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四国でも注目の「アドベンチャートラベル」 東温市でのガイド育成に密着

  • 2023年12月05日

外国人観光客が戻ってくる中、四国でも大きく注目されている旅行形態があります。
その名も「アドベンチャートラベル」。
いったいどんなスタイルの旅なのか、そして四国にとってどうチャンスになるのか、愛媛県内で始まったガイド育成の現場を取材しました。

(NHK松山放送局 瀬田萌々子)

市場規模は70兆円

アドベンチャートラベルとは、自然の中で行うカヌーやハイキングなどの活動や、その地域に根ざす伝統的な文化などに触れる、“体験型”の旅行形態を指します。
いわゆる“観光ツアー”とは違い、その時、そこでしか味わえない体験をする。
ヨーロッパやアメリカなどの富裕層の間で親しまれていたもので、最近になって広がりを見せています。

“体験型”というと、これまでにも聞いたことがあるような気もしますが、注目は1人当たりの消費額。

一般的な観光旅行よりも現地での長期滞在が見込まれ、観光消費額も大きい傾向があります。

そのため、アドベンチャートラベルの参加者の平均消費額は、一般の旅行者の2倍。
中には1回のツアーで100万円以上使う人もいるそうです。
クルーズ船の客100人分を、アドベンチャートラベルは4~5人で使うという試算もあります。

アドベンチャートラベルの市場規模は世界で70兆円(2017年度)。
世界各地で広がっていて、2026年までに100兆円に達するとの予測もあります。

アドベンチャートラベルの風は四国にも

2023年9月に世界最大のアドベンチャートラベルの団体ATTAが毎年開いている国際商談会が、アジアで初めて北海道で開催されました。
会議には58か国から800名近い旅行関係者が来日しました。

左:四国ツアーズ 右:欧米メディア

この商談会には四国からも旅行会社が参加しました。
各国の旅行会社だけでなく、来日したメディアにも猛アピールしました。
さらに一部の旅行関係者が四国まで足を伸ばし、愛媛県や高知県でアドベンチャートラベルを体験しました。

課題はガイドの育成

この勢いに乗って、四国でもどんどんアドベンチャートラベルを広めていきたいところですが、実は大きな課題があります。
それが今回の本題、ガイド不足です。

愛媛県では、去年からアドベンチャートラベルに特化したガイドの育成事業を始めています。
重視するのは、「各地域に眠る“ガイド候補”を発掘すること」。
県の委託を受ける旅行会社代表の中野隆さんは、オンリーワンの体験を演出するガイドには、ワンランク上のスキルが必要だといいます。

四国ツアーズ代表 中野隆さん
「高付加価値の旅行なだけに、英語力だけでなく、地域を語れる人材が必要です。コミュニケーション能力やプレゼン力もそうですし、その土地に精通し、新しい情報を常にアップデートできる“地域ソムリエ”のような人が各地域にいるのが理想的です」

東温市でのモニターツアーに密着

9月、育成事業に参加しているガイドの卵が、東温市で実践的なモニターツアーを行うと聞いて同行取材しました。
ガイドを務めるのは、この春、松山市から東温市に地域おこし協力隊として移り住んできた小崎陵司さん(34)です。
東温市在住歴が短い小崎さんですが、市内でマウンテンバイクの講師をしていて、過去にもレジャー施設でガイドをした経験もあり、自然を堪能するアクティビティーには自信があって応募しました。

小崎陵司さん
「自転車に乗っていると、小川が流れて綺麗だったり、虫の鳴き声や涼しい風など、五感で感じる魅力が沢山あるので、そういうのを伝えていきたいと思っています」

小崎さんの研修は6月から始まりました。
まず、アドベンチャートラベルの基本的な理念を座講で学びます。
そして、その知識を生かして、具体的な旅行プランを開発していきます。
アドベンチャートラベルが盛んな北海道から講師を招いて準備してきました。

客として参加するのは、インバウンドを専門に扱う旅行関係者たちです。
実際には英語でツアーは行いますが、今回は小崎さんの基礎的なスキルを見極めるため、あえて日本語で実施されました。

1日目は、地元の観光名所である「白猪の滝」を目指し、サイクリングで地域を巡ります。
2日目は、滝から流れる豊かな水を利用した棚田を見学し、地域の暮らしを感じてもらおうという狙いです。

初日。
小崎さんは一行の先頭を走ってリードします。
マウンテンバイクの講師らしく、周囲の安全や参加者の体力など、細かく気配りして進んでいきます。

季節の花々や、天日干しにされた稲穂のことなど、「今、この場所でしかみられない風景」を感じてもらおうと、時折自転車を止めて、準備してきた解説を披露しました。

オンリーワンを伝える難しさ

途中、休憩を兼ねて途中までの評価を整理することになりました。
すると、次々と厳しい指摘が…。

旅行関係者
「(ツアーの)先が見えてなくて実際今どこを走っているのか、何も分からないままついてきたというのが第一印象でした」

旅行関係者
「“あなたにとってこの町の…”っていうストーリーが一つもない。道のルートとか、田んぼや神社があるって、ただ事実の紹介になってる。“僕にとってこの地域のお米って”とか“ここから見る棚田の風景が僕にとって本当に大好きな場所で…”という具体的なストーリーがあると、あなたにしか出来ない旅を演出できると思います」

予定通り先に進むことに気を取られて、全体像や状況をこまめに伝えていなかったり、伝えた情報は事前に用意したものばかり。
参加者が指摘したのは、“オンリーワン”の付加価値がつけられておらず、地域の奥深さを感じられないという点でした。

四国ツアーズの中野さんは、“オンリーワン”を体感してもらうには、「Authentic(本物であること)」・「Story(物語性)」・「Unique(希少性)」が必要だといいます。
そのため、英語力や段取りの良さにとどまらず、参加者の関心をつかむ「観察力」や「対応力」、深い共感を得られるような「伝え方」や「演出力」といった多岐にわたるスキルを身に着けて欲しいと考えています。

「地域が主役」

では、2日目はどうだったでしょう。

この日小崎さんは、ある工夫をしていました。
地元の人に登場してもらい、地域の人との触れ合いながら学んでもらう作戦です。
協力してくれたのは、地元でブランド米を生産する坂本憲俊さんです。

棚田を案内するのは、坂本さん自身。
小崎さんは脇役に徹します。

棚田の歴史、地域の気候、生産の工夫やこだわりなど、テーマである水との暮らしを地元の人のことばで聞きます。
そしてみんなで火を起こして土鍋で米を炊き、一粒一粒を堪能。
一行からは、自然に笑顔もこぼれました。

最後に地域を守る神社で宮司の話を聞き、参拝をして旅を締めくくりました。

“輝く未来しかない”

小崎さんの2日間のモニターツアーが終了。
参加者からは前向きな言葉が聞かれました。

旅行関係者
「地域ポテンシャルは高いし、地元の人々もすてきだし、ガイド候補もいる。豊かな文化や自然に恵まれても、放置されてる地域が山ほどあるなかで、地域のために頑張ろうって(小崎さんのように)手を挙げる人がいて、輝く未来しかないと思いますよ」

四国ツアーズ代表 中野隆さん
「アドベンチャートラベルのコースはまだ開発段階です。だから旅行商品もガイドも未完成ということで、お互い勉強しながらお客様を迎え入れる体制を作っているのが現状です。愛媛に住む若者には、ぜひアドベンチャートラベルという新たな旅行形態を知ってもらい、地方で活躍する新たなビジネスチャンスとして注目して欲しい」

取材を終えて

取材の中でアドベンチャートラベルの大きな魅力だと感じたのは、地域への還元です。
地域経済を考えると多くの観光客に来てもらいたい反面、オーバーツーリズムの問題もあります。
ガイドブックに載っていないような地域でも、四国には驚きや感動がいっぱい。
アドベンチャートラベルを通して、そうした魅力を感じてもらう人が少しでも増えることを願っています。

  • 瀬田萌々子

    瀬田萌々子

    2023年入局。松山赴任ではじめての地方暮らしです。学生時代に海外旅行や留学で学んだことは、地元の人にとにかく会う!と言うこと。愛媛を愛するローカルの皆様からいろんな発見を頂きお伝えできるよう頑張ります!

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