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“環境に優しい魚を世界に”持続可能な漁業目指す養殖マダイ【動画】

  • 2024年01月30日

国連が掲げるSDGs=持続可能な開発目標の1つに「海の豊かさを守ろう」という項目があります。漁業が盛んな南予地域でも魚を取りすぎないことなど、水産資源を守っていく方法が模索されています。こうした中で西予市の養殖会社が環境に配慮した新たなマダイの生産方法を開発し、ブランドとして世界へ売り込もうとしています。現場を取材しました。

特集の内容はNHKプラスで配信中の1月26日(金)放送「ひめポン!」(NHKGTV午後6時10分~)でご覧いただけます。

画像をクリックすると見逃し配信が見られます!見逃し配信は2/2(金) 午後6:59 まで

魚粉の使用を抑える養殖

マダイの養殖が盛んな西予市三瓶町。
ここで生産されているのが環境に配慮して育てられたマダイです。
最大の特徴はエサにあります。
養殖魚のエサには主にカタクチイワシなどをすりつぶした魚粉が使われています。

しかし、地元の養殖会社が使っていたエサの量から計算すると、マダイを1キロ大きくするのに必要なカタクチイワシはおよそ4キロと養殖業は多くの魚を消費していたのです。
そして今、世界的に魚粉の需要が高まる中でカタクチイワシは乱獲や不漁が指摘されています。このため、世界最大のシェアを占める、南米のペルーが去年も一定期間禁漁するなど、資源管理が厳しくなっています。
西予市の養殖会社の赤坂竜太郎さんは、養殖に多くの水産資源を消費することに矛盾を感じ、魚粉の使用を抑える必要があると考えました。

「養殖業は魚に魚を食べさせて大きくしているのが現実です。現状では養殖をどんどん進めていったとしても水産資源って増えない構造になっています」

無魚粉のエサを開発

そこで4年前、県外の飼料メーカーと共同で開発した「魚粉を使わないエサ」を使った養殖を始めたのです。魚粉のかわりに大豆や白ごまといった植物性の原料を配合しました。
マダイを育てるのにかかる期間のうち、エサの消費量が最も多いとされる出荷前の半年間、この無魚粉のエサを使っています。
2年前から出荷を始め、原料の配合割合などを変えた複数のエサを試しながら、魚粉の使用量をなるべく少なくして養殖しようと取り組んでいるのです。
しかし、大きな壁となっているのが植物性の原料のエサは食いつきが悪くなってしまうことです。

赤坂竜太郎さん
「無魚粉飼料って小さい子どもに野菜だけ食べさせるような取り組みなのでものすごい食べさせるのに時間がかかるんですよ」

そこで活用しているのがIoTです。
いけすにソナーを入れて魚がいる深さをリアルタイムで把握します。空腹の時に海面に近いところに上がってくる習性を生かし、浅いところにより多くの魚がいる時にエサをやるシステムです。
空腹時のタイミングで自動的にエサを投入することで、無魚粉のエサでも食いつきをよくしようというのです。
品質を保ちつつこれまでの生産方法と比べて魚粉の使用量を3割から4割減らすことができたといいます。

環境配慮が売りにも?

さらに無魚粉のエサで育てることで、販路の拡大にもメリットがあると考えています。
新たな生産手法は、環境への配慮を重視する海外市場での強みになるとして輸出に乗り出したのです。
それに加えて植物性の原料で育てることで雑味がなくあっさりとした味になり、生食になじみのない海外でも受け入れやすいのではといいます。

商談会の様子

赤坂さん
「水産資源を守るために無魚粉飼料でエサをあげているという取り組みを話した段階で『ワンダフルだね、素晴らしいね、ぜひ使うよ』と声をかけてもらうときもあります。これまで売れていなかった国で売れるようになるという事が1番大切なのかなと思っています」

無魚粉のエサを使って生産したマダイの売り上げのうち、アメリカと韓国、シンガポールに向けた輸出は3割から4割を占めるほどになり、今月からはインドへの出荷も始めました。環境に配慮した持続可能な漁業を世界に売り出すことで日本の養殖業の底上げにもつなげようという挑戦が始まっています。 

取材後記

今回の取材の中で赤坂さんからは「養殖業者の使命はただ魚を大きくして出荷するということだけではなく魚を増やすことにある」という声が聞かれました。
水産資源が少なくなる中で乱獲が進めば、これまで以上に魚が少なくなり海が貧しくなるおそれもあります。
日本では、養殖のエサに使われる魚粉は輸入に依存していますが、カタクチイワシなどの原料が不足していることなどを背景に世界的に価格も高騰していることから、エサを国産化することも課題となっています。
県内でも愛媛大学の専門家などが昆虫を含んだエサでマダイを養殖する実証実験を行うなど各地で水産資源への依存から脱却する取り組みが進んでいます。
漁業を持続可能なものにするためにも、生産者だけにとどまらず、多くの人たちが海の環境に目を向けていくことが重要だと感じました。

特集の内容はNHKプラス配信終了後、下の動画でご覧いただけます。

  • 有坂太信

    有坂太信

    2020年入局。2023年より八幡浜支局。趣味はラジオや野球観戦。

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