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海のない長野でなぜサーモン?知ってほしい信州サーモン

  • 2023年04月21日

信州サーモンという魚をご存じですか?10年かけて長野県で開発され、今では県内の居酒屋や旅館で味わうことができます。
でも、なぜ海のない長野県でサーモンが誕生したのでしょうか。そんな素朴な疑問を探るとともに、信州サーモンを広めたいと取り組む人たちの思いに迫りました。
(高田実穂)

外交でも活躍!

信州サーモンのにぎりずし(右下) 写真提供:軽井沢プリンスホテル

4月16日から3日間の日程で軽井沢町で開かれたG7外相会合の「ワーキングディナー」で、信州サーモンが握りずしなどでふるまわれました。去年、アメリカのバイデン大統領が来日した際の岸田総理大臣との夕食会でもムニエルとして出されていて、その知名度は確実に上がっています。

信州サーモンとは

信州サーモン

信州サーモンは10年かけて長野県が開発し、平成16年(2004)4月に承認された養殖魚です。稚魚から約2年で、全長が50~60cm、体重は1.5~2kgに成長します。脂身が少なく、かみ応えもしっかりとしていて、くさみのない味がどんな料理にも合うと評判です。
ではなぜ、海に面していない長野県でサーモンが誕生したのでしょうか?
開発した長野県水産試験場(安曇野市)によると、時代の変化と共に飲食店や観光業界の“あるニーズ”があったことが分かりました。

長野県水産試験場研究員 星河廣樹さん

「長野県ではもともとニジマスなどのマスの養殖が盛んでしたが、1970年代以降、ライフスタイルの変化もあり、生魚の需要が増えました。こうした中、飲食店や旅館業者から生で提供できる長野県独自の魚でおもてなしをしたいという声があり、開発が始まりました」

 

信州サーモンは、それまで広く養殖されていたニジマスと、病気に強いブラウントラウトをかけあわせた魚です。
このかけあわせによって卵を産まなくなり、その分栄養を体に蓄えてうまみが凝縮されるといわれています。
ニジマスもブラウントラウトもサケ科の魚で、海を泳ぐサケのような身の紅さをもつことから、“信州サーモン”と名付けられました。

信州サーモンの稚魚

稚魚は専門的な技術を持つ県水産試験場でしか飼育されていません。ふ化した稚魚はおよそ半年間湧き水で育てられ、県内の養殖業者に配られます。

試行錯誤の日々

佐久穂町の養殖業者、佐々木信幸さんは、新しい品種として承認された平成16年(2004)から養殖しています。ただ、最初は失敗の連続だったといいます。

佐々木信幸さん

「今まで誰も育てたことがない魚なので、教科書がなく、手探りでした。最終的にこんなふうにつくればいいのかなとわかるのに7~8年はかかりました」

佐々木さんのいけす

佐々木さんのこだわりは、良質な水です。臭みのない魚にするため、きれいで不純物が少ない湧き水や川の水を使ったいけすで育てます。

佐々木さんが使っているえさ

えさにもひと工夫があります。炭の粉や木酢液を混ぜることで、脱臭効果や肉質の向上が期待できるといいます。

ブランド化へ

信州サーモンを証明するシール

信州サーモンの価値を高めるため、佐々木さんたち養殖業者は平成22年(2010)に長野県と連携して振興協議会を立ち上げます。その4年後には地域ブランドの商標を獲得。
長野県で生産された正真正銘の信州サーモンであることを示すシールも作成し、出荷時に貼るなどしてブランド化を図ったのです。

さらに、ブランド化を図るため一定の品質基準を設けました。カラーチャートに基づいて見栄えのよい色に仕上げることや、1kg以上の重さで出荷しなければならないなどと定めたのです。
佐々木さんはこうした地道な活動の成果が出てきていると感じています。

佐々木信幸さん

「どのホテルでもレストランでも信州サーモンがメニューに入ることが増え、長野県に来たら信州サーモンということが定着し、ブランド化はうまくいっていると思います。長野ブランドの1つとして、全国の皆さんに知ってもらえるとうれしいです」

食べて、知ってほしい

松本市のフランス料理店のシェフ、田邉真宏さん。信州サーモンを多くの人に味わってほしいと腕をふるっています。

田邉真宏さん

田邉さんの料理のこだわりは、地元・長野県の食材を生かすこと。信州サーモンの魅力を次のように語ります。

田邉真宏さん

「透き通ったような味がします。きめが細かくて色もきれいですし、脂もそんなに多くないです。刺身もいいですが、ムースやフライにもソテーにもできますし、いろんなものに合わせられて、料理人としては扱いやすい食材です」

写真提供:日本航空

田邉さんが作った信州サーモンの料理は、去年9月、日本航空の国内線のファーストクラスで提供されました。

信州サーモンをパイで包んだアンクルート

レストランで提供している信州サーモンをパイで包んだ料理は、ことし6月からJR東日本の豪華寝台列車のランチでも登場する予定です。客の反応も上々です。

「信州サーモンは川魚独特のにおいが全くなく、あっさりとしていておいしいです」

「すごく食べやすい印象があります。ソースとマッチしておいしいです」

田邉さんは今後も、信州サーモンを使った新しい料理を作るなどして、長野県の食材の魅力を多くの人に伝えていきたいと考えています。

田邉真宏さん

「信州サーモンを通して長野にはこんなにたくさんおいしい食材があると知ってほしいです。そうなると、客、料理人、生産者の三角形が上手に組み合わさって、お互いにウィンウィンの関係になれると思っています」

取材後記

信州サーモンは居酒屋などで刺身を食べたことがありましたが、いけすで泳ぐ生きた信州サーモンを見て、こんなに大きくて立派な魚なのか!とわくわくしました。
田邉さんの料理は、口の中に広がるパイの香ばしさと、信州サーモンのしっかりとしたかみ応えが感じられて、とてもおいしかったです。
そんな信州サーモンは、去年からのロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響でノルウェー産のサーモンが高騰したことなどから、需要が高まっています。今後は「安定的な生産が課題だ」という語る関係者。身近な食材から見える社会の動きに、引き続き注目したいと思います。

  • 髙田実穂

     長野放送局 記者

    髙田実穂

    2020年入局。県政・医療担当。

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