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道後温泉 約1.5倍に値上げへ

2024年7月から460円→700円 背景を解説
  • 2023年11月08日

大規模な保存修理工事が行われている松山市の観光名所・道後温泉本館。4年前から行われている工事は最終段階を迎え、来年7月から全館で営業が再開されます。こうした中、松山市は営業再開にあわせて、入浴料金をいまよりおよそ1.5倍に値上げする案を示しました。
なぜいま値上げするのか、背景を取材しました。

(NHK松山放送局 奥野良)

保存修理工事中の道後温泉

松山市の道後温泉本館は国の重要文化財にも指定されていて、老朽化や耐震対策のため、4年前から営業を続けながら大規模な保存修理工事が行われています。道後温泉本館を訪れたものの、「シートで覆われていて、外観がみえない」と残念に感じた方も多いのではないでしょうか。保存修理工事は先月末時点で78%が完了し、今月には建物を覆っていたシートが撤去されるなど最終段階を迎えています。市は来年7月から全館での営業を再開することにしています。

こうした中、松山市は全館での営業再開にあわせて入浴料金をいまのおよそ1.5倍に値上げする案を有識者などで作る審議会に諮問しました。

「神の湯」の入浴料金
 460円→700円

「霊の湯」(入浴と休憩所をセットで利用できる)
 2階の共有の休憩所を利用する場合
 1280円→2000円
 3階の個室の休憩所を利用する場合
 1580円→2500円

このほか、日本で唯一、皇室専用の浴室とされる「又新殿」の観覧料金も270円から500円に引き上げるとしています。

値上げの背景は収支の悪化

なぜいま値上げが必要なのか。
松山市は、新型コロナウイルスによる入浴客数の減少や、物価高騰などによる収支の悪化を理由に挙げています。

こちらは道後温泉本館の入浴客数の推移です。新型コロナの感染拡大前の平成29年度はおよそ80万人が利用していました。その後、大規模な保存修理工事が始まったこともあり、令和元年度は48万人と減少。さらに新型コロナの感染拡大の影響も重なり、入浴客数は17万人、11万人と大きく減っていき、行動制限の緩和もあり、昨年度ようやく18万人と増加に転じました。

道後温泉本館の運営は、主に利用者が支払う入浴料金によってまかなわれているため、入浴客数の減少は事業収支に大きな影響を与えます。
令和元年度は、収入が支出を上回っていましたが、令和2年度以降は、入浴客数の減少に伴い、収入が減ったため、松山市の一般会計から赤字を補填している状況です。

これに加え、光熱費をはじめとした物価高騰や人件費の上昇もあり、松山市は、いまの料金のままだと、令和7年度以降、毎年「1億円」の赤字が出ると試算しました。
こうした状況を受け、松山市は道後温泉本館の管理と運営を安定的に続けていくために、値上げに踏み切ったのです。

地元の人と観光客の反応は

今回の値上げ案について、街の人はどう感じているのか。
話を聞いてみると、地元の人は値上げを懸念している一方で、観光客からはむしろ現在の入浴料金は安いとする声も聞かれました。

松山市の10代女性
「値上がりするって思ったら、ちょっと行かないかも。それ相応のサービス向上とかがあったら良いかもしれないなと思うかもしれません」

観光客の50代男性
「道後温泉本館の浴室は小さかったので700円と言われると、ちょっと高いなと思うけど、値上げが続いているので、そのぐらいとってもおかしくないんじゃないかな」

観光客の70代女性
「むしろ安いと思います。ほかの温泉施設は大体1000円くらいするでしょう。観光する人が訪れるんだから、私はそれくらいとってもいいと思います」

値上げでサービス向上も目指す

今回の値上げ幅は現在のおよそ1.5倍で、高く感じるかもしれませんが、他県の温泉地の入浴料金と比較するとどうなのか。松山市によりますと、値上げは他県の温泉地でも行われているといいます。兵庫県の有馬温泉や城崎温泉、それに群馬県の草津温泉でも、ことしに入って値上げされていて、料金水準はむしろ他の温泉地に追いついた形だとしています。
さらに、松山市は今回の値上げに合わせて、入浴客へのサービス向上も目指すことにしています。

脱衣所

道後温泉本館を利用したことのある方なら分かると思いますが、これまで、脱衣所や休憩所には冷暖房機器が設置されていませんでした。温泉に入ったあと、脱衣所で汗をかいてしまった方も多いと思いますが、来年7月以降、冷暖房機器を設置するということです。

また、シャンプーやボディーソープなどが必要な場合は、受け付けで購入しなければいけませんでしたが、これらも新たに備え付けられる予定です。このほか、有料だったドライヤーも先行して無料で使用できるようになりました。

今後のスケジュールは

松山市が示した道後温泉本館の値上げ案。審議会は非公開で議論を重ね、今月7日、答申書をまとめ野志市長に提出しました。

答申書では、「一般会計から赤字補填を行っている現状は早急に改善する必要があり、全館営業再開にあわせて料金改定はやむを得ない」として市が示した値上げ案は妥当だと結論づけています。
そのうえで、入浴客数の動向を注視し、必要な際には改めて料金を見直すべきだとしたほか、サービス向上とともに道後温泉ならではのレトロな雰囲気を保つよう要望しました。
 

野志市長

これに対し、野志市長は「いただいたご意見や要望をしっかりと反映し、全館再開に向けて準備をしていきたい」と述べました。

松山市は審議会の答申を踏まえ、来年7月の全館の営業再開までに入浴料金を改定するための条例案を市議会に提案することにしていて、議会で可決・成立すれば正式に値上げとなります。

取材後記

4年前に始まった道後温泉本館の保存修理工事も終わりが見えてきました。しかし、この間、新型コロナの感染拡大による入浴客数の減少や長引く物価高騰など、環境は大きく変わりました。道後温泉本館には多くの観光客が訪れています。値上げに対する考え方はさまざまだと思いますが、値上げによって入浴客が減ることがないよう、サービスの維持・向上を図るとともに、道後温泉を訪れた観光客にどう魅力を発信してリピーターを増やすのか。絶えず、新たな施策を考えていくことが求められていると思います。

  • 奥野良

    奥野良

    2019年入局。警察・裁判取材を経て現在、行政取材を担当。趣味はサッカー観戦で、国内だけでなくヨーロッパのスタジアムにも足を運ぶ。

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