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緊急脱出 手荷物は?身を守る方法は? 飛行機に乗る前に知っておきたいこと

2024年1月2日に起きた羽田空港の衝突事故では、旅客機の乗客乗員379人全員が機体の外に避難することができました。海外では「奇跡の脱出」と評されるなど、冷静な行動が称賛されています。

脱出の様子を見て、いざという時、自分だったらどう行動すればいいのかと不安に思われた方は多いのではないでしょうか?元客室乗務員と元機長のお二人に、緊急脱出の際の心得について詳しく聞きました。
(「クローズアップ現代」取材班)

緊急脱出は手荷物NG!ポケットの中は・・・?

まずお話を伺ったのは、客室乗務員として日本航空(JAL)に28年間勤務しチーフと管理職も務めた、山下輝江さんです。

日本航空(JAL) 元客室乗務員 山下輝江さん

事故のニュースを見て、緊急脱出の際に何を身につけられるのか気になるという方に、山下さんは覚えておいてほしい3つのポイントがあると話します。

元客室乗務員 山下さん

「脱出の際、荷物は一切持つことができません。上の収納棚から荷物を取り出すことも、厳禁です。一刻を争う状況の中で、荷物は脱出の大きな妨げになってしまいます。ショルダーバッグや斜めがけの小さなバッグならと考える方もいらっしゃいますが、引っかかって首が絞まると危険なので、そうしたバッグも持ってはいけません。とにかく命を守ることを優先して、体ひとつで脱出してください。


ただしポケットにしっかりと納まって落下する恐れがなければ、例えばジャケットの内ポケットにスマートフォンや財布を入れているなどの場合は、規制されないでしょう」

次に身支度について、気をつけておくことがあると言います。
収納棚に入れず、手元に置いておいたほうがいい物もあるのだとか…。

撮影:乗客
元客室乗務員 山下さん

「脱出のとき上の収納棚は開けられませんので、上着や抱っこひもなど必要な物は前の人の座席の下に置いておくといいと思います。

コートなどの上着は、脱出の前に着て下さい。外に避難したあとの防寒になります。また脱出用スライドを滑り降りるときに摩擦でやけどをする場合もあるので、上着を着ていればその防止にもなります。私は普段から、コートは膝掛けにするなどして手元におくようにしています。

それから、靴を履くこと。特に国際線などは飛行中に靴を脱ぐ方が多いですが、離着陸の際は履いておくことをお勧めします。ただし、ハイヒールは脱出用スライドを破く可能性があるので、履くことはできません」

事故が起きた!何に気をつける?

事故直後の機内の様子 撮影:乗客

山下さんは今回の事故直後の機内の映像を見て、「今回のお客様の対応は本当にいいお手本」と話しています。緊急脱出の際に、乗客はどんな心がけが必要なのでしょうか。

元客室乗務員 山下さん

「まずお客様にお願いしたいのは、『騒がないでください』ということです。予期せぬ事態に直面したら誰しも、悲鳴を上げたり『どうしよう』『助けて』と叫んだりしてしまいがちですが、グッとこらえて。声を発しすぐに立ち上がりたくなる衝動を、抑えてください。


非常時にもっとも怖いのは、機内がパニックに陥ることです。客室乗務員は緊急脱出の際、まず『大丈夫。落ち着いて』と大きな声を発するよう訓練されています。これは、お客様に冷静な行動を促し、客室乗務員の指示に従ってもらうようにするための声かけです。とにかく客室乗務員は第一声を必ず発しますので、そこまでのほんの少しの間、我慢していただきたいなと思います」

Q. 身支度ができたら、通路に出ておいたほうがいいのでしょうか?

元客室乗務員 山下さん

「ドアが開いたことが分かるまでは、通路に出ず座席で待つほうがいいでしょう。どの非常ドアが開くか分かりませんし、お客様が殺到すると非常ドアを開ける際の妨げにもなります。


乗務員は、安全の確認が取れたらすぐに担当の非常ドアを開け、『L1(左側の1番前のドア)オーケー!こっちに来て!』などドアが開いて脱出できることを大きな声で知らせます。これは乗務員同士の伝達だけでなく、お客様への周知でもあります。ドアが開いたことが分かったら乗務員の指示に従い、座席から非常ドアへと素早く向かってください」

脱出用スライドどうやって滑る?

(緊急脱出時の後方非常口の様子 撮影:乗客)

運輸安全委員会によると、前身である航空事故調査委員会が発足した1974年から2023年までの間に、脱出スライドを使った緊急脱出が行われたのは少なくとも16件。そのうち15件で負傷者が出ています。スライドで滑走路や誘導路に滑り降りるため、硬い地面に尻もちをついて骨折するケースなどが多いとのことです。

山下さんは、脱出用スライドを滑るとき3つのことを覚えておいてほしいと言います。

元客室乗務員 山下さん

「みなさん怖がりながら、後ろに反った体勢になりがちです。でも重心が後ろになると、すごくスピードが出てしまってかえって危ないんです。


スピードを抑えて安全に滑り降りるには、全身がコの字型になるような体勢をイメージするといいでしょう。足を肩幅に広げて両腕をグッと前に伸ばし、体を起こして前傾になるくらいに構えてください。



スライドを滑り降りると、最後に勢いがついて体が浮かび上がります。そのときに、尻もちをつく人が多いんです。下に補助の方がいて滑り降りる人を引きあげてくれると、体を起こしやすく尻もちをつきにくくなります。非常ドア付近の席の方には、乗務員から補助をお願いすることがありますのでご協力をお願いします」

Q. 離陸時に機内で流れるビデオを見ると、最初にジャンプして滑り出しています。怖いのですが、ジャンプしないといけませんか?

元客室乗務員 山下さん

「ジャンプをして滑り出すのは、1秒でも早く脱出するためです。ジャンプするのが怖い方は、無理してしなくても大丈夫。スライドの上に座ってもらえば、客室乗務員が腰をプッシュして押し出します。怖がらずに、コの字の体勢を取って滑り出てください」

機長は緊急時にどう動く?

全日空(ANA)元機長 樋口文男さん

今回の事故機の乗客からは、説明や指示がなく状況分からなくて不安だったという声もありました。

緊急脱出の際、パイロットや客室乗務員はどのように動くのでしょうか。それを知っていると、説明がなくても、いま何が行われているのか推測できるかも知れません。

全日空(ANA)でパイロットを34年務めた元機長の樋口文男さんにお話を伺いました。

Q. 緊急脱出しなければならないとき、機長はどのような対応をとるのですか?

元機長 樋口さん

「機長はまず、エンジンを止めます。火が出るようなものを全て止めるためです。スピードブレーキといって、飛行機が降りたときに羽の上に立てる抵抗の板も下ろします。そして、エンジンに消火剤を発射する。それを副操縦士と一緒に2人で確認します。その確認は時間にすると10~20秒ほど。確認したら、緊急脱出の指示を客室乗務員に出します。そして、安全なドアを確認し開けるよう指示を出します。


そこまでしたら副操縦士は先に地上に降ります。脱出した乗客を機体から離れるように誘導するためです。機長は機内に残り、機体の真ん中に行きます。そして全体の指揮を取る。どこかに乗客が固まっていたら、こっちからも出られますとか。今回の羽田の衝突事故のような場合だと、後ろからも出られますとか。そして乗客乗員の脱出が終わったら、取り残された人がいないか機内を全て確認して、最後に機体左側の後ろのドアから出るというのが鉄則です」

客室乗務員の場合は、安全マニュアルにそった誘導の5つの手順があるそうです。

元客室乗務員チーフの山下さんによると、③の状況確認が特に重要だと言います。

元客室乗務員チーフ 山下さん

「非常用ドアを開けると、気圧の関係でスーッと空気が入ってきます。そのときに火が近くにあると、機内に燃え移る可能性がありますし、機内に空気の流れができて火の通り道にもなりかねません。ドア付近で火災が起きていないか、慎重に確認しなければいけません。また、脱出用スライドが安全に下ろせるかどうかも、大きなポイントです。



今回の羽田の衝突事故で最後に開いた『L4』と呼ばれる左側の一番後ろのドアは、機体後方が持ち上がった状態だったため、脱出用スライドが地面に届くかどうかギリギリの状態でした。客室乗務員は、非常ドアがスライドを下ろせる高さにあるかどうかも見極めなければならないのです。



羽田の衝突事故では、機内の連絡システムも全て使えなかったと聞いています。そのため確認の時間がかかり、状況の分からないお客様が不安に思われたのでしょう。緊急脱出では機内アナウンスをする余裕はありませんが、客室乗務員は肉声で大きな声で呼びかけます。先ほどお話ししたように、『L1(左側の一番前のドア)オーケー!こっちに来て!』などはお客様への情報伝達でもありますので、そうした声や乗務員の動きから状況を把握し、指示に従っていただければと思います」

飛行機に乗るとき、普段から心がけることは?

Q. 最後に、万が一の緊急脱出に備えて、普段からできることがあったら教えてください。

元機長 樋口さん

「何よりもまず、非常口を確認することです。それから、飛行機に乗ったら座席前のポケットにリーフレットや冊子が入っていますので、確認してください。また脱出の手順も必ずビデオが流れるので、1回見ていると全然印象が違うと思います。あり得ないんですけど、あり得ると思って見ていただきたいです」

元客室乗務員 山下さん

「ライフベストの位置は、確認しておいたほうがいいかも知れません。以前は座席の下にあることがほとんどでしたが、最近の個別モニターがあるタイプの座席では横に付いている場合もあります。


また、離着陸時にリクライニングやテーブルの位置を元に戻すなどの機内ルールには、脱出をスムーズにするための理由があります。それをご理解いただき、お客様にご協力いただけるとより安心安全なフライトにつながると思います」

この記事のコメント投稿フォームからみなさんの声をお待ちしています。

担当 「クローズアップ現代」取材班の
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みんなのコメント(9件)

感想
うっかり八兵衛
60代 男性
2024年3月15日
たいへんためになる記事でした。万が一の時のことを想定した上で乗ることが大切ですね。ありがとうございました。
悩み
すみっこ
30代 女性
2024年3月6日
私は、急性発症1型糖尿病発症してインスリン注射と血糖値測定が欠かせないです。
インスリンは、食事前と寝る前に打っている。
正直、飛行機に乗るのが不安になりました。
インスリンと血糖値測定器は、必ず持ち歩かないといけない。
荷物を持たないで逃げてください。と言われても困る。
もし、また同じような事故が遭ったら私にとって命がかかる病気。
2度と同じような事故起こさないで欲しい。
皆さんの意見聞きたい。
感想
JIN
男性
2024年1月11日
後方扉は状況的に時間かかったのは仕方ない。
前方の扉は5分以内に開いたとあったが
具体的に何分で開いたのか伝えて欲しかった。
この状況なら2分以内には開けないと遅すぎると思う
乗務員に対して絶賛ばかりだけど改善すべき点はなかったのか?
そこら辺まったく突っ込まないのでがっかりした。
炎上や批判恐れていてどうするんですか?
質問
獅子丸
女性
2024年1月11日
海保機にビーコンついてますよね?JALのコクピットから見えなかった?見えなくて衝突回避できなかたったらそれはそれで問題なのでは?
感想
まりん
40代 女性
2024年1月10日
とても興味深く面白かったです。

番組に気付いたのが遅く、後半からしか見れませんでした。
できれば地上波でも再放送をお願いします。
感想
セトロ
60代 男性
2024年1月10日
前輪が出ないで胴体着陸は事例としてもあります。その時、後部の非常脱出シューターが届かない設計はあり得ないと思います。今回の放送はその事を確認してから元CAの談話を放送したのでしょうか?設計不備ならその事の方が非常に大問題だと思います。
感想
pga-ジョージ
70歳以上 男性
2024年1月10日
最高の配慮、技術、冷静全てが、パーフェクトです。
感想
ノゾアヤ
60代 男性
2024年1月10日
JALの乗務員の判断は正しく賞賛されるものです。素晴らしいと思います。避難する際にANAの関係者の協力もあると他のニュースではありました。事実ならそちらの話にも触れて欲しかったと思います。自分はANA関係者ではありません。
提言
オッティー
50代 男性
2024年1月10日
当日家族で搭乗していました。
番組内のコメントで責任を追及するのではなく、今後をどうするか?のニュアンスに聞き取れましたが、JALはすごく対応で終わらせるのではなく、JALではなく国側の責任を慎重に問うべきだと思います。JALの対応が素晴らしいでこの事故を終わらせないでください。