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不登校の子どもたち 新たな居場所は“メタバース”

「学校には通えないけど、メタバース登校なら毎日できる」
「前よりは、勉強が好きになった気がする」
「ちゃんと夜早く寝て、朝早く起きるようになったのが最大の変化」


インターネット上の仮想空間=メタバースに集まって、ともに遊んだり、学んだり。
不登校の子どもたちの新たな居場所としてメタバースを活用する動きが広がりつつあります。

昨年度の小中学生の不登校は244,940人(前年度196,127人)と、過去最多を更新。
新型コロナウイルスの流行もあり子どもたちの状況が多様化する中、ひとりひとりに合った学びの形の可能性として、メタバース登校が注目されているんです。

「メタバース登校」ってどんなもの?子どもたちの新たな居場所になりそう?
実際にメタバース空間に飛び込んで取材しました。

“メタバース登校”とは?仮想空間に入ってみると……

メタバースへのログイン画面

メタバース空間へ行くのに特別なものは必要ありません。
ネットにつながった端末を用意。
あだ名を決め、自分のアバターを300以上のパターンの中から決め、ログインするだけ。

見学に訪れた私「ふじた」は、“勇者”のようなアバターを選択してみた

メタバース空間は、ちょっと懐かしいテレビゲームのような世界観。
朝9時にログインすると、すでに子どもたちや運営スタッフが歩き回っていました。

アバターどうしが近づくと自動でビデオ通話がつながり、おしゃべりできます。
学校の廊下を歩いていると同級生や先生に出会ってあいさつをするような、そんな自然なコミュニケーションが生まれる雰囲気がありました。

教室のような空間に入ると、その場にいる人たちとオンラインでつながる

プログラミングにゲームを使った探求学習……多岐にわたる学び

この空間では、毎週月曜日から金曜日、朝9時から14時半までさまざまなプログラム(授業)が行われています。国語や算数など基礎教科から、プログラミング、クラブ活動まで。

専属の職員のほかに、全国から集まった運営スタッフが、この空間内のプログラムを進行したり、子どもや親のメンターとなって相談に応じたりしています。

この運営スタッフの募集には、海外を含む各地から800人を超える応募があり、倍率は20倍だったそう。オンラインのため参加しやすいことが要因の1つだそうですが、子どもたちの成長を支えたいという大人がこれほどいることに驚きました。

プログラムの様子

教室をのぞいてみると、あるストーリーに沿って子どもたちとスタッフで“絵本”を作ろうというプログラムが行われていました。
この日参加したのは小学4年から中学2年までの、年代もさまざまな子どもたち。

「このシーンは○○ちゃんが書いてね!」

「主人公の服はどうしたらいいかな?」

「私はこんな風に描いてみたよ」

互いに協力しながらひとつの作品を作り上げていく。学校に行けず、人と関わる機会が限られる子どもたちにとって、とても貴重な時間のように感じました。

【子どもたちが描き上げた絵】
(主人公の女性が、お城に住む王子の危機を救って結ばれるまでの物語を描いた)

メタバース登校を“出席扱い”にする学校も

このサービスに注目したのが埼玉県戸田市です。

戸田市はこれまでも不登校対策に力を入れてきました。
小学校のなかに“不登校児童専用の部屋”を設置。休憩用のソファーや複数人で利用できるローテーブルを用意し黒板には、学校に来た子どもたちを歓迎するかのような装飾が施されています。まずは学校にきてもらうことでつながりを持ち、学習支援につなげる第一歩だそう。

一方で、学校や市の教育委員会の施設に来られない子どもたちのことは、なかなか把握できずにいました。

戸田市立新曽小学校 加藤貴嗣 校長

「家族以外とは会いたくないというお子さんもいたりするんですね。そうすると、学校からの手が、なかなかうまくつながらない。家庭訪問に行っても担任が会えず、オンライン教材を手配してもそれを持続していくことが難しいケースが多々あります」

家に留まる子どもたちに、どうしたら居場所を提供し、つながることができるのか。
検討した結果、戸田市が行き着いたのが、メタバースでの学習支援でした。
この秋から、校長が認めれば、メタバースでの活動を出席扱いにすることにしたのです。

戸田市立教育センター 杉森雅之 所長

「学校ではないですけど、社会と関わって人間関係を作ったり、子どもたちが学びに触れたり、あるいは、生活のリズムになって日常生活を規則正しく送れるきっかけになればと思います。その子にあった経験が1つでも、小中学校の間にできて、前向きに育っていく力が身につけばと思います」

こちらのサービスは1年前に始まったばかりですが、利用者は現在、自治体から紹介のあった人を中心に、全国ですでに90人を超えています。

戸田市の他にも、試行段階のものを含め5つの自治体と連携を進めているということです。

メタバースの居心地は?小5の“すいちゃん”に聞いてみた

子どもたちは“メタバースの学校”をどう感じているのでしょうか。

小学5年の“すいちゃん”

メタバース空間に通う千葉県の小学5年の児童に話をきくことができました。
水色や、水の中の生き物が好きで、「水」という漢字からメタバースでの名前は“すいちゃん”。

すいちゃんは人が多い場所が苦手で、2年前から学校には行っていませんが、メタバースのサービスは、平日ほぼ毎日利用しているといいます。

メタバース空間の居心地はどうか?

すいちゃん

「オンラインなので、密集しているという感覚がなくて。気軽におしゃべりできたり、気軽にきけたり。そういうのが、私の思う学校とメタバースの違い」

勉強が好きになったか聞くと……

すいちゃん

「前よりは、勉強が好きになった気がします。たとえば理科とか。理科のなかでも、生き物が好きです。メダカの雄と雌の違いとか。確かヒレの部分が平行四辺形か三角形かの違いだったと思います。
先生は優しいです。クイズを出しあったり、おしゃべりをしたり、毎日楽しみです。お友達は、とても印象的なのは『推し』がいる人が結構いて。いろんな推しを持った人がいます」

インタビューということで少し緊張した様子でしたが、はきはきと自分の言葉で説明してくれるすいちゃん。会話が進んだところで、一番きいてみたかった質問をしてみました。

メタバースで知り合った友達に、実際に会ってみたいと思いますか?
それとも、オンラインのままのほうがいいですか?


すいちゃんは、少し考え、「会ってみたいなというのと、オンラインのままでもいいというのと、どっちとも思っていて」と前置きした上で、こう話してくれました。

すいちゃん

「仲良くなって、実際に会って、いろんな遊びをしたり、たとえばオンラインではできない鬼ごっことか、オンラインではできないいろんなことをして遊びたいなと思います」

言葉を選びながら答えてくれたすいちゃん。少しずつですが、メタバースの世界のその先にいる、現実の友達への関心や興味を高めているように感じました。

すいちゃんの父親

すいちゃんの父親も、以前は受け身だったすいちゃんが、メタバース空間に通うようになって変わったと話します。

父親

「基本的に学校に行かず、ひたすらYouTubeを見続ける。なんとなく流れているものをただ見ているだけだったんです。でも、サービスを利用してから、自分で関心があるものをネットで調べたり、探求するようになったりして、能動性が身についたと思います。自分で考えるとか、自分で動くとか、ちゃんと何か自分の気持ちを伝えるとか。そういったことは、メタバースでの学習支援をうけて身についてきたことではないかと」

父親は、オンラインのほうが自由度が高く社会的な拘束が少ないため、すいちゃんには合っていたのではないか、とも話してくれました。

効果的な指導へ 支援団体と自治体の「緊密な連携が不可欠」

新型コロナウイルスの流行で、オンラインを活用した学習はこの1、2年ほどで子どもたちにとっても身近なものになりました。

不登校の支援対策に詳しい専門家は、メタバースでのサービスが広がる背景に、仮想空間ならではの安心感があるのではと指摘します。

東北大学教育学部 後藤武俊 准教授

「メタバースで自分のアバターをどこか好きなところに置いておく。何もしていなくても、他の人と同じ空間を共有している感覚が得られるのではないかと思います」

その上で、効果的な指導につなげるには行政と支援団体との緊密な連携が不可欠だと話します。

東北大学教育学部 後藤武俊 准教授

「不登校になったきっかけや、改善が見られたタイミングなど、履歴をきちんと積み上げていく。そして、学校に戻れるようだったら、学校の先生がそれを踏まえて指導できるようにするとか、つどつど対応を検討していく。情報の管理は公的なところでしっかり行っていくことが大切です」

戸田市は、このサービスを活用する際には、子ども1人1人にあった支援計画や実施報告書をNPOに提出してもらうことで、効果的な支援につなげたいとしています。

また、こうしたメタバースでの学習支援をきっかけに、まずは不登校の子どもたちに、周りの人たちとつながる一歩を踏み出してもらいたい。その上で、最終的には社会的な自立を促していきたいとしています。

取材後記

“授業は学校の教室で受けるもの”と考えられてきしたが、新型コロナウイルスの流行を経て大きく様変わりし、今、新たな選択肢が生まれています。

1人でも多くの不登校の子どもたちが、自分にあった“学びの場”を見つけられるよう、そして、社会とつながるきっかけを得られるよう、願います。

この記事のコメント投稿フォームからみなさんの声をお待ちしています。

担当 藤田Dの
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この記事の執筆者

さいたま局 記者
藤井 美沙紀

2009年入局。秋田局、国際部などを経て現職。7歳の息子の学びを探求中。

報道局 社会番組部 ディレクター
藤田 盛資

2011年入局、金沢局と首都圏局を経て現職。
「教員の働き方」や「校則改革」など学校現場を取材。

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