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医師の働き方改革 医療機関はどう向き合う

  • 2024年05月02日

 

4月から始まった「医師の働き方改革」。
患者の診療にあたる勤務医に対して、労働基準法に基づき、時間外・休日労働時間の上限規制が適用されます。労働規制の強化に伴って、患者に対応できる医師が不足し、地域医療への影響が懸念される中、佐久市や小諸市など11市町村からなる佐久地域では、働き方改革を進めながら地域の医療提供体制を維持するための取り組みが続いています。 (NHK長野放送局・長山尚史)

医師の働き方改革って?

 

今回の医師の働き方改革。時間外・休日労働時間の上限の1つとなるのが、「年960時間」です。1か月に換算すると「平均80時間」。一般的に「過労死ライン」と言われる水準です。

 

しかし、2022年に厚生労働省の研究班が全国の常勤勤務医の労働時間を分析した調査では、「年960時間」の上限を超える医師の割合は全体の21.2%に上り、依然として、どう負担軽減を図っていくか課題です。

「命を守る最前線」では

佐久医療センター

今回、長野県内で重症患者の対応にあたる、佐久市の「佐久医療センター」が取材に応じてくれました。長野県の東部地域の「命を守る最前線」として高度な医療を担っています。

 

松下努医師

平日の午前8時半。病院内のICUでは医師、看護師、薬剤師などが集まってカンファレンスが開かれます。中心には心臓血管外科をとりまとめる、松下努医師がいました。
松下さんたち心臓血管外科医は、急性大動脈解離や心筋梗塞など、一刻を争う困難な手術にあたります。いったん手術に入ると5~6時間の長時間に及ぶこともあります。
その一方で、医師は4人しかいないため、人手不足のなか「働き方改革」と言われても、簡単に労働時間を削減できないのが本音だそうです。

 

心臓血管外科をとりまとめる 松下努医師
「長時間手術をしたあとは術後の管理も必要なので、場合によっては徹夜になることもあります。目の前に患者がいる以上、医師としてできるだけのことをしていきたいし、働き方改革が始まっても患者はこれまで通りやってきます。『時間外労働を減らすように』と言われても、いまの医師の人数でやっていくと、どこかに無理がかかってくると思います」

病院によりますと、昨年度、時間外・休日労働時間が「年960時間」を超えた医師は9人。地域の医療を守りながら、働き方を改善することは急務です。

他職種で連携「チーム医療」

 

改善策の1つとして病院では、ほかの職種のスタッフが連携して患者を診る「チーム医療」の仕組みを導入し、医師の負担軽減を図っています。

 

大きな役割を担うのが、「特定看護師」と呼ばれる人たちです。必要な研修を修了して高度で専門的な技術や知識を持っているため、医師から事前に指示を受けた上で、診療を補助することができます。

「特定看護師」の1人で、わたしたちの取材に応じてくれた青木芳幸看護師は、この日、心臓血管外科で手術を受けた高齢の患者を担当していました。

 

特定看護師 青木芳幸さん

青木さんは、心臓に問題ないことを確認。患者に投与していた薬の量も調整します。
この病院には青木さんを含めて9人の「特定看護師」がいます。
心臓血管外科では青木さんたち「特定看護師」が、医師の業務の一部をサポートすることで、医師の時間外労働の削減につなげようとしています。

松下努医師
「わたしたちは、手術に入ってしまうと、そのあいだ入院中の患者に対応できなくなってしまうので、青木さんに業務の一部を担ってもらって助かっています。一般的な看護師以上の業務をしてもらっているので、心臓血管外科のチームとしての総合力もアップすると思います」

特定看護師 青木芳幸さん
「医師は外来や予定にない緊急手術など非常に過酷な環境で働いています。わたしが患者を診ることで負担が軽減されるし、手術などに専念できるようになります。チームの一員として患者のために、よい医療をつくりあげていきたいです」

医師の事務作業もサポート

 

病院では、外来診療にあたる医師の事務作業などをサポートする取り組みも行っています。それが「入退院支援室」です。
 

事務専門のスタッフが、医師からの指示を受けて、手術することが決まった患者の入院や検査などに必要な書類を準備します。そして、引き継いだ看護師は、事務スタッフが準備した書類をもとに、患者への説明などの対応にあたります。病院によりますと「入退院支援室」があることで、医師が患者1人にかける時間をおよそ1時間短縮できているということです。

 

佐久医療センター 矢﨑善一副院長

働き方改善に取り組む 佐久医療センター 矢﨑善一副院長
 「働き方改革で懸念されるのが、時間外労働を減らすことによって、診療にデメリットが出たり、医療の質が低下したりすることです。『特定看護師』や『入退院支援室』の取り組みを続けることで、医療の質を担保するとともに、医師の働き方改革につながれば、いちばんいいと思います」

地域ぐるみで医師の負担軽減を

 

佐久地域では勤務医の働き方改革を地域の医師会や市町村が支援しようという取り組みも、4月から始まっています。

 

それが、佐久市内に新たに開設された「平日夜間急病診療センター」です。平日の午後7時から午後9時に、地域の開業医を中心に1人が常駐。
体調が悪くなった人から相談を受けると、センターにいる医師や看護師が症状を把握し、内科・小児科で比較的症状の軽い人には、病院の救急外来ではなくセンターを訪れるように呼びかけます。
救急外来のある病院の医師には、症状の重い患者の治療を優先してもらうことで、負担を軽減しようというものです。

初日に対応した開業医
「今回の医師の働き方改革で病院での診療に制限が出るおそれもあります。地域の医療提供体制を守り、少しでも勤務医の助けになればいいと思い協力しています」

“自己犠牲的な長時間労働”わたしたちにできることは?

国の検討会は、2019年にまとめた報告書のなかで「医師の自己犠牲的な長時間労働によって支えられている」と日本の医療の課題を指摘しています。医療提供体制を守りながら医師の働き方を改善できるのか。改革は待ったなしの状況です。

一方で、医師の負担を減らして地域医療を維持するために、わたしたちにもできることがあります。それが、適切な医療機関への受診です。

自治体などが呼びかけている主なポイントは次のようなものです。
 

▼できるだけ平日・日中の診療時間内に受診すること
▼休日・夜間に体調が悪くなり「すぐに病院に行った方がいいか」迷う場合は、
電話相談を活用すること。子どもは「#8000」大人は「#7119」
▼気軽に相談できる「かかりつけ医」を見つけておくこと

医療機関での働き方改革も始まりましたが、地域の医療提供体制を守るために「体調が悪くなったらどうするか」、この機会に考えてみませんか?
 

  • 長山尚史

    長野放送局 記者

    長山尚史

    2017年入局。去年8月から長野局。警察・司法キャップを経て遊軍担当。

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