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ウクライナ情勢による肥料高騰 宮崎発・食の救世主はハエ!?

  • 2023年01月13日

ウクライナ情勢の影響などで価格の高騰が大きな問題となっている「肥料」。
肥料が高くなって生産コストが上がれば、食品の値上がりにつながるので、消費者にとっても大きな問題です。都農町にある民間の研究施設が有機肥料を従来より圧倒的に早く、大量に作れる技術を開発しました。カギとなったのは、なんと「ハエ」でした。

“ハエ”で肥料づくり!?

ハエを使って豚のふんからできた特別な有機肥料を作っているのは、宮崎県都農町にある民間企業の研究施設。

肥料を開発した社長の串間充崇さんです。

一般的には、豚のふんなど家畜の排泄物は、微生物で分解して肥料の「たい肥」にしていて、ほとんどの場合、数か月以上かかります。

一方、串間さんが開発したハエを使う処理方法では、
わずか1週間で高品質な有機肥料に姿を変えるというのです。

串間さん
有機廃棄物をたった1週間で、いい肥料に変えてしまえる。こんな技術、ほかにない
肥料も飼料もいま世界的に高騰してきていて、モノ自体がなくなってきている。必ず世の中に必要とされる技術だ。

どうやってハエで肥料を作る?

方法はいたってシンプルでした。豚のふんを均一の厚さにしてトレーに入れ、その上にハエの卵を置くだけというのです。

およそ8時間で、卵はふ化し、幼虫は、全身から消化酵素を出して周囲のふんの分解を始めます。

耳を近づけると『くちょくちょくちょくちょ』という音が聞こえ、ハエの幼虫が食欲旺盛に、ふんの分解を進めていました。

3日目になると、栄養を吸収した幼虫がふんの中からはい出てきます。これは幼虫の習性で、さなぎになってハエとして羽ばたくため、高いところに出てくるのです。串間さんはこの習性に注目。ふんのトレーに傾斜をつけることで、ここを幼虫がひとりでにのぼり、最後には下に置かれた容器の中に落ちる仕組みになっています。人の手を使わずに幼虫が集めることができ、肥料と幼虫を自然に分けられます。

集められた幼虫も無駄にはせず、1か所に集めたあと加工して魚のエサなどとして利用できます。
そして7日目には、肥料が完成。ふんは完全に肥料化されているので、さらさらで臭いもしません。

秘訣はハエの“サラブレッド化”

シンプルな方法ですが、確立するのは簡単ではありませんでした。ハエは意外にもストレスに弱いため、狭い空間で大量に飼うと死んでしまうからです。課題を解決したのが、長きにわたるハエの「選別交配」でした。

串間さんは、ストレスに強いハエを選んで掛け合わせてきました。これを繰り返し、いわばハエの「サラブレッド化」を進めたのです。選別交配すること、およそ1500世代。元々はソ連の宇宙開発技術の1つとして、宇宙飛行士の排泄物を処理する方法として研究が進められていたというハエを輸入し、20年以上かけて肥料の生産に適したストレスに強いハエを生み出したのです。

「ハエ肥料」農家からも高い評価

農家からは、ハエが作る有機肥料の効果を高く評価する声も聞かれています。実験的に、ハエの肥料を使っている松田宗史さんは、有機栽培でカブや米を育てています。まだハエの肥料は少ない量しか生産できないため、価格は割高であるものの、畑の土が変わったと話しています。

松田宗史さん
長く肥料効果が続くというか、病気の発生が少ない感じがします。
土が元気になれば、そこで育つ農作物も丈夫な農作物が育つので、ハエの肥料には、農業を変える可能性を秘めていると思います。

全国から注目集める 宮崎発「ハエ技術」

試験段階を終え、実用化への準備が整ってきたハエの肥料。今、串間さんが目指すのが大規模生産が可能な工場の建設です。実用化に向けてビジネスパートナーを探す中、大阪や静岡など全国から企業の関係者が視察に訪れています。

実際に肥料の製造工程を見せながら理解者を増やし、資金や仲間を集めている串間さんの説明にも力が入ります。

串間さん
私たちの技術で、誰もが手をつけたがらない、誰もほとんど手をつけていない『畜産ふん尿』を、嫌われ者の『ハエ』で高品質な肥料に変えることができる。食の面、環境の面、食の安全保障に貢献できるので是非、規模を拡大していきたい。

視察した企業からの反応も上々で、数年以内に大規模な工場稼働を目指しています。

視察した企業の代表
非常にユニークな技術で、今後日本の国として普及させていかないといけない技術だなと思いました。生産工程の自動化とか当社でお手伝いできたらなと思います

 日本では主に化学肥料が使われ、原料のほとんどを海外からの輸入に頼っていますが、近年、ウクライナ情勢の影響でロシアからの輸入が滞るなどして、原料の高騰が続いています。

化学肥料の原料

国は、2030年までに化学肥料の使用量を2割削減する方針で、たい肥などの有機肥料の活用を進めることを打ち出しています。短期間、かつ低コストで有機肥料を作れる串間さんの「ハエ技術」は、最近の“食料危機”の救世主にもなり得るとして全国から注目を集めています。

  • 坂西俊太

    NHK宮崎・記者

    坂西俊太

    県政などを担当
    獣医師の資格を持ってます

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