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長野県では小学校の卒業式になぜ中学校の制服を着るの?

  • 2024年04月10日

九州出身で塩尻市在住の40代の女性から「長野県の小学校の卒業式で、卒業生は中学校の制服を着ていますよね。なぜですか?」という疑問が寄せられました。愛知県出身の私も小学校の卒業式には私服のブレザーで参加した思い出があります。さっそく理由を調べてみました。(長野放送局 橋本慎也)

卒業式の服装は?

小学校の卒業式2024年3月 佐久市(左)長野市(右)

この春、長野県内の小学校で行われた卒業式で、卒業生たちは進学先の中学校の制服を着用して参加しました。県外出身の私から見ると中学校の卒業式のようでした。教育委員会や各地の小学校に確認しても「制服を着るように」という規則や通知は出していないそうですが、県内の多くの地域ではこれが慣例となっています。大手学生服メーカーによると長野県の場合は、卒業式に間に合わせるため他県よりも学生服の採寸や納品が1ヶ月ほど早いそうです。

なぜ制服を着て参加したのか、JR長野駅前でかつての卒業生たちに理由を聞いてきました。

長野市15歳

中学生に向けての心構えみたいなものだと思います。

千曲市49歳

みんな制服を着て卒業式に参加していたから、制服を着て参加しました。特に疑問は感じていませんでした。

全国では学生服は少数派

小学校の卒業式2024年3月
京都府宇治市(左)・北海道札幌市(右)

卒業式の服装は全国的にも、まちまちです。長野県以外で多いのは「スーツ」や「ブレザー」、「はかま」など。男女とも和装で参加する卒業式もあります。複数の衣料品メーカーによると近年は、女子児童を中心に「はかま」での出席が増えているといいます。一部の自治体が「はかま」を着用して転倒する子どもがいることや、経済的な理由で高価な「はかま」を着用できない児童に配慮する必要があるとして、「はかま」の着用を自粛するように求めるほどです。
また、都内の一部の小学校は、近年まで、卒業式に中学校の制服を着て参加しないよう呼びかけていました。私立中学校に進学する児童が多いため、制服を着て出席することで、かえって生徒間の経済的な格差が現れたり、中学入試がうまくいかなかった児童が傷つくことを懸念したりしたそうです。

保護者へのアンケート調査では、卒業式の服装は全国的に私服が最も多くなっています。中国・四国地方などでは小学校に制服がある地域も多く、卒業式にも小学校の制服を着て参加するようです。
各地の卒業式を確認したところ長野県のように中学校の制服を着るのは、茨城県や山形県、北海道の一部などが中心で、全体では2割未満です。

昔はどうだった?

ただ、長野県でも高齢者に話を聞くと、昔は思い思いの服装をしていたことも分かりました。

飯山市80歳

卒業式は普段着の少しよそ行きぐらいのものを着て参加しました。

長野市80歳

着物を着て行きました。

安曇野市89歳

終戦直後だったので、ふだん家で着ていたような、あり合わせのものでした。周りの子どもたちも同じような感じで、靴のない子もいました。

立教大学文学部 有本真紀教授

歴史社会学が専門で、卒業式の歴史について研究している立教大学の有本真紀教授です。経済的に苦しい時代には、フォーマルな服装を用意できない家庭も多く、式での服装はバラバラだったと指摘します。

長野市の「川中島小学校百年史」

もともと小学生は着物を着ていましたが、昭和に入ると地方の小学校でも詰め襟や、セーラー服を着る児童も増えていました。ただ、家庭の経済的な事情も考慮して、多くの小学校では制服は定められていませんでした。そんな中でも、おしゃれをする子どももいたほか、質素な中でも整った服装をする子どももいました。

いつから?なぜ制服を?

茨城県の中学生(1965年)

戦後、衣服の価格が上昇したほか、子どもの服装にもお金をかけようという意識も広がりました。一方で、保護者の経済的な負担を軽くし、生徒の規律を保つため、大都市に先立って地方では1950年代から中学校に制服が導入されていきました。

長野県では、1950年代から60年代にかけて中学校の制服が定着するにつれ、小学校の卒業式にも高価な晴れ着ではなく、制服を着用させようという保護者の意向が広がったと見られます。有本教授によると、当時は、卒業式に今ほどイベント性や感動を求める思いがなかったことも背景にあったといいます。

実際に大手学生服メーカーへの取材では、40年~50年ほど前に地元のPTA連合会が「卒業式のために正装を購入するのはもったいない」と声をあげたことで、卒業式で中学校の制服を着用するようになった地域がある、と聞きました。

長野市の小学校の卒業式(1985年)

また、有本教授は、長野県など地方では、ほとんどの小学生が同じ公立中学校に進学するため、学校側としても卒業生に制服を着てきてもらうと華美にならず、式に統一感が出るという利点があったと指摘します。長野県では教員が県内全域を異動するので、それに伴ってこの慣例が広がったと考えられるといいます。

中学校の制服が早く制定された地域、そして浸透した地域では、小学校の卒業式に中学校の制服を着ることが進んだのだと思います。小学校から中学校に進むんだという引き締まった気持ちが児童にも保護者にも強かったのかもしれません。このため卒業式には思い思いの晴れ着で着飾るということではなく、真新しい中学校の制服を着るということが好まれたのだと思います。

取材後記

街なかで突然、小学校の卒業式について聞いても、多くの人たちが数十年前の服装を覚えていて、特別な式典なのだと改めて感じました。
長野県内では制服を着る地域が多い一方で、教職員などでつくる「信濃教育会」への取材や、街なかでお話を伺った方たちからは、近年、自由な服装を求める保護者からの要望を受けて制服以外で卒業式に参加する学校も出てきた、という話も聞きました。全国的にも制服を着る地域や着ない地域などまちまちですが、いずれも子どもたちへの配慮から変わってきているのだと感じました。

  • 橋本慎也

    長野放送局記者

    橋本慎也

    平成26年入局。愛知県出身。

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