推しは、愛を教えてもらったドラマ『美しい彼』

山梨県住む、前野和泉さん(51)です。
前野さんの推しは、2021年秋に放送されたドラマ『美しい彼』。
推しは推しでも、ドラマのすべてを推す、“ドラマ推し”なんです。

ドラマ「美しい彼」(2021年・毎日放送)
俳優の萩原利久さん・八木勇征さんのW主演のドラマ。
クラスに馴染めない男の子・平良（ひら）が、カリスマ的魅力を持った男性クラスメイト・清居（きよい）に恋をする物語。

たまたま見始めたドラマだったといいますが、回を重ねるごとに、ドラマが作り出す世界観にどっぷりハマってしまったといいます。

前野さん

「愛っていうのは成長することなんだっていうのが分かるドラマ。愛の神髄を教えてもらいましたね。お互いを高め合っていかないと一緒にいられない。一緒にいるために高め合っていく、成長していく、そこが肝ってことをドラマを通じて感じました。男女の恋愛でもいえる話ですが、男性どうしの恋愛を描いたドラマだからこそ、その部分がより鮮明に伝わってくるんですよね。お互い変わっていかないと続けることはできない。苦しい部分に目を背けないで、一緒にいるために強くなっていく。根本の愛ってほんとはこうだよね、成長をしていける、お互いが愛だよねっていうのを教えてもらったドラマですね」

前野さん、ドラマが中盤に差し掛かったころには、ストーリーの先が気になりすぎて原作本を購入。全４冊を一晩で読んでしまうほどの勢いだったといいます。

推しに背中を押されて、人生初の〇〇

特に好きなのは、八木勇征さん演じる、クラスのキング「清居奏（きよい・そう）」。
彼のどんな所が好きなのかというと…

前野さん

「輝いているところ。そして、やっぱり、強いところが私にとっての清居の魅力かなって思います。清居は自分に満足しないで、もっともっと良くしていこうとしている。その部分をすごい見習いたいっていうのが一番です」

前野さんは、清居に憧れ過ぎて、今まで長かったロングヘア―をバッサリとカット！
中学生以来のハンサムショートに挑戦、清居ヘアーにしてもらいました。
清居がしているピアスも真似してみたくなり、50代にして、人生で初めて耳にピアスの穴を開けました。

さらに、取材させていただいたときの服装は、清居が来ているシャツやネクタイと同じものを購入し、身に着けていました。
どうやって手に入れたかいうと…
ドラマのエンドロールで衣装協力のところを一生懸命、一時停止して、メーカーを特定し、現物にたどり着いたそうです。すごい、検索能力…！

ロケ地になったことで見えてきた上野原市の魅力

このドラマにハマったもうひとつの理由があります。
ドラマのロケ地になったのは、前野さんが住む山梨県上野原市。
自分が住む町がドラマを通じて美しく描写されていることに感銘をうけたといいます。

前野さん

「日常の上野原の風景を知ってるからこそ、どんと美しさにやられた感じです。
上野原の特性をこれだけ引き出して、良いところをより良くしている感じ。上野原だからこそ、これは撮れたんじゃないかなと思うような映像だったし、「ああ、美しい」ってこういうことだなっていうのを、ドラマを通してあらためて教わった感じです」

25年前に家族で上野原市に移住してきた前野さん。
ドラマをきっかけに当たり前にあった風景の美しさなど、町の魅力に気づいていったといいます。

前野さん

「撮影していただいたおかげで、私自身もただの川原だと思っていたところを、こんなにきれいなところなんだなってあらためて再発見できました。住んでよかったなって思っています」

ロケ地に住んでいるからこそできる推し活

そんな前野さん、撮影現場に住んでいるからこそできる前野さんオリジナルの推し活を始めました。それが散歩や仕事帰りの度に、ロケ地を写真に撮って、SNSにアップすること。

例えば、「ドラマでは出てこない夜のロケ地」や「桜が咲く季節のロケ地」など、季節や時間ごとに異なるロケ地の様子を発信。
ここに住んでいるからこそできる活動です。

そんな推し活を続けていた所、前野さんがSNSにアップする写真を見て、全国のファンから「美しい彼」のロケ地を一緒に回ってほしいという問い合わせがくるようになり、ファンをロケ地に案内することも！半年間で20人ほどのファンをロケ地に案内しました。

ちなみに、ほぼ全員の方が、はじめてお会いする方だったそうですが、会ってロケ地を巡ればすぐに意気投合したといいます。

前野さん

「最初のころは、遠くから来ていただいても、ただのこんな町だしって思ってて、がっかりされたらどうしようと思っていたけど。でも、皆さん、ほんとに喜んで帰ってくださって。ロケ地を見せて、ここを振り返ってくださいって言った時に「あー！ここは！」ってなった時の皆様の雄たけび。大好物です。しめしめじゃないけど、「だよねだよね」っていう、「ですよね」って感じになるのが本当に喜びです。毎回毎回、自分自身もフレッシュに、喜びを分かち合えるというか、本当にそれが最高の喜びですね」

さらに、ロケ地巡りをしている推し活が高じ、地元の観光協会ともつながりを持つように。
観光協会の人は、ファンの人が市を訪れたときに、ロケ地を教えてほしいとよく質問されていたのですが、なかなかうまく現場を説明できないというというもどかしさを感じていたといいます。

そこで！前野さん、なんと、自作の聖地巡礼マップを作成。

ドラマを知り尽くしている前野さんのアドバイスで、劇中で、清居がよく飲んでいるジンジャーエールも観光協会のドリンク売り場に置くようになりました。
細かいことですが、聖地を訪れたファンたちが楽しめるようにと工夫を欠かさないといいます。

個人の推し活から町を巻き込む推し活へ！？

さらにさらに、前野さんの推し活は続きます。とうとう町ぐるみに…
前野さんが、やってきたのは、ドラマのロケ地となった学校。
8年前に廃校になり、普段は入れない特別なロケ地です。

実は上野原市は、ファンに向けて学校を開放するイベントを検討。
イベント開催に向けて、ファンにとって押さえておきたいポイントを前野さんがアドバイスすることになったのです。

前野さんが提案したのは、「ただのロケ地めぐり」ではなく、ドラマの登場人物になりきって、シーンを忠実に再現することができるようにする『ごっこ遊び』。

たとえば、主人公2人が卒業式で話を交わす校舎裏で、側溝にスマートフォンを落としてしまうシーン。それを再現できるようにするため、当日は側溝のフタを開けておくように指示しました。

どの場所でどのシーンが撮影されていたのか…映像を見ながら1つ1つ特定していきます。
ファンに喜んでもらうため、前野さんのチェックが徹底的に行われていきました。
約2時間にわたる下見が終了。

イベント当日…ファンたちの反応は…？

そして７月上旬。準備期間３か月を経て、前野さん発案の「学校公開イベント」ついに公開！

当日は、天気にも恵まれ総勢、60名の男女のファンをアテンド。
遠いところで福岡から、そして日本に在住の中国の方も参加しました。

前野さんがこだわった『ごっこ遊び』も大成功！
当日は、劇中に出てきたパンとジンジャーエールを小道具で配布、前野さん、相変わらず細かい設定は欠かしません（笑）

参加した人は、ドラマと同じ構図で写真をとったりと、興奮冷めやらぬ様子…
誰もが聖地に足を踏み入れ、歓喜に沸き、その喜びを仲間と一緒に分かち合える「幸せ空間」が生まれたそうです。

前野さん

「やっぱり皆さんが来てくださるから、市と観光協会もこうして動いてくださったと思うので、市民として『美しい彼』のファンとしてどちらにも貢献できるように頑張っていきたいと思います」

もうすでに次回のイベントを開催してほしいという声も出ているようですが…
いまの前野さんの野望は…？

前野さん

「『美しい彼』に負けない美しい上野原にさらに磨き上げていきたいなって思っています。
上野原市ってほかにも撮影地になっているところが多いんですよね。大好きな街をもっと盛り上げるため、『美しい彼』っていうのが撮られたことを市民として誇りにもって、今後も盛り上げていきたいです」

前野さんを突き動かす原動力とは…

『美しい彼』のことを一言聞けば、魅力を語り続ける前野さん。
イベントを一つ開催するにも、こだわりがありました。
無料にしてもよかったのですが、今回のイベントは参加費を集め、市の事業として還元したいという思いがありました。
次回は未定ですが、今後もイベントを継続的に開催するためには、きちんとした収益を上げる必要があると、ある意味シビアに考えていました。

これほどまでの規模のイベントなんて、一度も主催したことなかった前野さん。
なぜ、こんなに前向きに行動的になれるのか…？
その問いを投げかけると、
「ファンでいるためには、清居みたいに強くないといけないっていうのが根底にあって、ちゃんと自分が人の輝きを自分のもののふりしてごまかすんじゃなくて、自分自身が輝く。
清居は、それができる人だから、だからこそ、私も清居みたいに自分自身が輝くって責任を持って。ファンとして恥ずかしくないように、成長していきたいんです」
と笑顔で語ってくれました。