ページの本文へ

岩手取材ノート

  1. NHK盛岡
  2. 岩手取材ノート
  3. 「緊急避妊薬」 処方箋なし 薬局で試験販売

「緊急避妊薬」 処方箋なし 薬局で試験販売

  • 2023年12月07日

 

意図しない妊娠の可能性が生じた女性が、医師の処方箋がなくても緊急避妊薬を適切に利用できる仕組みを検討するため、一部の薬局で試験的に販売する調査研究が全国一斉に始まりました。岩手県では、研修を受けた薬剤師が在籍するなどの条件を満たした3つの薬局が対象となります。調査の狙いや購入する人に知ってもらいたいことを取材しました。(盛岡放送局 記者 渡邊貴大)

意図せぬ妊娠防ぐ「緊急避妊薬」

緊急避妊薬

「緊急避妊薬」は、避妊の失敗や性暴力などによる意図しない妊娠を防ぐために使用する薬です。性行為から72時間以内に服用すれば、妊娠をおよそ8割防ぐことができるとされています。海外ではイギリスやドイツ、それにインドなどおよそ90の国や地域で薬局などから購入できますが、日本では現在、悪用や乱用のおそれなどから医師の処方箋が必要です。

しかし、WHO=世界保健機関が緊急避妊薬へのアクセスを確保するよう提言したことなどを受け、厚生労働省の検討会が、医師の処方がなくても適正に販売できるか一部の薬局で試験的に販売する調査研究を行うことを決め、全国145の薬局で11月28日から試験販売が実施され、岩手県内では盛岡市内の3つの薬局で試験販売が始まりました。

日本薬剤師会が選定基準としたのは、
▽緊急避妊薬の研修を受けた薬剤師が在籍すること、
▽夜間や土日、祝日も対応が可能であること、
▽近隣の産婦人科と服薬後に連携できること、
▽個室などでプライバシーを確保できることなどの条件です。
さらに岩手県薬剤師会ではより相談しやすい環境にするため独自に
▽女性の薬剤師が複数いること も条件にしました。

薬を購入するには?

 

同意書

日本薬剤師会などによりますと、実際に緊急避妊薬を購入できるのは
▽試験販売であることに同意し、
▽試験販売に伴うアンケートに答えて調査研究への参加に同意した16歳以上の人だということです。
16歳以上18歳未満の人は保護者の同意が必要になります。また、16歳未満だった場合には薬局が産婦人科医などを紹介することになっています。 

これまで、緊急避妊薬は診察代などを含めると、およそ2万円と高額になることも課題の1つとなっていたことから、今回の試験販売では県内は1錠8000円に統一して販売されるということです。購入後は、悪用や乱用を防ぐため、薬剤師の前で服用することになっています。

 

岩手県薬剤師会 畑澤博巳 会長
薬局というのは相談に乗りやすい環境にある場所なので、本当に必要な人に安心して飲んでもらえる環境を整備していきたい。間違った情報が出回ることが1番心配で、あくまでも調査研究であることや手順を踏んだうえでの販売であることを世間に正しく知ってもらい、その後に一般販売につながる道筋があるんだということを心がけていきたいです。

産科医「互い学び深めていく必要」

 

今回の試験販売について、岩手県産婦人科医会で副会長を務める吉田耕太郎医師は、これまで近くに産婦人科がなかったり、緊急で対応できる病院がなかったりといった理由で入手が難しかった人にとっては、アクセス面で改善が図られることが期待されるといいます。

岩手県産婦人科医会 吉田耕太郎副会長
緊急避妊薬は、飲むのが早ければ早いほど効果があるとされている。最低72時間以内が効果があると言われているので、地理的な条件からそれを超えてしまうことが今まであったとすれば、アクセス面ではかなり良くなったといえます。

一方、緊急避妊薬は意図しない妊娠だけでなく、性暴力などによる望まない妊娠に対しても使用されることがあることから、これまで専門の知識を持った医師が対応していたことを踏まえて、薬を求めに来た人の背景などにはくれぐれも配慮が必要だと指摘しています。

岩手県産婦人科医会 吉田耕太郎副会長
今までは私たちの所に来たら対面で事情を聞くことができました。相手の方も医療に携わっている医師に対してであれば緊急避妊が必要と説明しやすかったと思います。一般販売にすると、初めて行く薬局の方にどこまで状況を話せるだろうかということは課題になってくると思います。

 

緊急避妊薬

その上で、悩みを抱える人をサポートする体制を構築するためには、薬を提供する側の連携を深めていくことはもちろん、緊急避妊薬を利用する側も、正しい知識を身につけていくことが、これから求められていくと指摘します。

岩手県産婦人科医会 吉田耕太郎副会長
どの時期が妊娠しやすいか、避妊が必要ならどの時期に妊娠しやすいから避妊が必要かといったことを勉強してもらいたい。避妊方法もコンドームやピルといった様々な方法があります。緊急避妊薬というのは、あくまで緊急のものであって、何回も安易に使うものではありません。この薬があるから心配なときは使えばいい、というものではないのです。これからの試験期間中に出た課題に対してどうしていくべきか、産科医と薬剤師との連携はこれからもっと必要になるし、薬を使われる方々もいっそうの学びを必要とする社会になっていくと思います。

支援団体も「まずは医師へつなぐ対応を継続」

 

にんしんSOSいわてのHP

思いがけない妊娠で悩んでいる人の相談などに応じている盛岡市の団体『にんしんSOSいわて』は、一般試験に向けた試験販売については、「妊娠後の中絶手術は体への負担となるので、相談も難しく本当に悩んでいるという人にとっては、一般販売は新しい選択肢となりうる」として、意図しない妊娠を防ぐ薬へのアクセスが増えること自体については一定の評価をしています。
しかし、実際に相談者への対応についてはこれまで通り産婦人科の医師への相談を進める対応を継続するといいます。その理由は、病気を抱えて緊急避妊薬との飲み合わせが出来ない人もいることや、薬はあくまで異物であり、体に負担がかかることも予想されるため、医師のサポートを受けられる状況を確保しておきたいからとしています。

 

この緊急避妊薬の試験販売は、現在の所は来年3月までの予定ですが、厚生労働省はより多くのデータを集めるため、来年度にかけても実施するための予算として1000万円の予算措置を求めています。
厚生労働省は薬局、購入者・産婦人科の3者を対象に行うアンケートで得られた結果などを踏まえて、一般販売については可能な限り早く検討するとしています。

ただ、今回取材した薬剤師会、産婦人科医会、支援団体いずれも、本当に必要とする人が手に入れやすくなるための取り組みであり、安易な避妊方法として考えることや、悪用・乱用については厳に慎むべきだと話していました。一般販売に向けた制度作りは今回の調査研究で得られたデータを基に厚生労働省を始め、薬局や病院が整えていくことになると思いますが、この薬があくまで本当に困っている人のための「緊急」のものであることを、利用を考える側もしっかりと理解していく必要があるのではないでしょうか。

 

試験販売の特設サイト

緊急避妊薬を取り扱っている薬局や連絡先、購入する際の手順や必要な持ち物などについては、試験販売の特設サイトhttps://www.pharmacy-ec-trial.jp/で確認することができます。

  • 渡邊貴大

    NHK盛岡放送局

    渡邊貴大

    平成25年入局
    災害、医療、経済を中心に取材。

ページトップに戻る