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外国人の保護者とのコミュニケーションどうする?

日本語を選ぶだけで保護者の母語で情報を届けられる多言語連絡帳とは
  • 2024年02月20日

茨城県の小中学校では、去年5月の時点で、3428人の外国人の子どもが在籍し、年々増えています。こうしたなか、学校では子どもの保護者とのコミュニケーションの取り方も課題になっています。連絡帳を使って教員と保護者のやりとりをするとしても、日本語が堪能でない保護者もいるため、ことばの壁を乗り越えるための支援が欠かせなくなっています。
新たなツールを使って、こうした課題を乗り越えようという県内の動きを取材しました。
(水戸放送局 記者:藤田梨佳子)

 

動画はこちらから

県内の学校現場では

 

毎朝外国人の子どもに声をかける教諭

 

茨城県下妻市の下妻小学校では、10か国、48人の外国人の児童が在籍しています。全クラスに外国籍の児童がいて、毎朝、担当の教諭が1人1人に声をかけ、きょうの予定を説明します。

日本語がわからないなどの理由で学校になじめず、休みがちな児童も多く、休んだ児童には教諭が直接電話をかけるなどして、悩みなどが原因ではないか、丁寧に聞き取っています。

 

 

下妻小学校の外国人児童生徒支援員

 

外国人の児童が快適に学校生活を送るために、とりわけ重要なのは、保護者への情報伝達です。市が採用した「外国人児童生徒支援員」が、通訳などとして教員と保護者との仲立ちをしています。

 

 

スぺイン語に翻訳されたプリント

 

緊急連絡メールも翻訳されている


重要な連絡事項は、支援員が保護者の母国語に翻訳し、確実に伝えようとしています。ただ、対応できるのは、英語とスペイン語、それにポルトガル語の、あわせて3か国語です。
それ以外の言葉が母国語の保護者には、担任がやさしい日本語で、できる限り伝えようと努めているといいます。

 

下妻小学校 室井貴代枝教諭

 

下妻小学校 室井貴代枝教諭
学校から配る資料や文章だけでは、伝わりにくいこともあります。必要に応じて電話で対応したり、保護者が学校に聞きに来ることもあるので直接ご説明したりということでご理解をいただくようにしています

 

新たなツールを活用する現場も

鉾田北中学校


多様な母国語の保護者と、スムーズにコミュニケーションを取って行くにはどうしたらいいか。
鉾田市の中学校では、去年から新たなツールを活用しています。大学教員が発案したインターネットの「多言語連絡帳」です。

 

 

多言語連絡帳の画面

 

10か国語が選択できる

保護者の連絡によく使う、500近い文章があらかじめ10か国語で登録されています。

 

10か国で登録されている文章の一部

例えば、遠足の延期や部活の中止などの日常的な連絡です。このほか、悪天候による休校の連絡や災害などの緊急時の一斉下校や迎えの連絡などにも対応しています。

 

 

ウルドゥー語に翻訳された連絡メール

 

翻訳した内容は、保護者にメールで送信されます。
さらに、保護者が読んだかどうか、通知されるほか、保護者から簡単な回答もできます。

 

 

鉾田北中学校 森作久仁子教諭
このツールだと、全部日本語を選択して入力するんですが、相手の言語に翻訳されているのでこっちの手間はそんなに無くていいです。電話だと相手が出るかどうかもわからないし、私たちが不在の時もあるので、そうするとトータルの時間がかかるが、この多言語連絡帳ですと3分くらいでやりとりができるので、回答も分かるのでとても便利に使っています。

 

 

去年パキスタンから来日した保護者のシャルラーさん

「多言語連絡帳」を使っている保護者のシャルラーさんは、去年パキスタンから来日しました。母国語はウルドゥー語で、日本語はまだ読み書きが難しく、以前は、学校から配られる日本語のプリントの内容を理解するのに苦労していたそうです。

 

シャルラーさん
前は学校からのメールや配布物の内容がすべて日本語で書かれているし、漢字もあるので、理解できないことも多かったです。1週間に1回は学校までいって、先生に簡単な日本語で説明してもらっていた。多言語連絡帳では、母国語のウルドゥー語で内容が把握できるので安心感が大きいです。

 

発案者の思い

宇都宮大学国際学部 若林秀樹客員准教授

 

「多言語連絡帳」を発案した、宇都宮大学の若林秀樹客員准教授は、14年前まで栃木県の中学校で日本語教室の担当教員をしていました。外国人の親のほとんどが日本語が堪能ではなく、情報を伝えるために、試行錯誤したといいます。

 

 

栃木県で教諭をしていたころ

 

宇都宮大学国際学部 若林秀樹客員准教授
日本語教室を担当した最初の年に、ブラジル人の男の子で、全然勉強しなかった子がいました。学校では手に負えないと思ったので、私は本当に足繁く家に通い、親に学校の様子を伝えました。当時ネットもなかったし、翻訳システムもなかったのでポルトガル語辞書を片手に、親と会話しました。その結果、親は学校の気持ちをわかってくれて、子どもの様子が全く180度変わりました。その時に、情報を伝えるということはこんなに基本的で大切なことだと痛感して、それが多言語連絡帳を作ろうとした原点です。

 

 

コンテスト受賞写真2019年(提供:情報通信研究機構(NICT))

これからの時代、日本に外国人が増えることを見越してシステムを発案。コンテストで総務大臣賞を受賞し、大手企業の目にとまり、開発されることになりました。
支援員や専門性の高い教員だけでなく、どの教員も外国人とコミュニケーションをとれるようになることが必要だと話します。

 

宇都宮大学国際学部 若林秀樹客員准教授
コミュニケーションや支援の入口は情報伝達だと思っています。これほどにICTが進歩している時代に、学校の先生たちが言葉が違うからどうしようという悩みや、つまづきをする必要がないと思っています。どんな国の児童がいても、多言語対応はもうできて当然だよねっていう基盤機能を作り、誰もが情報を平等に受け取れる環境に学校はして行くべきだと思います。

 

今後も少数言語に対応予定

 

「多言語連絡帳」は、10カ国語に対応しています。英語、ポルトガル語などはもちろん、ネパール語や、パキスタンの言葉であるウルドゥー語などにも対応しています。
さらに、4月からは、アフガニスタンのダリ語とパシュトゥー語が増える予定だということです。

県内で導入の動きが広がっていて、外国人の児童生徒が10パーセントを超えている常総市がすべての学校で導入しているほか、鉾田市や大洗町で一部導入、水戸市や境町、つくば市で試験的に使用されています。

 

今回取材した教員や支援者などによりますと、連絡事項が理解できない保護者は、学校を休ませてしまうことが多くなりがちで、子どもが学校について行けなくなる一因になっているという指摘もあります。
取材で外国人の児童や生徒にも話を聞きましたが、数年前に日本に来た子どもも多く、子ども本人も日本語をあまり理解できないため、日本語だけの情報を届けても、家族のだれにも学校からの情報が届かず、とても困っていると話していました。

発案者の若林さんは、「コミュニケーションの先に本当の意味での教育の平等がある」。
つまり、平等な教育というならば、コミュニケーションの円滑化がまず必要だと指摘していました。
また、教員の立場からも、さまざまな言語への対応が負担になっているという声もありますので、新しいツールによって、教員の働き方の改善もつながる面があるということです。
 

  • 藤田梨佳子

    水戸放送局・記者

    藤田梨佳子

    新卒で水戸放送局に赴任して3年目。ずっと警察取材を担当しています。
    現在第1子を妊娠中で、保育や教育の分野に興味があり幅広く取材し始めました。
    アメリカとロシアに留学経験があり、多文化共生も取材したいです。

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