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養殖のりに異変!? 新たな一手に「ドローン」活用 【動画】

  • 2024年01月26日

例年、秋から冬にかけて愛媛県でも摘み取りが盛んになる養殖のり。しかし、今シーズンは摘み取りがほとんど行えない状態が続き、生産者からは悲痛な声があがっています。
対策に乗り出した愛媛県は、全国に先駆けてドローンを活用した実証実験を行いました。
のり養殖の現場で、いま何が起きているのか。実証実験の結果とあわせて取材しました。

特集の内容はNHKプラスで配信中の1月24日(水)放送「ひめポン!」(NHKGTV午後6時10分~)でご覧いただけます。

画像をクリックすると見逃し配信が見られます!見逃し配信は1/31(水) 午後6:59まで

西条市でのり養殖を営む藤田光馬さん(70)です。取材に伺ったのは1月中旬、本来であれば多くの船が摘み取り作業に出ている時期ですが、今シーズンはほとんど摘み取りができない危機的な状況だと藤田さんは話します。

「こんなにひどい状態ははじめてです。のり養殖では生活できないほどで、この状態では、のり養殖を辞めようかという人間が出てきています」

藤田さんたちを悩ませているのが、のりの生育不良とのりが黒く色づかない「色落ち」という現象です。特に「色落ち」は、近年、深刻になっているといいます。
のりが色づかず茶色いと、商品価値が低いため生産者の収入につながりません。藤田さんは、今シーズンは摘み取り作業をしない生産者も多いと嘆いていました。

「色落ちしたのりでは、商売人は買ってくれません。摘み取りの人件費などで1日あたり4万円から5万円くらいの赤字です」

 

原因のひとつとして考えられているのが、海の水質改善によってのりの栄養分となる窒素などが減少したことです。
愛媛県水産研究センター栽培資源研究所は、法律による規制の影響で家庭や工場から出ていた排水に含まれていた窒素が海に流れ出なくなったことが背景にあると指摘しています。

愛媛県水産研究センター栽培資源研究所 清水孝昭さん

「法律で規制がかかったことで下水道も完備され、どんどん瀬戸内海がきれいになってきています。瀬戸内海で生き物が生きていく、あるいはのりが育つのに必要な栄養分がだんだん無くなってきたという経過をたどっているようです」

海の栄養分が減った影響は、愛媛県内の養殖のりの販売量に表れています。上に示した販売量のグラフをみると、1980年代のピーク時と比べて2022年度は5分の1ほどに減っています。

愛媛県水産研究センター栽培資源研究所 清水孝昭さん
「色落ちの問題に関しては昔からあった話ではありますが、長期化あるいは高頻度化してきています」

「色落ち」対策のため愛媛県は、1月、新たな取り組みに乗り出しました。ドローンのタンクに窒素などが含まれる栄養分を溶かした液体を積み、のりの養殖場に散布する実証実験を行いました。全国でも初の試みだといいます。

幅50メートルほどの養殖場の上空を何度も往復させ液体を散布しました。ドローンを使うことで効率的に栄養分を散布することができるか検証するのが狙いです。

ドローンの散布後、西条市にある県の施設では早速、効果を調べる作業が行われました。散布した場所と散布していない場所ののりを摘み取って実験室に持ち込み、白い板の上で広げ比較しました。

光の反射を使って色の濃さなどを数値化できる専用の機器で10枚分ののりの平均値を計測したところ、「ドローンで散布した場所」の平均値は73.3。一方、「ドローンで散布していない場所」の平均値は76.3というデータが得られました。より濃い方が数値は低くなるため、散布した方が「色が濃くなっている」という結果になりました。

愛媛県は、データを蓄積するなどして「色落ち」防止の効果がどの程度続くか、また、散布する回数の影響などを、さらに検証していきたいとしています。

愛媛県水産研究センター栽培資源研究所 清水孝昭さん
「もう少し詳しく調べていかないとはっきりしたことは言えませんが、液体肥料を運んで直接まいてということができることで、いまよりも生産者の負担が省力化できる可能性があります。期待しながら、今後の実験の経過をみていきたいです」

取材後記

取材をしてみると、生産者からは去年は台風が少なかったことも影響しているのではないかという声も聞かれました。今シーズンは、愛媛県に限らず、佐賀県や岡山県などの養殖のり産地でも生育不良や色落ちが目立っているということで、愛媛県は問い合わせがあれば全国の産地にも実験の情報を提供していきたいとしています。

養殖のりの異変は、さまざまな環境要因が複雑に絡み合って起きているため、原因分析や対策の検討は生産者や行政だけでは限界があります。身近なのりの問題から、多くの人が海の環境について考えていくことが重要だと感じました。

NHKプラス配信終了後は下の動画でご覧ください

  • 秋山 度

    秋山 度

    2012年入局。大学では生物学を専攻し、「生命の神秘」と「社会の不条理」を学ぶ。 福井局、水戸局、科学・文化部を経て、2023年から松山局。 
    海など広大な景色を前にすると大声で歌いたくなってしまうのが悩み。

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