宮崎県・謎のフルーツ「トンボ」徹底調査【てげ探】
- 2022年10月06日
祖母がつぶやいた「謎ワード」
NHK宮崎が視聴者の疑問を徹底調査する「てげ探」。8月のある日、取材班に1通のメールが寄せられました。
投稿者 なつごろう さん
三股町にすむ90代の祖母がお土産であげたパッションフルーツを見て、言ったんです。
祖母「これ、トンボやがね。小さい頃、山でとって食べたよ」
そんな昔にパッションフルーツはなかったと思います。
「トンボ」ってどんな果物なのでしょうか。
メールの送り主は、東京在住の「なつごろう」さん。宮崎県に住む家族から「てげ探」のことを聞き、投稿してくれたそうです。
実りの秋にぴったりの依頼、入局5年目の私、坂西が「謎ワード」の解明に当たりました。
“もち”は“もち屋” “トンボ”は“果物屋”?
まず、向かったのは宮崎市内の老舗果物店。
「“もち”は“もち屋”」ということでプロの知恵を拝借しようというわけです。
応じてくれた長橋恬さん(86)はこの道、40年の大ベテラン。期待がグッと高まります。
記者
「“トンボ”って、知ってますか」
長橋さん
「初耳。聞いたことない」
「トンボ」の調査、果物なのに甘くはないようです。
カギは、三股町にあり
次なる目的地は依頼者の祖母がすむ宮崎県三股町。同じように「トンボ」を食べたことがある人がいるはずです。
町の中心部の公園で片っ端から、声をかけます。
40代男性
「果物のトンボ?聞いたことないですね」
30代女性
「虫じゃないんですか?」
・・・手がかりさえつかめません。
調査開始から30分あまり。通りすがりの男性から有力な証言を得ることができました。
85歳男性
「トンボってアケビでしょ?小さいころよくとったけど崖の先にあったりして、取るのが大変なんよ」
トンボ=アケビ!?
さらに聞き込みを続けると近所で「トンボ」を育てる人がいるという情報が。
お邪魔したのは、矢野三郎さんのお宅(73)。その庭先に・・
ありました、ありました!
楕円形の実、ぱっくり割れた皮、中には種。
記者
「矢野さん、これはなんですか?」
矢野さん
「トンボですね。この辺の年配の人たちはみんな『トンボ』で通じる。アケビっていったら逆に通じないくらい」
「トンボ」はこの地域の「アケビ」の古い呼び名でした。
埼玉県の住宅街で育った私にとっては見るのも初めて。矢野さんにいただいたアケビのさわやかな酸味が調査の疲れをいやしてくれました。
これにて謎ワード「トンボ」の解明は終了。でも、なにかモヤッとしてます。
そう。「なんでトンボっていうの?」
【強い殿様がいない・・宮崎の切ない事情】
「トンボ」の由来はなんなのか。その追跡調査にうってつけの人を見つけました。
宮崎市にすむ南谷忠志さん(86)は、県総合博物館の元副館長。
県内の植物の呼び名について40年以上研究してきたスペシャリストです。
記者
「なぜ、トンボと呼ばれているんですか?」
南谷さん
「正直、よく分かりません。いろいろ調べてはみたんですけど、定かなところは分かりません」
・・・残念、40年の研究でも「トンボ」の由来は解明できず。ただ、アケビについて、興味深いことを教えてくれました。
南谷さん
「県内でアケビの方言は80くらいはあると思います」
え、「トンボ」以外に、そんなに呼び名があるの?
南谷さんはこれまで、県内各地でその地域に古くから住む300人以上から、アケビなどの植物の呼び名を聞き取ってきました。
宮崎県内でこれほど多くの呼び名が存在するのには歴史的な背景が関係しているといいます。
南谷さん
「なぜかっていったら、宮崎県には強い殿様がいなかったんです。延岡は延岡、高鍋は高鍋と、それぞれ藩主がいて、それぞれ群雄割拠でバラバラだったんですよ」
「それぞれの地で勝手に名前をつけてきたから、方言がものすごい豊かだったんですね。鹿児島県なんて島津の殿様が全部、その藩内にありますからね、島津さんの。だからみんな同じ方言を使って、方言の種類は単純ですね」
調査は完了!けれども・・・
ようやく、すべての調査完了!
でも「トンボ」を追いかける“旅”は、まだ終わりません。
※注意:ここからは「調査」ではなく私の個人的な「旅」です。
依頼者のおばあちゃんが子どものころに探して食べたという野生のアケビ。いったいどんな場所でどんなふうに実がなっているのか。
里山の植物に詳しい河野耕三さん(74)に案内してもらいました。
アケビが自生するのは、日当たりがよく適度に人の手が入った森とのこと。向かったのは宮崎市郊外の2つのポイント。それほど整備されていないけど原生林でもない、「ちょうどいい森」です。
河野さんによると上の写真のような3種類のアケビがみられるはずということなんですが・・。
台風14号が通過した後で、多くの実が落ちていたものの、道路沿いでまだ熟れる前のアケビをあちこちで確認できました。こんなに身近にあるものなんですね。
河野さん
「散歩でもいいからちょっと草をつんで臭いを嗅ぐとか、舌であじわってみるとか、実がなったら、その実を食べるとか」
「里山の自然を残していくことで、自然とふれあう機会を少しでも増やしていってほしい」
アケビを「トンボ」と呼んだおばあちゃんのひと言をきっかけに実り豊かな宮崎の自然を感じることができました。