推しの“解像度”をあげていく 『ゴールデンカムイ』尾形に魅せられたハナシ
『エースをねらえ!』『ベルサイユのばら』『ブラック・ジャック』『ドラゴンボール』『SLAM DUNK』『幽☆遊☆白書』『宇宙兄弟』『3月のライオン』『きのう何食べた?』『ミステリと言う勿れ』…(あさイチアンケート「最も推している漫画」より一部抜粋)。
あなたの好きな漫画はありましたか?
いつの時代も私たちに新たな世界を見せてくれる漫画。
紙の書籍に加えて電子書籍の普及もあり、2021年には漫画の売上げが過去最高になりました。
日本の歴史上、いま、一番漫画が読まれている時代でもあります。
今回は、マンガ大賞を受賞し、アニメ化もされた漫画、『ゴールデンカムイ』に魅せられた女性のお話。
「人生をかけて推せる!」と豪語するキャラクターに出会った彼女は、「推しのすべてを知る」ため、ある推し活に没頭しています。
(#教えて推しライフ・漫画推し 取材班)
※この記事は、あさイチ『#教えて推しライフ 漫画推し』(2023年3月13日放送)をもとに作成しています。
漫画の魅力は“世界観”
漫画をこよなく愛す、金子さやかさんです。
幼少期から漫画に慣れ親しんできました。
小学校に入学する前から『あさりちゃん』、『ドラえもん』など、自分と同じような子どもが活躍する漫画を好んで選び、何十回も読み返していたといいます。
10歳くらいの時、叔母から譲り受けた『BANANA FISH』や『パタリロ!』を手にしたことで、漫画の新たなステージに足を踏み入れます。
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金子さん
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「ものすごい世界観があって、そこに読者がついて行くような形で、『大人の漫画』だなって思って。『BANANA FISH』は暴力や薬物も描かれている。でもやっぱり主人公にものすごく好感が持てるし、応援もしたくなる、そんな大きな物語に引き込まれました」
30年にわたって、漫画を読み続けてきた金子さん。
心ひかれる 漫画の魅力とは…?
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金子さん
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「絵のインパクト、セリフの言い回し、ストーリーのおもしろさ。その3つがバンッとハマったとき、ものすごく気持ちを持って行かれます。“三位一体”になったときのすごさ…!その瞬間に作品の世界観が伝わるんですよね」
運命の作品『ゴールデンカムイ』に出会ったとき
金子さんが、運命の推し漫画『ゴールデンカムイ』に出会ったのは、6年前のこと。
『ゴールデンカムイ』 野田サトル (2014~2022年)
明治時代後期の北海道を舞台にした、サバイバル漫画。
日露戦争をくぐり抜けた元兵士・杉元佐一は、ある目的を果たすため埋蔵金を探す旅へ。
アイヌの少女・アシㇼパと仲間になりますが、そこに大金を狙うさまざまな敵が登場。
策略や闘いが、作品の大きな見どころになっている。
アプリの無料キャンペーンでなにげなく読み進めたところ、次々と出てくるキャラクターに魅了され、「推し続けたい」「もう読むしかない」と沼に落ちたと言います。
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金子さん
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「ものすごい世界観でかつ、キャラクターも全員が突出して魅力的な作品なんです。そして、大きいテーマが『愛』や『生きる』ということだったりするので、すごい読んでて、ガーって感情が高ぶるところが、すごい好きですね。隣人愛、恋愛、家族愛、大きな自然や文化そういうところに『愛』や『尊敬』がすごく入っているので、自分が思ってもみないような家族の形や生き方、死ぬところまでも、やっぱり愛情を感じずにはいられないという漫画ですね」
その中でも特に、金子さんが推しているのが、「尾形百之助」というキャラクター。
尾形は、遥か遠くの的であっても必ず当てる、この漫画の中でトップクラスの腕を持ったスナイパー。主人公と行動を共にすることもあれば敵対して襲ってくることもあって、何を企んでいるのか全く読めないキャラクターです。
ふだんはクールな尾形なのですが…時々見せる「猫のような仕草」。
金子さん、このギャップがたまらなく好きなんだそうです。
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金子さん
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「すごくクールな所もあるんですけど、なんか、かわいいんですね。めちゃめちゃ人を殺しているのに、蝶々(ちょうちょ)をとろうとしたり、ちょっとこれだけで2年はしゃべれるね、みたいな(笑)そのワンシーンだけでも」
漫画推しあるある!?連載が待ちきれないと思いきや…
金子さん、漫画が連載中のときは木曜深夜0時前にはコンビニへ走り、雑誌を購入。
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金子さん
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「『読みたい』というよりも『読まねばならない』っていう気持ちで、0時に間に合うように 、ちょっとコンビニの前に待機して『すいません』って言って。なんかコンビニの店員さんも『お急ぎなんですね』みたいな感じで、品出し中のところ『これお売りします』って、一冊出してくださって『ありがとうございます』って買って帰ってきていました(笑)」
そこからは、推し仲間と一緒に熱く議論!
いま出来たてのこの話題、熱が冷めやらぬうちに語り合いたい!とみんなでワイワイ共有するのがすごくおもしろかったそうです。
さぞかし連載を待ち望んでいたんだろうと思いきや…こんな悩みも…
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金子さん
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「あまりにも怒とうの展開と、結構いろんなことが起きるから1話の情報量がすごくて、一週間に1話だと、もうこっちの身がもたないぐらい。たまに休載があったときは、『よかった、これでちょっと息継ぎができるね』っていうことばっかりでした(笑)」
推しの「解像度」を上げていく
「尾形を少しでもリアルに感じたい」と思った金子さん。
自分にできることは何だろうーと考え、たどり着いたのが、尾形のキャラクターや世界観をクリアにすることでした。
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金子さん
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「やっぱり好きなことだとどんどん知りたくなるみたいな感じで、わずかなことでも知りたいし、現在進行形で画面(漫画のコマ)の中に入れるなら入りたいとも思っています」
たとえば、作品の中では、アイヌ文化に対する描写も多いため、言葉や食べ物、しきたりなどを理解したいと、書籍を購入して勉強してきたといいます。
そして、推しの尾形が実在するならば、どんな感じなのだろうか、
その答えを求めるように金子さんが始めたのが…「自分の体で体験すること」でした。
尾形がツーブロックの髪型だったので、自分自身もツーブロックに刈りあげちゃったことも!
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金子さん
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「尾形は髪の部分をなでつけるっていう、なでなでするシーンがすごく多いので、自分でも鏡とか見ながら、こういう感じか。こういう角度でなでてるんだとか、手の位置はこうとか、お風呂上がったりすると髪が落ちてくるので、風呂上がりの尾形もこんな感じだったのかなと実感を得ていました」
たどり着いた先は…「モデルガンを撃つ」
尾形の解像度をあげるため、さらにはこんな体験も…
この日、訪れたのはモデルガンによる射撃ができる場所。
射撃可能なエアガンは100種類以上。
そのうちのひとつに、なんと、尾形が使っていた銃、「三八式歩兵銃」もあるんです。
この店の店長も「ゴールデンカムイ」の大ファンとのことで、特徴的な「尾形の銃の構え」をレクチャーしてもらうことに。
実際に持ってみると…
「重心は?左手がプルプルする…尾形の場合はこうしているよね…」
とみずからが体験することで、尾形に思いを馳(は)せます。
さらに、より尾形の姿かたちを自分なりに想像しようとこんな質問も…
「銃を撃っていると、どこの筋肉が一番発達しますか?」
「典型的に利き腕が明らかに太くなっちゃうんですよ。僕は左右で筋肉の付き方が全然非対称なんですけど、基本的には左腕よりかは、右腕のほうがつきやすいですね」
「よい情報を得ました、また解像度があがりましたね」
ほかにも、銃を扱うことで指が変形するのか、質問してみたり…
飽くなき探究心はとどまることを知りません。
また、銃の扱いの難しさも実感。
漫画の中では木の上から射撃し、命中させる尾形のすごさにも改めて気づくことができたといいます。
漫画という2次元の中で見ていた物を、実際に見たり体験したり、「こういうものが見えてきて、こういう風に行動していたかもしれない」とシーンを再現することで尾形に対する解像度がより上がっていると実感しています。
エピローグ:推しキャラに囲まれた生活をしていたら浮気を疑われたハナシ
公式から出されているグッズもコツコツと集めてきた金子さん。
そんな中、ひとりでひそかに楽しみにしているのが…
「尾形」をイメージした香水を夫の留守中に嗅ぐこと。
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金子さん
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「背中にふわっとスプレーすると、後ろから匂いがするので、『ああ、尾形が生きていて、後ろにいる』っていう気持ちになるんですよね。
『今日は右側にいるわ』とか、『今日は左に立って、ちょっと匂いが少ないから、ちょっと遠い所にいるわ』っていう気持ちになって遊んでいます」
実は…この香水をめぐって、大事件が勃発…!
あるとき、夫がいつもより早く帰宅。残り香に気づいた夫から問い詰められることに…
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金子さん
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「『おまえ、これどうしたんだ?』みたいな話になって、雲行きが怪しくなって『おまえ、浮気したべ』みたいな話になって、『いや、してないけど…』みたいなやり取りがあって、ちょっともめました。ネタが分かったら、『なんだばかばかしいな』って笑ってたんですけど、一瞬ヒヤッとしましたね」
正直に話をしたら、理解はしてもらったそうですが、夫に『また尾形のことを考えて香水をつけてるんだろうな』と思われるのも…と考えたようで、いまだに誰もいない時に楽しんでいるんだそうです。みなさんも、誤解なき推し活を…!
永遠に推す…!
惜しまれつつも作品は2022年7月に最終刊を発刊して、物語は終了。
取材していた私は、いわゆる“供給”(新しいエピソード)がなくなってどうやって推し活をするんだろうと思っていました。
これが浅はかな考えであり、大きな間違いであることに、取材中気づきました。
大変申し訳ないです。
金子さんに活動(推し活)のゴールとは?と問いかけると、
「この活動のゴールはないですね。ない。ゴールテープを切ることはたぶんないです」
と力強く答えてくれました。
推し仲間とともに、作品について語り合うことでまた新たな発見があったり、作者の野田さんの「○○に行って勉強した」という取材記事を読むたび同じ場所を訪れたくなるそうです。
ちなみに解像度をあげるため、次に体験したいのは、「あんこう鍋を食べること」だそう。
「解像度をあげていく」作業に終わりはなし。
シーンのひとつひとつを理解していくには、全然時間が足りないんだとか…
金子さんの推し活はまだまだ続きます。