子どもが性被害に遭ったとき 私は・・・ 2人の親の思い
我が子が被害に遭ったとき、どういう言葉をかけ、どう行動するか。親たちは、そのひとつひとつに悩み、苦しんでいます。11月27日に放送したクロ現プラス「まさか家族が性暴力に…」で伝えきれなかった親たちの苦悩と回復の道のりについて、記事で紹介します。
※この記事では、性暴力の実態を伝えるため、被害の具体的な内容に触れています。フラッシュバックなどの症状のある方はご留意ください。
(クロ現+ディレクター 荒井拓)
日常の一コマから “まさかの事態へ”… 娘を責めてしまった母親
週に一度は娘と一緒に買い物などに出るほど 仲良しの親子だったというエツコさん。“その日”も映画を見た帰り道でした。あるカラオケ屋の前を通った時に、娘が突然、「私、ここで危ない目に遭った」とつぶやきます。さらに、SNSで知り合った見知らぬ男性からだまされて、性器を触られたり、裸の写真を送らされたりしていたと続けました。すべてを打ち明けた娘を、エツコさんは30分以上、責め続けたといいます。
「まさか自分の子どもがそんなに目に遭うとは思ってなかったし、そんなことする子じゃないと思ってたのに、裏切られたっていうような気持ちと、なんで守ってあげられなかったのかという気持ちがありました。また、どういう育て方をしたら こうならなかったのか、育て方を間違ったんじゃないかと、自分を責める気持ちと、子どもを責める気持ちがあって・・・。」
“一番傷ついているはずの娘を責めてしまった”
その後、エツコさんは自らをいっそう責め始めます。実は、エツコさん自身も若い時に、性被害に遭っていました。知り合いの男性にレイプ被害に遭いながら、当時、誰にも打ち明けられなかった経験があったのです。
「私自身も性被害を受けた経験があって、ただ、それを自分で解決していなかった。心の奥の中にずっとしまったままにしていたので、実際に子どもに起こってしまったときに、本当にどうすればいいか分からなかった。私がずっと被害を他人に言えなかったのは、性被害に遭ったことを非難されたくなかったんですね。責められるのがものすごく怖かったので誰にも話してこなかった。でも、子どもは打ち明けてくれた。ようやく告白してくれたのに、私は子どもを責めてしまったっていうのがすごくつらかったです。実際どうすればいいか分からなかったんですね。」
娘は、見知らぬ男性から加害を受けて、男性不信になってしまいます。「夫が知れば、怒ってしまい、逆に娘を追い詰めてしまう」と思ったエツコさん。誰にも相談できず、専門家にもうまく巡り会えませんでした。エツコさんと娘は2人で追い詰められていきました。
すがるように手に取った…書籍の数々
そんな2人がすがったのが、さまざまな書籍。児童心理の専門書や性教育の本、小説や哲学書・・・エツコさんはあらゆる本を手に取り、娘にも勧めました。(*)
「読んで知識が増えることで すごく気持ちが落ち着いていったんです。本を読んで知識をつけることで、自分たちは どうしていったらいいのかなっていうのがだんだん分かっていって、すごく気持ちが整理できるようになりました。ただ、どの本がいいというのは分からないので、いろいろたくさん読んでいきました。不安な気持ちをどうすればいいか、自分についてどう考えていけばいいか、もっと書かれた本はないかな、というように探していきました」
いま、エツコさんと娘は被害のことも少しずつ話すようになったといいます。今回の取材についても、娘と相談して受けることを決断してくださいました。エツコさんと娘の、性暴力の傷から回復する道のりは、なお続いていきます。
*エツコさんが参考になったという本のリスト
「メグさんの男の子のからだとこころQ&A」(築地書館)
「女の子、はじめます。:ココロとカラダの成長ログ」(小学館)
「いや!というよ!―性ぼうりょく・ぎゃくたいにあわない」(あかね書房)
「いいタッチわるいタッチ」(復刊ドットコム)
「わたしのからだよ!―いやなふれあいだいきらい」(NPO法人女性と子どものエンパワメント関西)
「男の子を性被害から守る本」(築地書館)
「小さな女の子・男の子のためのガイド」「10代の少女のためのガイド」(明石書店)
「娘をこれ以上傷つけたくない」「加害者を断罪したい」 母親の葛藤と苦悩
関西地方に住むエリカさん(仮名)。現在20代の娘が、中学生の時に 個人塾の教師から性被害を受けていました。娘に打ち明けられた当時の自分の気持ち、そして、その後 揺れ動いた思いについて、取材班にメールで寄せてくれました。
「夫が長期出張で不在だったある日、娘は ほかのきょうだいが寝静まり、私と2人きりになった時に、『塾で先生が嫌なことをしてくる』と話してくれました。私は、娘の言葉から性的なことをされていると察し、娘を抱きしめました。抱きしめたまま、ゆっくり話を聞きながら、自分の心臓の鼓動が強く打っているのを感じました。しっかり受けとめなければ、娘を守らなければ、ここで泣いてはいけないと思ったことを覚えています。」
性被害の問題を扱う相談センターに早くつながることができたエリカさん。その後、警察にも相談を進めます。しかし気持ちが次第に揺れ動いていったといいます。
「ふとした時に、娘を塾にさえ行かせなければよかったと思うことが何度もありました。それは今でもあります。また、私は、『加害者を絶対に許さない』と強く思い、動き出すことにしましたが、娘と家族を守るため、夫以外の家族には言わないと決めたので、その中で「日常」を維持し、気持ちをコントロールするのが大変でした。さらに、警察へ訴えていく中で、娘にこれ以上 傷ついてほしくないと思いながら、加害者への怒りを形にするため、娘に思い出させ、話をさせなければならないことが何よりつらかったです。『これは親の責務なのか、親のエゴではないのか・・・』ずっと悩んでいました。
その後、人づてに「お嬢さんの方に非があった、悪かった」などという声を耳にすることもあったというエリカさん。性暴力については、やはり社会が変わる必要があると訴えます。
「社会の間違った認識が、被害者や被害者の家族をさらに苦しめることを知ってほしいです。性被害は加害者の身勝手な思いによってのみ引き起こされる人権侵害行為です。大人の被害であっても、ましてや子どもの被害ならなおさら、被害者には全くの落ち度がないということを社会の常識にしたいです。性暴力が関係ないと思っている人であっても、性暴力被害を受けたと話してくれた相手を否定することなく、まずは受けとめてほしいと思います。」
性暴力被害に遭った子どもへのケアに関わる専門家によると、被害者の親も「第2の被害者」であり、同じ傷を心に負ってしまうケースもあるといいます。「被害者本人の傷に比べれば…」と、“親としての傷”をひとりで抱える方も、本当にたくさんいるのではないかと感じました。親もまた、つらい気持ちを抱え込まずに、誰かに吐き出し、頼ることを選択肢に入れてみるのはいかがでしょうか。
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