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愛媛県伊予市に“レア”な植物が大集結!

  • 2023年12月05日

2023年10月末、伊予市の山奥にある植物園「中山フラワーハウス」に朝から行列ができていました。
何やら普段あまり見かけない、珍しい植物がたくさん集められているんだとか。
私も植物が好きで部屋に飾っている一人。
マニアックな世界が広がっていそうという期待感に胸を膨らませて、取材してみることにしました。

(NHK松山放送局 瀬田萌々子)

四国最大級の植物即売イベント

植物園で行われていたのは“レアな植物”を販売するイベント「植縁祭」でした。
観葉植物や多肉植物、そして塊根植物など実にさまざま。

四国内外から生産者が集まり、中には200~300種類の植物を持ってくる人もいました。
こうしたジャンルを越えて多品種の植物が一同に集まる即売イベントは全国的にも少ないようで、植物の愛好家だけでなく好きすぎて自らも生産するようになった「趣味家」と呼ばれる人たちもいました。

大阪からの出店者
「うちが出しているのは“アロイド”と言われるサトイモ科の植物がメインでアンスリウムとかモンステラなどがあります」

愛知からの出店者
「ディッキアを主に扱っていて、タイと名古屋に拠点をもっています。原種のものも、ハイブリットも両方販売しています。ディッキア好きからみても新しいもの、見たことのない品種があって喜ばれますよ」

会場で植物を見て回っていると、ひょろっとした髪の毛のような芽が出ているだけなのに1万6千円もしている苗が売っていました。

「ゲチリス・ベルティシラータ」というこの品種。
高額な値段がついているのには訳がありました。

ゲチリス・ベルティシラータは、受粉して種ができたらすぐに蒔かないと発芽しないという変わった特徴があります。
外来種を扱う場合、種の状態で輸入をし、生産者が発芽から苗に育てる方法が多いんですが、
ゲチリス・ベルティシラータに関してはそうはいきません。
この特徴のため、そもそも苗を育てるのが難しい品種なんです。

また、生産者は苗ごとに番号を振り、採れた地域・種をまいた日付などの「生産情報」を管理して明確にします。
こうすることで購買者からの信頼に繋がって苗そのものの価値も上がるんだそうです。

愛好家が見る レア植物のポイント

愛好家たちを引きつけるのは、品種が珍しいものだけではありません。
葉っぱの付き方や模様の出方などの“個体差”も大きな判断材料です。
それが珍しければ珍しいほど“レア”ということになります。

具体的にどんなところを見ているのか、兵庫からはるばるやって来たという愛好家に教えてもらいました。

たとえばこちらの植物。

目を凝らして良く見ると、それぞれの柄や色合い、葉っぱの形が違っているの、分かりますか?

白っぽい色が出ているものもあれば、出ていないものもあったり。
模様の面積が多いものも少ないものも。
こうした個体差によって出た個性に名前をつけて、株を増やしていく生産者も中にはいるそうです。

兵庫県からの来場者

「品種は同じでも、他では見られない柄や葉っぱの形をしたレアなものは、現地で採ってきたプラントハンターさんが“ネームド”といって、特別にその苗に名前や番号を付けるんです。私はアグラオネマ・ピクタムという植物を買いに来たんですが、何年も前に採ってきたレアな柄のものを、株分けして増やしながら丁寧に育てている愛知の生産者さんがいるので、楽しみにやってきました」

男性のお目当てのアグラオネマは愛好家の間で“ジメジメ系”と呼ばれる、湿度の高い土地で育つ植物です。
男性はアグラオネマ愛が強すぎて、自宅の部屋の中に植物専用の栽培ハウスまで設置して、最適な環境を作るほど熱を入れようです。

“レア植物がある暮らし”をのぞいてみた

会場に、ひときわ熱心に吟味している2人組がいました。
松山市から来た忽那義博さんとまいさん親子です。

植物が好きで即売会やガーデニングショップなどを一緒に巡るのが最近の趣味という忽那さん親子。
どのように植物を楽しんでいるのか、後日自宅を訪ねました。

もともと父・義博さんが植物好きで、自宅にいくつか植物を栽培していたそうです。
そこにコロナ禍での植物ブームが起き、奇抜な見た目や珍しい品種のレア植物が出回るようになったことで、まいさんも興味を持つようになり、のめり込んでいったそうです。

まいさんの部屋がこちら。

所狭しと並べられた植物。
あれもこれもと買い進めるうちに気づけば30種類を超えるまでになったそうです。

ただ、これだけの数の個性的な植物を育てるのはさすがに大変です。
まいさんが見せてくれたのは日当たりや水加減など、それぞれの特性をこまめに記録したリストです。

まいさんはこの情報を義博さんと共有して2人で管理しています。

最近は、植物が増えすぎて出窓が一杯になってしまい、日光の代わりに植物専用のLEDライトを購入。
仕事で家を空けるときは義博さんが世話をすることになるため、義博さんは家族で唯一まいさんの部屋への出入りが許されている存在なんだそうです。

会社員として勤める傍ら、アーティストとして絵を描いているまいさんにとって、植物はインスピレーションを与えてくれる大きな存在なんだといいます。

忽那まいさん
「“おはよう”とか言いますよ。自分と同じように植物も生きていて、“買って終わり”じゃないので。私の家に来て植物が枯れちゃって、ハッピーじゃなかったら意味がないというか。家に来て良かったって、買った植物が元気に育ってくれたら嬉しい、という気持ちで愛でています」

レア植物の世界をより多くの人たちに届けたい

即売会を主催した田下賢策さんは、伊予市にある植物園「中山フラワーハウス」の館長で、5年ほど前から珍しい植物を多く扱うようになりました。
それまでは花苗などを扱っていて、客層は40~60代がメイン。
レア植物と入れ替えたことで、20~30代も多く来るようになったといいます。

「コロナで外出できなくなった時、若者の間で自宅で植物を育てようと買い求める人が多くなったんだと思います。変わった見た目の植物や珍しい品種のものは、若い人が趣味で育てているんですね。ちょうど新型コロナの時期が、私がレア植物を本格的に扱うようになった時期と重なって、多くの人が来園してくださるようになったので驚きました」

人気の高まりにともない、中には価格が急激に高騰した植物もあるそうです。
田下さんは、より多くの人にレア植物の楽しさを知ってもらうため、できるだけ手頃な価格で提供できないか試行錯誤を重ねています。

中でもこだわっているのが種から育てる「実生」です。

水やりなどを細かく管理をしながら半年~1年、時間をかけて育てます。
販売できる大きさになるまで時間はかかりますが、苗を購入するよりも安く提供できる上、成長過程で思いもよらない変化を見せることもあるといいます。

田下賢索さん
「近年は、“斑(ふ)”という白い模様の入った葉っぱが人気なんです。“親”となる斑入りのものを交配させて育てると、多くの子は同じように斑が入ります。でも中には“先祖返り”といって、もとの緑に戻ったり変わった形で成長するものも出てきます。これは育ててみないと分かりません。どっちが良い悪いというわけではなく、突然変異したものも“個体差”としておもしろいのです。これが種から育てる“実生”の魅力です」

40年以上、園芸業界で植物と向き合ってきた田下さんですが、多様な品種の特徴を捉えて育てるのは大変だといいます。
時にはせっかく育てた苗が全滅してしまったことも。
それでも、芽が出たり、思っていた通りに育った時の喜びは、格別だといいます。
 

「植物を育てる時って、状態が良くもなり悪くもなるけど、悪い状態のものを良くするとか、さらに大きくしようとか、目標をもって植物と対話して日々変わっていく喜び・感動を多くの人に味わって欲しいと思います」

取材を終えて

専門的な知識がほぼ無い状態で取材を始めましたが、即売会を主催した植物園館長の田下さんが丁寧に教えてくれたことで、その魅力を少しずつ理解できるようになりました。即売会の会場で植物の微妙な違いを見抜けない私に対して、熱く語ってくれた愛好家の皆さんからも、多くの学びを得ることができました。おかげで私も目にする植物をついじっと観察してしまうようになりました。
趣味の世界は、ハマっている人たち以外には理解しづらいと思うかもしれません。でも、是非みなさんも一度“レア植物”を手に取ってみてください。そこには奥深いステキな世界が広がっていると思います。

  • 瀬田萌々子

    瀬田萌々子

    2023年入局。松山赴任ではじめての地方暮らしです。学生時代に海外旅行や留学で学んだことは、地元の人にとにかく会う!と言うこと。愛媛を愛するローカルの皆様からいろんな発見を頂きお伝えできるよう頑張ります!

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