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松山の世界王者スイマーは76歳 “まだまだ泳ぎがうまくなりたい” そのワケは

  • 2023年11月07日

「まだまだ泳ぎがうまくなりたい。優勝し、頂点の景色を見てみたい」。
ことし10月、愛媛県で開催された「ねんりんピック」に出場した76歳の世界王者スイマーの言葉です。いくつになっても、そんな情熱を持ち続けられるのはすばらしいことだと思いませんか?あくまで上を目指す、その向上心と精神力の源に迫りました。

(NHK松山放送局 清水瑶平)

“人生の半分が水泳”

愛媛県で初めて開催された「ねんりんピック」。60歳以上の人たちによる「スポーツと文化の祭典」と言われ、全国からおよそ1万人のシニア世代が集まりました。県内すべての20の市と町で合わせて29種目の大会が行われ、オリンピックやパラリンピックにも負けない、熱い戦いが繰り広げられました。

熊谷治さん

水泳の大会に選手兼監督として出場した、松山市に住む熊谷治さん。ダイナミックかつリズミカルな泳ぎは、76歳という年齢を感じさせません。25メートルのバタフライのタイムは今も15秒台で、水泳部の男子高校生とも戦えるレベルです。

ことし8月には、およそ100か国から1万人ほどが参加して福岡市で行われた世界マスターズ水泳(75歳~79歳の部)で優勝し、世界の頂点に立つ快挙も達成しました。

熊谷さん
「目標の1つだったんで、てっぺんの景色を見たときは本当に気持ちよかった。私の人生の半分くらいは水泳ありきです」

スピードの秘密は肩甲骨にあり

高校生の頃の熊谷さん

熊谷さんが水泳を始めたのは中学生のときです。「人生の半分」どころか、水泳人生は64年目になります。若いころは体力に任せたがむしゃらな泳ぎしていたそうですが、60歳を過ぎたころから泳ぎを変えたといいます。体力や筋力が落ちていく中で、どうすれば速く泳げるのかを考えなくてはならなくなったためです。

試行錯誤の結果、独自の体の使い方にたどりついたといいます。その「熊谷オリジナル」と呼ぶ泳法を特別に教えてもらいました。

「ポイントは“肩甲骨”です。背中、もしくはあばら骨から腕を動かすような気持ちでグッと前に肩甲骨を出します」

水をかくときに肩甲骨を前に押し出すことで、以前よりも20センチほど遠くまで腕を伸ばせるようになったといいます。1かき20センチほどの差は、10回繰り返せばおよそ2メートルもの差になります。さらに、肩甲骨が前に出て体の重心も前に来たことでより推進力が生み出されることにもなったといいます。

実際、泳いでいるときの熊谷さんの広背筋は激しく収縮し、それに合わせて肩甲骨が大きく動いていました。熊谷さんは、自分の体と向き合い使い方を学びながら考え抜いたことで、若いころよりもむしろ今の方が泳ぎは洗練されたと感じているといいます。

「昔はこんなんじゃないですよ。ほとんどイケイケで行っていたけど、年を取れば取るほど、いわゆる骨格だとか筋肉だとかを意識しなければいけないなとなってきたんです」

いくつになってもうまくなりたい

70歳ごろからは、若いころはほとんど行わなかったという筋力トレーニングにも取り組むようになりました。週3回欠かすことなく、体幹を中心に鍛えています。

さらに、去年からは新たに肩甲骨のストレッチも取り入れています。この立派な広背筋には、思わず見とれてしまいます。
どれだけ年を重ねても泳ぎがうまくなりたい。熊谷さんを突き動かしているのは、飽くなき向上心と衰えることのない精神力です。

熊谷さん

「うまくなりたいんです。もっと誰が見ても綺麗だねって言われる泳ぎをしたい。だんだん体力が落ちてくるのに、気持ちまで落ちていくのは嫌でしょう」

熊谷さんは、ふだん松山市のプールで水泳教室のコーチも務めています。子どもから高齢者まで幅広い年齢層を指導するときに意識しているのが「みずから考えてもらう」ことだといいます。みずからの経験から、どうすればうまく泳げるのかを考えて工夫すること自体が水泳の楽しさだと実感しているからです。

「教え子たちの目標でありたい」
熊谷さんのこの思いは、水泳をする上で大きなモチベーションになっているといいます。教え子たちは、ねんりんピックの出場を前に熊谷さんに感謝の言葉とエールを送りました。

「いつも楽しく教えてくれて、ありがとうって言いたい気持ちです」
「くまコーチ、頑張れ!」

「いくつになっても目標を持ってチャレンジしていれば、“生き生き感”が出てくると思うんですね。年を取ってもやればできるよ、いきいき生きられるよって。そういうことを見ている人も感じてくれるんじゃないかな」

“負けたくない!”ライバルとの対決

そして迎えたねんりんピックの開幕式。今回が3回目の出場となる熊谷さんは、選手団を代表して宣言をしました。

「人生100年時代と言われる長寿社会の中、今まで培ってきた力と思いを存分に発揮し、笑顔が広がり健康や生きがいを実感できる大会とします!」

熊谷さんには「負けたくない」と話す相手がいました。

小川博隆さん

岐阜県代表の小川博隆さん(75)です。同学年で、2人が出場した過去2回のねんりんピックでの対戦成績は、このような結果になっています。

2019年和歌山大会 25m
バタフライ
1位
熊谷さん
2位
小川さん
50m
バタフライ
3位
小川さん
4位
熊谷さん
2022年神奈川大会 25m
バタフライ
1位
小川さん
2位
熊谷さん
50m
バタフライ
1位
熊谷さん
2位
小川さん

これまで2勝2敗ときっ抗しています。
果たして、ことしの結果は・・・。

4コースが小川さん 5コースが熊谷さん

25メートルと50メートル、いずれも制したのは小川さんでした。

25m
バタフライ
1位
小川さん
15秒38 2位
熊谷さん
15秒83
50m
バタフライ 
1位
小川さん
34秒53 2位
熊谷さん
36秒77

レース後、2人はがっちりと握手を交わし健闘をたたえ合いました。

「勝ちたい気持ちが先走ってしまった。心のコントロールがまだまだですね」

熊谷さんに話を聞きながら、敗因にまで若さを感じるなあ、と思っていたところ、小川さんが通りかかったので2人一緒にインタビューをさせてもらいました。

「熊谷さんと戦って勝てたのは、とても嬉しいし光栄ですよ。本当に強いですから」

「いやいや来年はもっと頑張って、もう1回リベンジさせてもらいます。好敵手がいるっていうのはやっぱり燃えるものがあります」

2人の爽やかな笑顔を見ていると、来年の対決が今から待ち遠しくなりました。

諦めたら終わり

取材の最後に熊谷さんに「若い人たちに伝えたいことはありますか」と尋ねてみました。

「諦めずに1歩ずつでもいいから、前に進んでいってもらいたいなと思います。諦めたら終わりです」

そして、こう付け加えました。

「私があるのはやはり水泳があるから。ずっと永遠に続けていきたいと思っています」

大切なのは目標を持つこと、仲間がいること、そして何かに向かって諦めずに進んでいくこと。76歳のスイマーは、頂点を目指してきょうも泳ぎ続けます。

  • 清水瑶平

    清水瑶平

    2008年入局、初任地は熊本。その後社会部で災害報道、スポーツニュースで相撲・格闘技を中心に取材。2021年10月から松山局。学生時代はボクサーでした。

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