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新居浜太鼓祭り 太鼓台をぶつけ合う「鉢合わせ」 伝統か安全か

  • 2023年11月02日

愛媛県を代表する秋祭り「新居浜太鼓祭り」。太鼓台と呼ばれるけんらん豪華な山車で市内を練り歩き、毎年10万人ほどが訪れる人気の祭りです。一方で「けんか祭り」としても知られ、中でも太鼓台どうしをぶつけ合う「鉢合わせ」は危険な行為として、地元の申し合わせで禁止されています。しかし、毎年のようにこのルールは破られ、乱闘騒ぎに発展することも。伝統と安全をめぐって揺れる新居浜太鼓祭りの現場を取材しました。

(松山放送局記者 伊藤瑞希、新井一真)

ことしも…

10月16日から3日間の日程で始まった祭り。50あまりの山車の上には「指揮者」が乗って台を率い、「かき夫」と呼ばれる担ぎ手が威勢のいい声を上げながら街を練り歩きました。しかし初日の朝…。

宇高太鼓台と本郷太鼓台が鉢合わせを行いました。山車に飾り付けているはずの幕も外していることから、臨戦態勢なのがわかります。結局、両太鼓台には「解体命令」が出され、ことしの祭りへの参加停止処分が下りました。

何度も防止策も検討されたが

これまで市や警察、そしてそれぞれの太鼓台の代表らで作る、祭りの推進委員会は何度も鉢合わせを防止しようと、対策を練ってきました。太鼓台は高さ5メートル、重さ3トンにもなり、一歩間違えれば重大な事故にもつながりかねません。また去年は鉢合わせを原因とした暴力行為が発生し、見物客を含む10人が救急搬送される事態にもなりました。

推進委員会は祭り前の9月にも会合を開き、ことしの対策を協議。例年どおり鉢合わせを起こした太鼓台への補助金の減額を決めたほか、新たに運行ルートも見直して太鼓台同士が出会うことを防ぐための工夫もしました。それでも起きてしまった鉢合わせ。これで11回連続です。

なぜ「鉢合わせ」は起こるのか?

どうして毎年のように鉢合わせは起こるのでしょうか。現場を取材してみると、参加者も祭りに対してさまざまな意見を持っていることがわかりました。

金栄太鼓台

去年、乱闘騒ぎを起こした川西地区。13の太鼓台が所属する最も大きな地区です。この中の「金栄太鼓台」の総責任者の横山準さんは、鉢合わせも祭りの伝統文化の1つだとして一定の理解を示します。もともとは漁師の漁場や農民の田畑の水をめぐる対立から発展したとされる鉢合わせ。この伝統文化を現代の価値観だけでなくしてしまっていいのかという立場です。しかし、横山さんは鉢合わせがヒートアップして暴力行為に及ぶことに強い懸念を抱いています。こうしたことなどから、この太鼓台では鉢合わせをしないという方針のもと、創立から10年、安全な運行につとめているといいます。

金栄太鼓台 横山準 総責任者

「線引きが1番難しいと思いますけど、本当の意味の伝統文化と暴力行為の切り離しが今後の課題になると思う。だからといって伝統文化をすぐに変えてしまうことは難しいことであり、その中でどのようなお祭りを子どもたちに残していくのかというところが1番大事になってくる」

一方で、「鉢合わせの文化」よりも安全な運行を重視する太鼓台もあります。川東地区の「又野太鼓台」では60年近く鉢合わせを行わず、祭りに参加してきました。祭りの直前の練習では、自治会長から改めてルールの徹底が呼びかけられるなど、年長のメンバーから青年団まで、意識の統一を図っています。

又野太鼓台 岡部涼 青年団長

「こんな良い飾りを鉢合わせをして痛めることはそもそも頭にないですし、先代の先輩方が又野太鼓台を守ってきたことを考えると、太鼓台を担ぎ上げて魅せて魅了して安全な運行をする。私たちは一斉に太鼓台を担ぎ上げる『かきくらべ』に重点を置いている」

過激な声も

しかし、鉢合わせを積極的に肯定する意見もあります。カメラを向けないという条件で取材したところ、「居酒屋でけんかになって、その因縁から鉢合わせをした」とか「ちょっとでもあおられたら、鉢合わせをやりに行く」と血気盛んな声が聞かれました。その中でも複数あったのが「鉢合わせがあることで、祭りの参加者が集まる」という意見です。

匿名を条件に取材に応じたある男性が詳しく説明してくれました。少子高齢化や人口減少で祭りの担い手が少なくなるなか、市外や県外など本来のコミュニティの外に参加者を求めるようになったのです。その際、鉢合わせを目的にやってくる人も少なくないというのです。

時代に合わせた祭りを

伝統と安全、そして地域の事情で考え方が分かれる鉢合わせ。専門家は時代に合わせて祭りのあり方を模索することが大切だと指摘します。

上智大学 芳賀学 教授

「全国の祭りは全般的に安全の方にだんだんウエイトがシフトしているのは確かだ。その分だけ、危険性が高い祭りはこれから運営が大変になってくるだろう。伝統というのは、形というよりはその活動に関わる人たちが感じる意味や感覚というところに私は伝統の本質があると思う。危険性が問題になるなら、危険性を少し落とした形で自分たちのお祭り形の方にシフトしていくというのが最も健全で理想的な姿かなと思います」

取材後記

初めて見た太鼓台の迫力、それを取り巻く参加者の熱気には本当に圧倒されました。
一方で、鉢合わせという巨大な太鼓台をぶつけ合うことの危険性も実感しました。
祭りの伝統を保ちつつ、いかに安全性を担保するのか。二者択一で簡単に答えが出せる問題ではないと思います。しかし、伝統や神事を大切にするあまり大きな事故や、命が犠牲となるような祭りはあってはならないとも感じます。時代にあわせた祭りのあり方を模索する話し合いを、地域で重ねていく必要があると思います。

  • 伊藤瑞希

    伊藤瑞希

    2016年入局、津局と松江局を経て現在、松山局で経済分野の取材を担当。趣味はゴルフ、腕前は同伴者を引き立てる絶妙なレベル。

  • 新井一真

    新井一真

    2023年入局。埼玉県春日部市出身。大学時代は弁論部に所属、大学院では政治学を研究していました。現在、遊軍担当。趣味は散歩、古書店とスイーツめぐり

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