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臓器移植・臓器提供 メリットとデメリット 日本における課題は?

1997年に日本で「臓器移植法」が施行されて、ことしで26年。
移植医療が進まなかった日本で、脳死と判定された人からの臓器移植に道をひらくとして、患者団体などから大きな期待がありました。しかし、現在でも臓器提供・臓器移植の数は海外に比べて極めて少なく、臓器を提供したいという意思が、生かされていないとの指摘もあります。

臓器提供件数は、71の国と地域の中で63番目。約1万6000人が移植を望んでいる一方、希望者のわずか2%しか移植を受けられていません。
日本の国内外の臓器移植の現状をまとめました。

(クローズアップ現代取材班)

この記事は、公益社団法人 日本臓器移植ネットワーク(JOT)の資料などを元に作成しました。

JOTは、国内における死後の臓器提供に関するあっせん事業を、国から認められている唯一の組織です。あっせん事業の一環として、移植希望者の登録受け付けや、最新のデータ整備などを行っています。またドナーに対しては、専任の臓器移植コーディネーターの24時間対応、患者とのマッチング、臓器搬送の調整などを行っています。

ホームページ:https://www.jotnw.or.jp/

※NHKのサイトを離れます。

そもそも「臓器移植」とは

現在の臓器移植法で定められている臓器提供には、「脳死下の臓器提供」と「心臓が停止した死後の臓器提供」があります。この2つの、死後の提供による移植を希望するにはJOTへの登録が必要になります。
それとは別に、「健康な人(家族など)からの提供(生体移植)」も行われています。

提供可能な臓器は、臓器移植法や施行規則によって定められています。

脳死下⇒心臓、肺、肝臓(分割可)、腎臓、すい臓、小腸、眼球
心臓が停止した死後⇒腎臓、すい臓、眼球

臓器移植には、一人ひとりが4つの権利を持っています。
死後に臓器を「提供する」、「提供しない」という権利。同時に、移植を「受ける」「受けない」という権利で、どの考え方も等しく尊重されなければなりません。
死後の臓器提供については、自分で決定できる権利となっています。病気であることや年齢に関係なく、「いつ訪れるかわからないその日」のために、その意思を健康保険証・運転免許証、マイナンバーカード、臓器提供意思表示カードの意思表示欄などで示しておき、携帯しておくことが大切です。
ただ、提供には最終的には家族の承諾が必要になるので、家族と話し合い、意思について伝えあっておくことも重要です。
また、JOTのホームページ(https://www.jotnw.or.jp/ ※NHKのサイトを離れます。)で、臓器提供の意思を登録できます。インターネットで登録すると、臓器提供時に検索が行われ、本人の意思を確実に確認することができます。

長い「移植待機」の期間 増える待機中の死亡

現在(2023年4月30日)、JOTに登録している移植を希望する患者は、15517人です。

各関連学会の推計によると、心臓移植が必要な患者は年間500~1300人、肝臓においては約2200人といわれています。改正法施行後も、移植希望者は増えています。

1997年から2022年までに、国内での臓器移植はあわせて7071件行われています。一方、移植を待機している間に死亡した人は、合計7949人。移植者数は増加傾向にありますが、待機中の死亡者数もこの10年あまり年間300~450人ほどで推移。

国内における臓器移植のあっせん事業を行う、公益社団法人日本臓器移植ネットワーク(JOT)の門田守人理事長は、このデータに対して「1週間に8人が、臓器移植待機中に亡くなっていることになる」として、苦しい現状を訴えます。

JOT 門田守人 理事長

「移植を望んで登録し、待機しながら亡くなる人がこれだけ存在するという現実に心が痛む。本来あってはならないことだと受け止めている。しかし、これが先進国と言われる日本の現実だ」

日本と海外の比較は

日本の臓器移植件数は、アメリカやヨーロッパの諸外国と比べて、格段に少ないのが現状です。その理由は、言うまでもなく、臓器提供者が極端に少ないことが原因です。
日本の提供者数が少ない要因としては、脳死が「臓器を提供する場合に限って」人の死とされていること、臓器提供できる施設が限定されていることなどが影響していると考えられています。
さらに、医療現場で脳死患者が出た場合の対応策が明確になっておらず、そのため、ほとんどの脳死患者・家族に提供の話が伝えられていないのが現実です。
国ごとの臓器提供状況を示したものが次の図(IRODaT 2021)です。

WORLDWIDE ACTUAL DECEASED ORGAN DONORS 2021 (PMP)より作成

「自国での臓器移植」が世界的な動き

2008年の国際移植学会で、自国での臓器移植で救える命への取組を強化するよう求める「イスタンブール宣言」が採択され、「臓器移植は自国内でまかなうべき」という考えが世界のスタンダードになっています。この宣言では、弱者の搾取となる臓器売買が懸念されるため、海外に渡航して移植を受ける「移植ツーリズム」を禁じるべきだとする方針を示しました。

しかし、移植希望登録をした方でも国内でも移植の見込みが立たないことから、アメリカやドイツなど海外での移植を希望して渡航した患者は、少なくとも112人います(JOTホームページ 累積登録者数のデータ・2023年4月30日時点より)。
一人ひとりの命が尊重される社会のためには、国内での移植の充足が求められています。

日本の臓器提供 どうすれば増える?

臓器提供件数を増やしていくためには、どうすれば良いのか。
JOTの門田守人理事長は、「患者さんが脳死の状態になった時点で、臓器提供という選択肢があることを考える機会を確実に確保する制度づくりが急務だ」と指摘します。

JOT 門田守人 理事長

そのヒントとなるのが、海外の事例です。韓国やアメリカでは、脳死状態の患者が出た場合、医療機関には「臓器あっせん機関への連絡」を義務づける制度が整えられています。一方、日本では「任意」となっているのが現状。人口100万人あたりの臓器提供件数を見ると、韓国は日本の約10倍、アメリカは約40倍です。

門田理事長は「あっせん機関への連絡が義務化されれば、それに伴って、患者家族に臓器提供について話す場が確実に設けられ、提供に結びつくケースも増えていくと思う。少なくとも韓国並みの水準を見込めるのではないか」としています。

しかし、それを一気に進めるには、課題もあるといいます。
臓器提供の際にJOTから医療機関に派遣される「臓器移植コーディネーター」の働きが重要になりますが、同時に複数の臓器提供が発生する場合、対応が困難になることも考えられます。
このほか、移植手術をおこなう病院や、ドナーから提供される臓器が移植希望者に適合するか調べる施設についても、一気に提供数が増えた場合、機能がパンクしてしまう懸念があるとしています。
こうした状況をふまえて、門田理事長は、段階的に体制強化を図っていく必要があるとした上で「ブレーキをかけることなく前進させるため、出来ることに精いっぱい対応していく。新しい制度・体制づくりを進め、今こそ変わらなければいけないときだ」と話しています。

ある日突然病を発症し、臓器移植が必要になるという状況には、いつだれがなってもおかしくありません。
わたしたちにすぐ出来ることは、臓器提供意思表示カード、運転免許証、マイナンバーカードなどで、臓器提供の意思表示をすること。そして、家族の中で日頃から臓器移植についての考えを話しておくことなど。臓器を提供する側、または移植を受ける側として、自分事として考えることが大切です。

※2023年9月11日、その後の情報に基づき、記事を修正しました。

臓器提供の意思の登録、また臓器提供に関する最新のデータや詳しい情報は、JOTのホームページ(https://www.jotnw.or.jp/ ※NHKのサイトを離れます。)で確認することができます。

みんなのコメント(2件)

体験談
cosa
40代 女性
2023年5月24日
わたしは2021年に生体肝移植を受けました。家族に身体的リスクの大きな生体ドナーになってもらうことで万が一のことがあったら…と思うと生体移植をためらいましたが、脳死ドナーからの移植の場合、余命1年で待機期間は3年半以上なので間に合わないと言われ、脳死待機登録を諦め家族からの生体肝移植によって救われました。移植待機者の数の他にはこういった脳死移植を諦めた人もいます。20代後半で難病がわかりその後悪化、移植当事者に。誰でも突然移植当事者になる可能性があることを知ってほしいです
体験談
大ぶうちゃん
60代 女性
2023年5月23日
私は夫の母国で腎臓移植を受けました。もう18年になりますが安定しています。交通事故による脳挫傷で亡くなった青年の大切な片方の腎臓をいただき、透析困難者だった私は死ぬ程辛い透析から救われました。毎晩ドナーのご両親に感謝の祈りをしています。ご両親の温かい心がなければあり得なかったことです。日本の透析患者は驚くべきスピードで人数が増え続けています。腎臓と角膜と膵臓は心臓が止まっても提供することができます。祖父も父も生前から臓器提供を望み高齢だったので眼球のみ提供しました。アイバンクからレシピエントの感謝のお手紙を頂き皆で喜びました。父の目は他の方二人の片目となり今も世の中を見ています。日本はもっとドナー登録を進めるべきだと思います。善意は巡り巡ると思います。国民の意識の転換と制度や法律の整備は必要です。自分が死んでも他人の体の一部となって生命を救い自分も生き続けることができると考えて欲しいです。