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“戦争はやめてからが大変” 愛媛県からカンボジアへ 地雷処理を続ける77歳元自衛官

  • 2024年05月15日

カンボジアで内戦のときに埋められた地雷の処理を20年以上にわたり続けている元自衛官の男性が愛媛県にいます。なぜ男性はカンボジアで活動を始め、今も続けているのか。その思いを伺いました。
特集の内容はNHKプラスで配信中の「ひめポン!」(NHKGTV午後6時10分~)でご覧いただけます。

画像をクリックすると見逃し配信が見られます!見逃し配信は5/20(月) 午後6:59 まで

きっかけは自衛隊時代

砥部町在住の高山良二さん(77)は、カンボジアで内戦により埋められた地雷や不発弾を処理する活動を続けて20年以上になります。きっかけは、1992年からのおよそ半年、自衛官としてカンボジアで国連のPKO=平和維持活動に参加したことでした。
当時は内戦の停戦が合意されたあとでしたが、平和からはほど遠い状況だったといいます。

高山良二さん

「停戦の合意がされたからといって現地で鉄砲の弾が飛ばないかっていうと、そうではないんですよ。それとはもう完全に別なんです。まだ戦争もやっていたし、弾も飛んでいたんです。ほんとに任務を全部やったかと。やったはやったんでしょうけど、自分としては完全な満足感がなかったので、その悔しさというか」

生涯をカンボジアで

地雷処理の様子

「現地でやり残したことがあるのではないか」。
その思いを抱え続けていた高山さんは、55歳で自衛隊を退官した3日後、再びカンボジアに向かいました。

内戦で、カンボジアに埋められたとされる地雷は400から600万個と推定されていました。高山さんは元自衛官の仲間たちと現地で地雷や不発弾を処理する事業を立ち上げ、現地の人たちを育成しながら、地雷の処理にあたりました。

しかし、そのさなかに悲劇が起こりました。地雷の処理に当たっていた現地の住民7人が地雷の爆発に巻き込まれて亡くなったのです。

(高山良二さん)
「亡くなったその日、現地に帰ったときはおわびなんかしようがないんですよね。私が生きているかぎり彼らの供養を現地でしたいなという思いがありました」

地域復興も担う

高山さんはカンボジアでの活動を生涯続けると決意し、2011年には地域復興にも取り組むNPOを立ち上げました。生活に欠かせない水を確保するために井戸を作り、未来を担う子どもたちが教育を受けられるように幼稚園や学校も作りました。

さらに、現地の人たちが貧困から脱して経済的に自立するよう会社を作って焼酎やラム酒の生産にも取り組んでいます。地雷が埋められていた土地で栽培したキャッサバ芋やジャスミンライスなどを使った酒は、2023年にフランスで開かれた国際的なコンクールで入賞しました。受賞後、会社は高山さんの団体からの資金援助を受けずに、酒の売り上げで運転資金を確保できるようになりました。

(高山良二さん)
「地雷、不発弾をのければ、元の状態の安全な土地のゼロの状態には戻りますよね。しかし、ゼロまでに戻ったんでは自立復興には結びつかないわけなんです。地場産業を起こして、それがある程度村人の収入になれば、最終的にはカンボジア全体が発展していくと思っています」

内戦終了からカンボジアを見つめて

カンボジアで内戦が終わってからおよそ30年。高山さんが伝えたいのは、1度争いが起これば平和を取り戻すのにとてつもない時間がかかるということです。

(高山良二さん)
「戦争っていうのはやめてからが大変なんです。(地雷を)発見して、爆破処理して、村人から情報を得る。1度引き金を引いたら、こんな馬鹿げたことをずっとやらないといけないんですよということを私は国際社会に分かってもらいたいです。やっぱり引き金を引いたらいかんのです。人間がもっと戦争をなくすための努力っていうのを、人類の課題としてやらないといけないなというふうに思いますね」

取材後記

高山さんに最初に会ったのは2019年、記者になりたてだった私が高山さんの講演会を取材した時です。自衛隊を退官後、1年の半分以上をカンボジアで過ごしながら活動を続ける高山さんのエネルギーに圧倒されたことを覚えています。
あれから5年、今回の取材で久しぶりにじっくりとお話を伺う機会をいただきました。77歳というお年になっても、その熱い思いは変わっていませんでした。

高山さんによりますと、いまだに現地にどれだけの地雷が埋まっているかは分からないということですが、各国の支援のもと長年続けられてきた活動によって地雷で住民などが被害を受けるケースは年々減ってきているということです。
このためカンボジアの政府機関は、州ごとに地雷の探知活動の終了や、終了のめどを宣言し始めているといいます。

そんな中で、高山さんはいま、世界で相次ぐ紛争にも目を向けています。カンボジアでの活動は続けながら培った地雷撤去の技術や経験を生かしてウクライナや中東など別の地域でも問題となっている地雷の処理にあたりたいといいます。
ウクライナやパレスチナのガザ地区など世界各地で紛争が続く中で、内戦の終わりからカンボジアを見続けてきた高山さんの「戦争は終わってからが大変で、争いの引き金は引いたらいけない」ということばが、世界中のたくさんの人に伝わってほしいと思います。

特集の内容はNHKプラス配信終了後、下記の動画でご覧いただけます。

  • 勅使河原佳野

    勅使河原佳野

    2019年入局の記者。
    大学時代はアラビア語を専攻し、中東のエジプトとパレスチナ、ヨルダンに留学していました。

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