を訪れ、島への理解を深めながら1ヶ月間住み込んで制作に没頭しました。 

    対馬の海岸を訪れて感じたことを表現

    2月下旬、完成した作品がお披露目されました。
    できあがったのはほこらをモチーフにした6つの作品。
    対馬各地の海岸を訪れて感じたことを表現しました。

    完成した作品

    そのひとつが「REAL・現時点」という作品。
    金属片やプラスチックなど10種類以上のゴミをほこらいっぱいに詰め、
    特に海洋ゴミが多かった海岸を目にした衝撃を表現しました。

    作品「REAL・現時点」

    ほこらの中にぎっしりと詰まった海洋ゴミは、私たちが直視しないといけない現実を表しています。
    溶けたプラスチックなど、生々しい素材をあえて多く使いました。
    そして今こそ自分たちの行動を変えて未来を変えていくんだというメッセージを込めて、
    基準点や出発点を表す「0」を円形状のゴミを用いて表現しました。

    ぎっしりと詰め込まれた海洋ゴミ

    作品を見に来た人は興味深そうに、作品の細かい所にまで目をこらしていました。 

    作品を
    見た人

    ゴミについて考えるきっかけになるので
    そういう機会があるのがすごくありがたいです。

    対馬の海洋ゴミを使って完成させた作品。
    しばたさんにはアート作品を通じて実現したいことがあります。

    しばたさん

    たくさんの方に見てもらって、最終的には私が作品を作れなくなる状態、
    海岸から漂着物やいわゆる海ゴミが無くなる世界になったらうれしいです。

    対馬市は今後しばたさんの作品を販売し、海洋ゴミの回収費用の一部にあてる予定です。
    そしてさまざまなアーティストと協力して作品を作り続け、海洋ゴミ問題の解決を目指したいということです。

      • 奥瀬拓也

        長崎放送局ニュースカメラマン

        奥瀬拓也

        2020年入局
        環境問題や平和をテーマに取材

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