"竹"が家畜のエサに!?安いだけではない驚きの効果とは?
- 2023年06月06日
ロシアによるウクライナ侵攻などの影響で、高騰が続く家畜のエサ。そんな中、宮崎県ではやっかいものだった「竹」を原料にした新しいエサに注目が集まっています。国内で生産できるというだけではない、“オイシイ効果”があると聞き、さっそく取材してきました
高騰が続く家畜のエサ代
輸入のトウモロコシなどが中心となる配合飼料の価格の推移。ロシアによるウクライナ侵攻などの影響で、おととしと比べて2割以上高い状態が続いています。
畜産農家は廃棄予定の豆腐やおからをもらってきたり、飼料用の米を生産したりして、何とか海外依存を減らそうと試行錯誤しています。
そんな中、宮崎の企業が全国初の竹を原材料とした家畜のエサを開発しました。輸入品と比べて割安なこの竹から作ったエサが、「輸入飼料の代わり」にとどまらない、思いもよらない効果を発揮しているようです。
家畜のにおいを軽減!? 竹から作るエサ
都城市にあるブランド豚の専門店。一番人気はメンチカツ。多い日で1日1000個以上売れるといいます。
大人気のメンチカツ。原料の豚肉に、重要な役割を果たしているのが「笹」なんです。笹や竹を食べて育った豚の秘密に迫りました。
そもそも、見るからに固そうな竹をどうやって加工しているのでしょうか。
秘密は「微生物」の力。細かく砕いたあと、乳酸菌を混ぜこみます。
白いラップで密閉して40日間放置。このあいだに発酵が進んで、柔らかくなります。
食物繊維が豊富な竹のエサは、子豚たちにも大人気。エサ全体のたった2%をこの飼料に置き換えたことで、大きな効果がありました。
それは『においがしない』こと
養豚農家を悩ませている豚舎のにおいが軽減され、肉質自体もクセのない味に仕上がるようになったといいます。
人間もお野菜いっぱいたべたらそんな臭いしないじゃないですか。もしかしたら食物繊維あげたら臭いが軽減するのではと思いあげてみました。肉質も甘みが増したとかお客さんの評判も良いです。
家畜の「腸活」 農家も予想していなかった大きな効果
もうひとつ、農家が予想していなかった効果もありました。一般的な育て方では、豚1頭を生産するのにおよそ330キロのエサが必要です。それが竹のエサを与えて育てるとおよそ280キロのエサで同じ大きさに成長しました。
その結果、こちらの農家では年間4000万円以上のコスト削減につながっているといいます。
肉質の面でもコストの面でも大きな効果が出ています。竹から作るエサで何が起きているのでしょうか。この農家はカギは『腸内環境』にあるとみています。
(豚の)腸とか元気になって消化吸収力がよくなったのではと思います。消化吸収がよくなると、少ないエサでお肉になるので、そういった意味でも(竹の飼料を)やってよかったです。
原材料は「放置竹林」 無料伐採で原材料の安定供給へ
竹のエサを作っているのは、田中浩一郎さん。もともとは木材加工の工場を営んでいたのですが、7年前に竹のエサを作る事業に進出。改良を重ねて今の形にたどりつきました。
田中さんの事業のユニークな点、それは原材料の調達方法。放置竹林を無料で伐採してあげることで竹を調達しています。
都城市に住む三角光洋さん。去年、田中さんの会社に自宅の裏山に広がった600坪の竹林を伐採してもらいました。
こちらが伐採前の様子。竹林は山の斜面にみるみる広がり、自宅のすぐそばまで迫っていました。
一般の業者に伐採を頼むと数百万円の費用がかかります。なかば諦めていたところに、田中さんの「無料伐採」を知りました。
田中さんが無料で伐採を行うのは原材料の安定供給につなげるためです。小麦やとうもろこしと違って竹を農作物として生産している人はあまりいません。一方、放置竹林の拡大に悩んでいる地主は各地に数多くいます。
そこで「無料伐採」の看板を掲げることで、わざわざ探しに行かなくても、原材料が向こうから“やってくる”ようにしたのです。この仕組みが功を奏し、伐採予定は2年先まで埋まっています。
タダでというところは、全国見てもないと思います。無償でしたら切ってくださいという話になるわけですね。
新しい工場が稼働すると、生産量は月700トンまで拡大します。家畜のエサとしてだけでなく、ピーマンやいちご、マンゴーなどさまざまな作物の肥料としても活用され始めています。
「持続可能な農業」への転換が求められる中、工夫を重ねてたどり着いた事業に注目が集まっています。
竹林の所有者の方だけでなく、(エサを)使っていただく農家さんも『売り上げが上がったありがとう』と言っていただけます。『ありがとう』と言っていただける事業ってなかなかないですから、そこがこの仕事をする上での喜びにつながっています。
「原材料の安定供給」という狙いによる伐採の無料化が、社会課題の解決にもつながっているようです。いかに多くの人に喜んでもらえるかという視点で農業の仕組みを考えることは、シンプルな話ですが、重要なポイントだと感じました。