若者の車離れで苦境の教習所 宮崎で高齢者を取り込む新戦略
- 2022年10月05日
少子化や若者の車離れなどで「斜陽産業」といわれる自動車教習所。そんななか、高齢者へのサービスに活路を見出し、収益を伸ばしている宮崎の会社を取材しました。自動車教習所の新たな戦略とは？
運転がリハビリに？！
「はい、みなさん！体操を始めますよー！」
元気な介護士の声掛けと共に体操が始まりました。宮崎市内の自動車教習所が運営するデイサービスの様子です。体操は、ハンドル操作やアクセル・ブレーキの踏み込みなど、運転の動作を取り入れた、その名も「ドラドラ体操」。
運転の動作を、日常生活に役立てることを目的として、作業療法士と一緒に考案した、この福祉施設オリジナルのものです。例えば、下の写真はタオルを使って、シートベルトを締める動きを再現しています。これ、お風呂で背中を洗う時の動きといっしょ！こんな感じで日常生活とリンクさせています。
このデイサービスに週３回通っている齋田泰人さん。脳梗塞を患った影響で、右半身にマヒが残っている齋田さんは、家族から運転を止められていると言います。でも、もう一度大好きな運転をしたい！と３年前から教習所の中でだけ運転を楽しんでいます。
これも、この教習所が提供しているリハビリメニューの一つ。運転は、脳機能や身体機能の向上に効果があるとされているのです。
「斜陽産業」と言われる自動車教習所
公共交通機関の少ない、地方の高齢者にとって、自動車の運転は必要不可欠なものです。この教習所では「運転」にまつわるサービスが評判となり、グループ事業全体の収益の2割を占めるまでになりました。
日本全国の自動車教習所の数は、これまでターゲットとしてきた10代・20代の若い世代の減少に伴い、年々減り続けています。いわゆる“斜陽産業”と言われる自動車教習所業界。しかし、こうした中で収益を伸ばしているのがこの自動車教習所です。
服部 幸雄さん（自動車教習所運営会社 社長）
業界全体が斜陽だからと諦めていては、本当に斜陽になるだけです。“時流に合ったスタイル”にかえれば、いくら少子化になっても他に活路を見出せます。自動車教習所というリソースを使ったサービスができれば、唯一無二だと思っています。
客観的に高齢者の運転を評価するシステム
今年5月、道路交通法が改正され、3年以内に信号無視や速度超過など違反行為をした75歳以上の高齢者は、免許更新時に「運転技能検査」が義務付けられるようになりました。
そこで、この教習所では7月から特別な教習車を導入しました。360度を捉える複数のカメラや誤差3cm以内の精密な位置情報システム、速度の急激な変化などを読み取るセンサーが搭載されています。走行データはリアルタイムで細かく分析され、運転者の“個人の癖“をあぶりだします。
この日受験した77歳の男性は、5つの項目で判定する運転技能検査では100点満点でした。しかし、指導教官からは、危険なところもあるとアドバイスを受けました。独自に取得したデータをみると、この男性は中央線に寄って走る傾向があるということが分かったのです。
「50年も乗っていると自己流がでてしまう」自分の運転を客観的に見て、男性は改めて自分の運転を見直す機会になったと言います。無意識な癖を指摘してくれるこの教習所を選んで、検査を受ける高齢者も増えています。
服部 幸雄さん（自動車教習所運営会社 社長）
自動車教習所をやっている以上、危ない運転をしている方には、「危ない」と教えることも大切な役割と思っています。こういうローカル（地方）では、運転は必要です。毎年一回健康診断を受けるように、自動車教習所に定期的に通ってもらって、安全運転を確認するしくみを提供したい。
運転は認知症予防にも！？
運転なら楽しくリハビリができるという声も多いのですが、実際に脳や運動機能を向上させる効果もあるそうです。「国立長寿医療 研究センター」の調査では、65歳以上の高齢者で「運転をしている人」は「していない人」に比べて、認知症の発症リスクがおよそ4割少ないそうです。さらに要介護状態になるリスクもおよそ8分の1と言われています。
高齢ドライバーによる事故が問題になっていますが、安全を担保しつつ、できるだけ長く車に乗れるほうがいいのかもしれません。特に高齢者はスーパーへの買い物や病院などに通うのに、毎日車が必要だという人もいます。地方で暮らす高齢者にとっては欠かせないものの1つとして車があがることもあります。
取材した教習所では運転技能をより厳しく評価するシステムを商品化して、まずは他の教習所に売り込もうとしているそうです。こうした動きも今後取材していきたいと思います。
