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長崎 日本版海兵隊!?自衛隊の”水陸機動団”ってなに?

  • 2022年10月20日

基地の街を渡り歩いて・・・

佐世保市にある支局に着任し、この街で暮らし始めてまもなく1年。街を歩いていても、コンビニの駐車場でも、信号待ちでも、制服姿の隊員や兵士を見かけます。歴史を振り返っても、いまの姿を見ても、行政、経済、くらし、あらゆる面で佐世保は米軍・自衛隊と密接につながり続けています。ただ、少したってから、同時にある思いも抱き続けてきました。

「思ったより、米軍や自衛隊の素顔を知らない人も多いのでは?」

15年前に入局して以来、沖縄、広島、東京で勤務し、沖縄、呉、岩国などの基地の街や部隊を見てきました。東京勤務時代には防衛省・自衛隊を4年間担当し、全国の部隊や海外での活動も取材してきました。米軍・自衛隊については、ただでさえ“機密事項”が多いことに加え、国際情勢とともに、近年は米軍も自衛隊も組織体制や任務内容がめまぐるしく変化し、関心を持っている人でも、最新情勢をフォローしていくのは大変だと思います。

自分が暮らす街の自衛隊はいまどこでなにをしているのか。初心に返って、取材してみました。
                         

佐世保支局 記者 喜多祐介
 

 

「3分隊、地雷設置!」「引き続き前方警戒!」「撃て、撃て、撃て!」

白煙の中から突然姿を現す装甲車。茂みに身を潜め、射撃や全力疾走を繰り返す隊員たち。高校を出たばかりで、顔にまだ幼さが残る隊員も少なくありませんでした。

佐世保市に拠点を置き、全国で唯一の上陸作戦の専門部隊として2018年に創設された、“日本版海兵隊”とも言われる陸自・水陸機動団。これまでメディアに公開されてきたのは、上陸する際の車両・ボートと、そこから降り立つ隊員たちの様子ばかりで、その実態はベールに包まれています。

今回は、この水陸機動団の実戦的な演習現場を、初めてNHKが密着取材しました。

"フル装備" 大分県で大規模演習

2022年10月上旬。案内されたのは、大分県にある陸上自衛隊・日出生台(ひじゅうだい)演習場でした。温泉で有名な別府や湯布院からほど近いところにある、広大な演習場です。敷地内に入ってから部隊の姿を見つけるまでに、車で10分ほどかかりました。
機密保持のため多くの制限がある中で、取材が始まりました。

見えてきたのは、迷彩塗装が施された大量の車両。海でも陸でも移動することができる、「AAV7」(エーエーブイ・セブン)と呼ばれる水陸両用車です。これまでのメディア公開で目にするのは数両ほどだったため、15両が整然と並ぶ様子は初めてでした。隊員たちも、小銃や機関銃、それに対戦車用の武器など、いわゆる“フル装備”状態でした。

この演習は、陸上自衛隊が九州の部隊を中心に5000人規模で行っていたもので、水陸機動団からもおよそ700人が参加していました。

想定する事態は離島の防衛。演習場を海と島に見立ててエリアを区切り、2つの部隊が対戦する形式で行われます。水陸機動団が“攻め”、陸上自衛隊・第8師団が“守り”となる役割で、水陸機動団にとっては、占領された島に上陸して、奪還する作戦。第8師団は、熊本に司令部を置き、鹿児島の離島など九州の大部分を管轄する部隊です。第8師団にとっては、上陸しようとしてくる勢力から島を守る訓練になります。

態勢を整えて臨む“守り”と、切り崩していく“攻め”では、難易度が異なります。陸上自衛隊は、戦後長い間、陸地での守りを想定して部隊配備を進めてきました。そうした中で“攻め”を主として、ましてや陸地ではなく海から隊員を展開させていくことが求められているのが、水陸機動団の特徴です。
 

なぜ水陸機動団は創設されたのか?

海岸から離島への上陸(長崎県宇久島での演習にて)

水陸機動団が創設されるきっかけとなったのは、アジアの安全保障における中国の急速な台頭です。中国は南シナ海での管轄権を主張し、この10年ほどの間、人工島を造成するなどして事実上の軍事拠点を次々と建設してきました。そして、沖縄県の尖閣諸島周辺にも公船をたびたび送り込み、領有権を主張する活動を活発化させるようになりました。こうした国際情勢の変化を受けて、防衛省は日本に数多くある離島の防衛強化に乗り出すことになったのです。

長年、陸上自衛隊は旧ソ連を念頭に、専守防衛のもとで北海道に多くの戦車を置くなど、“北の守り”を重視してきました。大きな転換点のまっただ中なのです。
 

離島防衛 どんな作戦を想定?

その離島防衛の方法は、大きく2つに分かれます。
基本となる1つ目は、外からの勢力が日本の島に侵攻してくる兆候がある時点で、先んじて離島に部隊を展開させて、迎え撃つことです。これは、島が日本のコントロール下にあるという前提で行われる対応です。

一方で防衛省は、万が一、侵攻を許してしまった場合への備えが必要だと考えました。それが2つ目で、海から陸に上がって島を奪還する上陸作戦を専門とする部隊を作ることにしたのです。それまでごく一部の部隊のみが訓練していたことを、アメリカ海兵隊を参考に、3000人規模の大部隊を作って対応することにしたのです。

拠点として選ばれたのは、日本の西側に位置する長崎県・佐世保市にある相浦駐屯地(あいのうら)でした。

アメリカ海兵隊とは、陸軍、海軍、空軍と並ぶ、海軍省に属する軍隊の1つです。各国の軍には主に陸、海、空が編成されていますが、それとは別に第4の組織として編成されているのが海兵隊です。海からの上陸作戦を得意とし、敵地で武力行使することを前提にしたいわば外征部隊で、アメリカ海兵隊は「即応部隊」と位置づけて、世界各地の戦闘から災害対応まで幅広い任務を行っています。

もちろん自衛隊は軍隊ではありませんし、いわゆる「海外派兵」は自衛のための必要最小限度を超えるものであり、憲法上許されないとされているので、アメリカ海兵隊とは組織形態や規模においても大きく異なります。ただ、海から陸に“切り込んでいく”スタイルから、水陸機動団は“日本版海兵隊”とも言われています。すでに敵対勢力が島を占領しているという厳しい状況下での作戦が求められるため、上陸する際のノウハウや、海や空の部隊との連携が必須の、これまでとは違う能力が求められることになり、新たな訓練が必要になっているのです。
 

特殊装備に 最新の武器も

そのため装備や隊員たちが携行する物も、これまでとは大きく異なります。さっそく、現場隊員に説明してもらいました。

「AAV7」 よく見ると左右で形状の違いがある

例えば、冒頭でも伝えた、この部隊の顔とも言える、「AAV7」。AAVは、水陸両用の急襲車両という意味の「Assault Amphibious Vehicle」の略称です。全長およそ8メートル、重さおよそ25トンで、海上を船のように航行しながら進み、そのまま地上を走行することができます。最大速度はおよそ70キロにもなります。
水陸機動団にのみ配備されていて、これまでのメディア公開でも何度も見かけますが、実は3種類あります。

①最も多いのは、隊員の輸送用。20人あまりを輸送でき、武装もしています。
②アンテナがたくさん取り付けられた、指揮機能に特化したバージョン。
③攻撃を受けるなどして故障したAAV7をけん引する、クレーン搭載型です。
それぞれ役割が違い、今回のような大規模演習には3種類とも参加していました。

AAV7に乗って上陸する隊員たちも、ほかの部隊にはない装備を携行しています。
徒歩で動く「普通科」と呼ばれる隊員たちは、ただでさえ武器や弾薬、それに通信機器や食料など大量の荷物を持って移動しますが、それに加えて空気ボンベも欠かせません。万が一、AAV7が海で沈んだ場合に備えたものです。

余談ですが、「普通科」は、各国の軍隊でいう「歩兵」のことです。日本では戦後、軍隊を連想させる「兵」などのことばを使わず、自衛隊の前身である警察予備隊のころから、例えばいわゆる「歩兵」を「普通科」とするなどの言い換えが行われました。ほかにも、いわゆる「砲兵」は「特科」と呼ばれていて、防衛省によると、自衛隊発足後も「戦車」を「特車」と呼んでいた時期もあったということです。

配備されたばかりの「20式5.56mm小銃」

隊員たちの武器も、ほかの部隊とは異なるものでした。
およそ30年ぶりに更新されることになった、普通科部隊のメイン武器です。いわゆるライフル銃ですが、ことし導入されたばかりの「20式小銃」(にー・まる)という最新型も、全国に先駆けて配備されていたのです。新しい「20式」は、これまでの「89式(はち・きゅう)」と比べて銃身が短くなり、操作性が向上されています。また、対環境性能も上がり、多くの付属装備も取り付けられるようになっているものです。
 

“上陸時が最も脆弱点”

いよいよ実動訓練です。

演習は約10日間の日程で行われていました。シナリオの詳細は機密だとして明かされませんでしたが、数日間かけて、少数精鋭の偵察部隊が先乗りしたり、実際の射撃はありませんが、海と空の部隊からの支援攻撃が行われます。そして、水陸両用車、偵察ボート、そしてオスプレイなどを使って3か所から同時に上陸するという流れでした。
この日は上陸を前に、AAV7の部隊が上陸と、その後の部隊展開の最終確認を行っていました。
 
上陸地点でカメラを構えて待機していると、AAV7が近づいてきます。すると突然、大量の白煙を吐き出しました。あたり一面が真っ白になり、どこに何両AAV7がいるのかわかりません。相手に見つかって、隊員が降りる際に集中攻撃を受けないための動作です。煙の中から威嚇射撃をしていた時もありました。

白煙の中から出てきたAAV7

煙の中から、隊員たちが飛び出してきます。全速力です。
重さ8キロほどのカメラを担いだカメラマンも、必死で追いかけます。隊員たちは、一定範囲内に散らばると、一度その場にとどまります。先行する隊員たちに導かれ、じわじわと姿勢を低くして進んでいきます。

「3分隊、地雷設置!」「引き続き前方警戒!」「撃て、撃て、撃て!」

すると、大きな丸いものをもった隊員たちが一気に前に駆け出しました。相手の戦車などの車両が近づけないように、地雷を敷設するためでした。

あっという間に先の方に進み、気づいたら地雷が敷設されていました。その後も、“静と動”を繰り返し、じわじわ前進していくと、相手に見つかります。

応戦するため、対戦車用の武器などを撃ってはすぐ移動し、撃っては移動しを繰り返しながら、前進を続けていました。

ひととおり動作確認をしたあと、隊員たちが集まりました。地雷の場所は適切だったのか、小隊同士の連携はどうだったのか、通信は的確にできていたか。少しの遅れが命取りになるとして、改善点をこと細かく共有していたのです。

この部隊を指揮していたのは、第1水陸機動連隊・第3中隊長の安田匡宏3佐です。

隊員たちに向けて、「上陸地点は一番危ないポイントになる。ここには敵が準備した火器がたくさん向いている。海岸の地形が狭いことはわかっていて、ここで止まらず速やかに移動・分散することが重要だ。また、AAVには火力も防御力もあるので、もっとうまく使いこなさないとだめだ。動いていなければただの的(まと)になるだけだ」とげきを飛ばしながら、細かな指示を出していました。

第1水陸機動連隊 第3中隊長 安田匡宏3佐

(安田匡宏3佐)
「私たちには、唯一無二となる海から地上に乗り上げる能力をもって、侵攻された離島をいかに奪還するかが求められています。今回の演習では対抗部隊が強い敵という想定のもとで、いかに海から陸への脆弱点を克服しながら力を組織的に発揮するかが焦点になります。また、9月以降に入隊したばかりの18歳の隊員も多いので、基本的な訓練も繰り返していく必要があります」

EABO アメリカ海兵隊の新戦略

いま、水陸機動団のカウンターパートとも言えるアメリカ海兵隊も新しい国際情勢への対応を迫られています。インド太平洋地域を重視する戦略の中で、「EABO(機動展開前進基地作戦)」と呼ぶ構想を新たに打ち出しているのです。

「EABO」とは、「Expeditionary Advanced Base Operations」の略で、攻撃や侵攻を受ける前兆があった際、敵の勢力圏内の離島などに対艦ミサイルなどを装備した小規模の部隊を分散して緊急展開させ、拠点を確保するというものです。これまでの作戦との違いについてアメリカ海兵隊は、「各部隊がさまざまな態勢を組み合わせることで、敵の攻撃が届く範囲において、戦闘か非戦闘かを問わずに、影響力を確保する点にある」としています。

2022年3月には、この新作戦に伴ってアメリカ・ハワイに「海兵沿岸連隊」という部隊を立ち上げていて、アメリカ海兵隊は、自衛隊との新たな連携の模索を進めています。

水陸機動団 その行く先は・・・

現場部隊では若い隊員が少なくなかった

水陸機動団はこれまで、今回の日出生台演習場といった自衛隊の敷地内だけでなく、長崎県の宇久島や鹿児島県の種子島といった各地の離島や海岸で、実際の上陸訓練を繰り返してきました。
さらに、ことし7月以降は、陸自のオスプレイを使った訓練も新たに始まりました。
そして水陸機動団は2023年度末までに同じ長崎県内にさらに連隊を1つ増やし、いまのおよそ2400人から3000人を超える規模に拡大する計画で、九州各地で演習はさらに増加していくとみられています。

日本の守りを固めるためだとして強化が進められている自衛隊に、私たちはどこまで、どんな任務を担わせていくのか。まだ幼さも残る隊員たちの顔が忘れられない取材になりました。

  • 喜多祐介

    NHK長崎放送局佐世保支局記者

    喜多祐介

    平成19年入局
    沖縄局、社会部、広島局を経て、佐世保支局。防衛省・自衛隊を4年間担当。

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