松山春まつりの大名行列をプロデュース!松山市出身 北川聖子さんの挑戦
- 2024年04月15日
豪華けんらんな時代装束を身にまとった市民たちが松山市中心部を練り歩く「松山春まつり」の恒例行事「大名武者行列」。桜咲き誇る松山城下で繰り広げられるの時代絵巻をエンターテインメントとしてプロデュースを依頼されたのは、松山市出身のダンサーで着付け師の北川聖子さんだ。ふだんはアメリカに拠点を置いて活動しているが、ふるさとへ恩返しがしたいと奮闘する北川さんの姿を追った。
(NHK松山放送局 宇和島支局 山下文子)
特集の内容はNHKプラスで配信中の4月8日(月)放送の「ひめポン!」(NHKGTV午後6時10分~)でご覧いただけます。
アメリカ在住の北川さんは、着物の魅力を世界中に発信しようと、和装でのパフォーマンスを各地で行っている。ダンサーであり、着付け師でもあり、その活動は幅広い。
そんな中、おととしニューヨークで開催された日本文化を紹介するイベント「ジャパン・デー」では「おいらん道中」を披露した。一時帰国して日本の伝統文化を研究するほど、情熱を傾けた。現地で活躍するアーティストとともに、本番のパフォーマンスでは圧倒的なその艶やかさに大きな注目を集めた。
さかのぼれば、昭和42年に始まったという「大名武者行列」。半世紀あまり続く恒例行事ではあるものの、コロナ禍では開催を断念せざるを得なかったという。主催する松山青年会議所は、去年4年ぶりに開催したものの、それまでのマンネリ化からなんとか脱却できないか考えていた。救世主はいないものか、とインターネットなどを使って調べ上げ、たどり着いたのが北川さんだった。松山青年会議所の赤松周さんはすぐさま北川さんへのアプローチを試みた。
「ニューヨークで和装パレードをした女性がいる。しかも、この女性、松山の人だぞというのに気づきまして、つてがないかなと。これまで、全部自分たちでやっていたんですが、今回、初めて総合プロデューサーとして北川さんにお願いしました」
依頼を受けた北川さんは、ちょうど帰国の時期とタイミングが合ったこともあり、快く引き受けたという。
「もともと子どもの時に見ていたっていうのもあるし、大人になってから自分がダンサー、パフォーマーになってエンターテインメントに携わる人間としてみた時に、『ああ、もっとこここうすればいいのにとか、なんでこんなすごい姿勢の悪い状態で歩いてるんだろうって、シャキっとして』って言いたくなっちゃう。言える立場だったらいいのにって思ったこともあったので、まさにこのお話をいただいたときには、私がやりたかったことがかなうとおもって結構わくわくしましたね」
準備にかけられる期間はわずか1か月半。まず取りかかったのは、地元の仲間たちへの声かけだった。フリーアナウンサーや起業家、芸子さん、ご当地アイドルなど、松山を拠点にしている女性たちと「松山神楽隊」を結成した。メンバーは皆、北川さんの思いに共鳴し行列を盛り上げたいという気持ちで集まった。全員で練習できる機会は数回しかなかったが、北川さんは見物客を魅了する振り付けにこだわったという。練り歩くだけだった行列にあでやかな動きを加えることで、エンターテインメントとしての質を向上させようとしたのだ。
また、北条高校のなぎなた部の生徒たちも、女武者として行列に参加した。北川さんは高校まで足を運び、伝統的ななぎなたの動きに加え、彼女たちの姿勢や目線、それに心構えまでもプロフェッショナルの目線で丁寧に指導した。ただ歩くのではなく、まるで本物の戦に臨む武者のごとく。
行列に参加するのは、およそ140人の市民たち。全員でのリハーサルは、本番前日の1回のみ。これだけ大勢の人を一度に指導するのは難しい。行列の途中で行われる合戦の演舞については、京都の映画会社の俳優たちがメインで指導することになっていた。北川さんは、途中途中で参加する市民にきめ細かく声をかけていた。ぐっと腰を下ろすと迫力のある構えになることや、背骨に頭蓋骨を乗せるイメージを持ちながらまっすぐ立つことで堂々とした姿になることなど、具体的なアドバイスを行った。
そして、本番当日。かっちゅうやはかま、それに忍び装束など、全員が時代衣装を身にまとっている。北川さんは、全員の前でこうあいさつをした。
「見に来てくれた方に、一瞬でも『うわあ、本物だ』ってそういう夢を見させたいんです」
桜は満開だった。雨予想だった天気も、まるでなかったかのように空には晴れ間が広がっていた。沿道には多くの観客が詰めかけていた。時代絵巻のような行列が始まった。
北川さん自身も演者として行列に加わり、仲間たちと扇子を手に踊った。路上のパフォーマンスの出来栄えは、実際にやってみるまでわからないと北川さんは話していたが、音楽がかかると神楽隊のメンバーは一糸乱れぬ舞を披露した。一方、なぎなた部の生徒たちも勇ましく、俳優たちとの合戦を見事に再現した。沿道にいた観客からは大きな拍手が送られていた。
北川さん
「一つの舞台を作るのにこんなに短い期間で作り上げることは本当にないんですけど、地元の人間だから、バックグラウンドに松山っていうこの土地があって、この土地に暮らした人間だからこそできるコミュニケーションがあって、だからこそ作れた演舞だったと思います」
松山城下に春を告げる大名武者行列。歩く人も見る人も、誰もが表情は明るかった。「松山の歴史や文化を感じた」という外国人観光客や、「ふだんなかなか見ることのないタイムトリップしたような気持ちになった」という地元の男性など、本当にほんの一瞬だけ松山のまちに時代絵巻がよみがえったようだった。地球の裏側にいても、地元松山を大切に思う北川さんは、プロデュースを引き受けた重責をこう振り返った。
「海外に出ていった私を支えてくれたのは、いつも地元松山の人たちでした。たった1日だけだったけど、ほんのすこし恩返しができたかな。まちがいなく人生の宝物になりました」
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