学生どう描く?世相反映する絵馬
- 2023年10月27日
長野市の神社で24年ぶりに行われた「御柱祭」。伝統を引き継ごうと、地元の学生たちが絵馬の制作に取り組みました。コロナ禍の祭りをどんな思いで描いたのでしょうか。(NHK長野放送局 橋本慎也)
江戸時代ごろから続くならわし
数えで7年に1度、山から木を切り出して神社の境内にある御柱を建て替える勇壮な祭り「御柱祭」。長野市中心部にある4つの神社では、持ち回りで行っている祭りの様子を後世に伝えるため、江戸時代ごろから巨大な絵馬を描いて奉納するならわしが続いています。2022年9月には、水内大社で御柱祭が行われました。
大絵馬 制作の工夫は?
今回、水内大社の絵馬を制作したのは長野市の長野美術専門学校の1、2年生の学生、あわせて10人です。24年前の祭りの際、先輩たちが絵馬を描いていた縁で今回も依頼され、2023年5月「描き初め式」を行い、授業の中で制作してきました。
描く上で参考にしたのが、学生たちが撮影した1万枚近くの写真です。また、学生たちは善光寺周辺も訪れ描く建物も決めました。その結果、善光寺や長野オリンピックの五輪マークが描かれた施設のほか、取り壊しが決まっている「蔵春閣」も後世に残すため描くことにしました。奉納する期日が迫った2023年10月には、全体のバランスを意識しながら、服の色などの配色も決めて色を塗っていました。
1人1人が目立つような配色を心がけました。祭りに参加した人たちに、歴史の中の1人になったという思いで見てもらいたいです。
木の板に描くと、どうしてもムラになったり、絵の具が乾いたりするので難しいです。「すごいな」と思ってほしいですし、見た人が祭りを思い出せるような絵馬にしたいと思います。
絵馬に描かれたのは・・・
こちらが完成した絵馬です。2023年10月、制作した学生や水内大社の関係者などが出席するなか、県立美術館でお披露目式が開かれました。
式典で学生たちは、絵馬を制作する上で意識したことを説明しました。特にこだわった点は「コロナ禍をどう描くか」だったと振り返りました。マスクを着用した人々の姿や疫病よけの妖怪「アマビエ」も描きたいという声があがり丁寧に描いたとしています。また、今回の祭りはコロナ禍だったため氏子や神職など、参加者がこれまでの4分の1ほどに制限されました。このため学生たちは参加した241人全員を描くことにも挑戦しました。
絵馬の中には、スマートフォンで祭りを撮影する見物客も描かれました。24年前の祭りにはなかった世相を反映したものになっています。
木目を生かした絵馬なので描くのが難しかったのではないかと思います。みんながマスクをしているところが、すごく印象的で、何年後かに見た人たちが、この時代のことを思い出せるのではないかと思います。
すごく鮮やかで、にぎやかさが伝わってくる絵馬ができたと思います。神社で大切に保管していきたいです。
無事、完成できて良かったです。長い期間をかけて描いたので、多くの人に見てもらいたいです。
色のグラデーションを意識して描くのが大変でしたが、100年、200年後に今の時代背景を残せるように作りました。たくさんの人に見てもらい、伝統を伝えてもらえたらうれしいです。
取材後記
今やスマートフォンなどで気軽に写真を撮影できるようになりました。こうした時代に絵馬を描くことについて、お披露目式に出席した長野市立博物館の学芸員は「1枚の絵にまとめることで描いた時代の人たちが何を大事だと思っていたのか伺えるところに意義がある」と指摘しました。学生が話したように100年、200年先に生きる人たちが見た時、どう感じるのかが楽しみです。この絵馬は水内大社に奉納されていて、祭りの時などに見ることができます。