「どんな状況でも 被害者のせいではない」 大藪順子さんのメッセージ
2019年7月3日に放送したクローズアップ現代+「気づかぬうちに被害者に・・・ 広がるレイプドラッグ」では、悪質な性犯罪の手口の1つ、「レイプドラッグ」について取り上げました。
スタジオゲストとしてお越し頂いた、性暴力被害の当事者で、フォトジャーナリストとして被害者の取材を続ける大藪順子さんのお話の中で、番組内ではご紹介できなかったものをまとめました。
“被害者のもとに駆けつける”のが“本当の支援”
私の体験をお話しさせていただくと、20年前にアメリカの自宅でレイプ被害に遭いました。そのときは近所の方が警察に連絡してくれて、自宅に駆けつけた警察官がすぐに救急病院に連れて行ってくれました。
アメリカではSART(Sexual Assault Response Team)と呼ばれるシステムが敷かれていて、例えば私のように誰かが電話をしてくれて警察にまずつながって、そこから病院につなげてもらう。病院で支援者とつなげてもらって、次は司法のこの人に会いましょうという計画をきちんと立ててくれて。ビクティムサポートというコーディネーターの人がちゃんといて、被害者が次に何をしないといけないのか、次に誰に話しにいけばいいのか、考える前に向こうからそれがやってくるという環境だったんです。カウンセリングも3か月間受けたんですけど、それも全部公費で賄われてたし、裁判の費用とかも一切払わなかったので、被害者には一銭もかからないサポートがきちんとあるんです。
大事なのは警察、医療、司法、それから福祉の方々が横でつながって、被害者フォーカスの支援というのを、被害者のもとに行ってするということ。被害者としては、自分から特別な場所にはなかなか行けない。そこまで来てねっていうのは基本的に支援じゃないんです。被害者のいるところに駆けつけるっていう体制がすごく大切だと思います。
どんな状況でも 被害者のせいではない
被害直後って落ち着いてるように見える人も結構いるんですけど、何が起こったのかっていうのを本当に理解するまで時間がかかるとか、人それぞれなんです。やっぱりどこかで自分にも非があったんじゃないかとか考えてる自分があって。
私は自分の家で寝てただけで、ドアを壊して入ってきた男に襲われているわけですから、どう考えても私は悪くないっていうのは自分でも分かってるんですけど…例えば、なんであの夜私は友達の家に泊まってなかったのかとか、裏口にもう1個頑丈な鍵をつけなかったから悪かったんじゃないかとか考えてる自分がやっぱりどこかにいる。そこから自分を解放してあげないと、なかなか自分らしく生きるってことがすごく難しくなってくる。
自分を責める心情っていうのはすごく計り知れなくて、人としてそれは当然のこと。でも暴力はあなたの意志で起こったわけではなくて、相手の意思がそこにあったからこそ起こったんだから、どんな状況でも被害者のせいではないとはっきり言えると思います。本当に恥ずべきは人の尊厳を何とも思わず奪うことのできる人なのであって、被害者ではないんです。
私の場合は、警察や支援員の人が真夜中に駆けつけてくれて、最初から「あなたは悪くない」という言葉をかけられてますし、最初から味方がいるんだということ、私のせいで起こったんじゃないんだということをきちんと伝えてもらってるんですね。
その言葉はすぐには素直に受け取れなくても、のちのちの生活において非常に大きな支えになりますし、そういう人と1人でも出会えると、被害者の人生っていうのはずいぶん変わっていくんじゃないかなと思います。
“回復の形”は人それぞれ
基本的に私は「#me too」なんて言わなくてもいい世界が来てほしい。なぜかっていうと、「#me too」なんていわなくても公正に裁いてもらい、加害者がきちんと責任を取れるっていう社会じゃないと本当はいけないと思うんです。
無理をしてまで自分をさらす必要はないし、この日本では残念ながら、声を上げた人がすごくバッシングを受けるという構造ができていて、その辺の難しさっていうのが特に日本はあると思うんですね。
声を上げる上げないっていうのはその人の選択であって、それも尊重されるべきなんです。だから、みんなで声を上げましょうと私は言うつもりはないんですけれども、その体験があるからこそ、その人にしか言えないことがあって、できないことがあるわけです。それによって誰かに手を差しのべることができたら、それはすごく価値のあることだと思う。人って比べたがるんですけど、全く比べる必要はなく、その人にしかできないことを見出していけばいいのではないかなと思ってます。
人それぞれに、心の回復にかかる時間があり、また回復の形というのもそれぞれ違うわけですよね。ですから、それをしっかりと見守っていくというのもとても大切な支援の1つだと思います。
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