NHK長崎 自衛隊・水陸機動団長に聞く 有事の備えは?
- 2022年11月10日

インタビューを申し込んでから話を聞くまで、約1か月かかりました。
インタビュー先は、佐世保市にある陸上自衛隊・水陸機動団の梨木信吾団長。
九州を中心に全国各地で行われている訓練の視察や会議出席の出張で、なかなか時間がとれなかったそうです。
当日。
佐世保市の中心部から少し離れた相浦駐屯地を訪ねると、ヘリコプターも飛行するなど、朝から多くの隊員たちが訓練を行っていました。

部屋を訪ねてあいさつをすると、壁には大きな世界地図と、九州から沖縄にかけてのエリアを示した地図、それにアメリカ海兵隊との共同訓練の写真などが掲げられていました。手短に説明を受けたあと、さっそくインタビューを始めました。
(NHK佐世保支局 記者 喜多祐介)
全国で唯一の部隊

記者)水陸機動団の特徴、存在意義は?。
(梨木団長)
「北朝鮮によるたび重なるミサイルの発射、そして中国の海洋進出など、日本の安全保障環境は非常に厳しいものがあると認識をしています。そうした中で、特に離島の防衛を考えると、やはり万が一、島をとられた場合に“奪回する”という機能が非常に重要になってきます。この奪回能力を全国の部隊の中で唯一持っているというのが、大きな存在意義になると思います。
また特性としては、水陸機動団は陸上自衛隊ですが、奪還作戦は当然、私たちだけでは成し遂げられませんので、海上自衛隊、航空自衛隊との連携や、統合運用作戦をやっていくというところが大きな特色になります」
“レディ(準備完了)の状態”
記者)創設からもうすぐ5年になります。部隊の錬成状況は?
(梨木団長)
「創設以来、陸上自衛隊としての能力を基盤にしながら、海上自衛隊や航空自衛隊との統合訓練、そして、特に海兵隊を中心としたアメリカ軍との共同訓練、そして多くのパートナー国との共同訓練、さらには、警察・海上保安庁との連携訓練などを通して、能力を着実に積み上げてきました。隊員1人ひとりは高いレベルにあり、いわゆる『レディ(準備完了)』の状態にあるというのが私の認識です」
“米軍との相乗効果”
団長が最も強調したのが、アメリカ海兵隊との連携強化でした。
記者)この4年あまりで見えてきた課題とは?
(梨木団長)
「これから能力を伸ばすためにチャレンジしていく必要があるのが、日米の『共同運用体制』です。アメリカ海兵隊が今進めようとしている『EABO構想』、そしてアメリカ陸軍の『マルチドメインオペレーション構想』。そういったものとの適合性をにらんでいかなければいけないと考えています」

団長が挙げた、「EABO(機動展開前進基地作戦)」。
英語の「Expeditionary Advanced Base Operations」の略称で、アメリカ海兵隊が打ち出している新たな作戦構想です。
概要としては、敵の攻撃範囲内の最前線エリアに、対艦ミサイルなど小規模の部隊を離島に分散させて配備し、一時的な拠点をたくさん確保するというものです。これまでとの違いについてアメリカ海兵隊は、「敵の攻撃が届く範囲においても、影響力を確保する点にある」としています。
(梨木団長)
「特に、アメリカ海兵隊とは常日ごろから密接に連携して対処力を高めていますが、「EABO構想」というのは、戦域の中で多くの部隊が関係してくる。サイバーや宇宙など多くの領域を横断しながら、情報収集や兵站活動(補給などの後方支援)を継続して目的を達成するという観点で、非常に親和性があります。アメリカ軍の構想をしっかり勉強しながら、私たちの強み、アメリカ軍の強みの相乗効果を発揮し、抑止力・対処力をしっかりと高めていかなければいけない。それがチャレンジだと思っています」
有事への想定は?
アメリカ軍とのリアルな連携を説明した梨木団長。
ここで、いまニュースでよく耳にする「台湾有事」への備えはどうなっているのか、質問しました。

記者)実際、「台湾有事」についてはどんな対応を想定をしている?
(梨木団長)
「東アジア地域は、いまやはり安全保障上のホットゾーンになっています。そのため私たちの能力をしっかりと着実に育てていかないといけないのです。細部の内容については運用上の観点から答えを控えさせていただきたいが、特定の国、事態というものにフォーカスをして訓練しているのではなく、あらゆる任務、あらゆる事態にしっかりと対応できることを念頭に置いてます。付け加えるなら、抑止という観点で、戦いに至らないようにするのが第一だと思っています。戦わずして勝つために、実力をつけています」
有事にならないことを最優先している考えを示した上で、明言を避けた梨木団長。
現役の部隊指揮官が具体的な内容を語るのは、やはり難しいようでした。
九州各地での訓練増加か

水陸機動団の隊員数は現在、約2400人。2023年度には、「連隊」という大きな部隊を1つ追加して長崎県大村市に配置し、3000人を超える部隊に拡大する予定です。
新しい隊員たちも続々と配属されることになります。
2022年7月には、自衛隊のオスプレイを使った訓練も始まるなど、九州各地での訓練は今後増えていく見通しです。
一方で、住民たちからは、オスプレイの飛行などさまざまな訓練に不安を感じる声も出ています。
記者)九州各地の訓練の必要性とは?訓練への不安の声についてはどう受け止めている?
(梨木団長)
「いざとなったら迅速にそのホットポイントに展開をして、そして任務を遂行する。そういう能力がこの九州にあるということ自体が抑止力となって、また実際ことが起こったときの対処力になります。九州で訓練が行われているということには、やはり戦略的、また戦術的な高い意味合いがあります。さまざまな厳しい状況での訓練を行っているが、安全管理には万全を期して進めています。地域の皆さんに対して私たちの意義、任務への理解を求めていく努力を地道に続けていきたいです」
日本の防衛のあり方は、この数年、特に大きな変化を続けています。例えば、政府はいま、自衛隊が装備しているミサイルの能力を大幅に向上させ、敵の射程圏外からでも攻撃できるように改良しようと考えています。日本の「専守防衛」のスタンスが変わってしまうのではないかという指摘も出るなど、議論が続いています。
今回取材した水陸機動団など、民主国家の実力組織である自衛隊が担う任務の内容は、日本のあり方の根幹にも関わるだけに、きちんと注目を続けていく必要があると感じました。