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完全週休3日でも給料は同じ! 働き方改革で経営層獲得?

  • 2023年10月13日

土日だけではなくて毎週水曜も必ず休み。そんな働き方ができるなら転職したいですか?今、完全週休3日制を導入し人材獲得の呼び水にしようとしている企業があります。
それが愛媛県でバスや鉄道を運営するグループの統括会社です。その背景には人口減少が進む中でも今後の成長を維持しようという会社の経営戦略がありました。

(松山放送局記者 伊藤瑞希)

水曜には社員がいない

週休3日制を今月から本格導入したのは愛媛県内で鉄道やバス、不動産事業などを展開するグループの統括会社「伊予鉄グループ」です。

休みになった水曜に本社を訪ねてみるとー。

水曜日のオフィス

社員約50人が勤めるオフィスには誰も出勤しておらずがらんとしていました。

“ワークライフバランスが充実”

それでは休みが1日増えた会社員は休日をどのように過ごしているのでしょうか。

松山市に住む秘書課の亀岡久佳さんは、母校の小学校でかつて自分も所属したサッカーチームで、子どもたちにサッカーを教えています。

指導する亀岡さん

亀岡さんは「子どもたちと指導を通して触れ合うことで、気持ちの面もリフレッシュできています。こうやって指導をすることで地域貢献ができるんじゃないか」と話していました。

ほかの社員にも話を聞いたところ「休みを趣味やセミナーに行く時間にあてたい。休日ができた分、仕事に優先順位をつけながら働いていきたい」、「家族と過ごす時間が増えるのがメリットだと思う」などと社員には好評なようです。

給料・勤務時間は?

気になるのが給料ですが、これまでと同じだそうです。

そして勤務時間はフレックス制度で、1日のうち5時間が必ず勤務する「コアタイム」でそれ以外の時間帯は仕事の進み具合などに応じて働く時間を自分で決める仕組みです。これも以前と変わりません。

スキルアップで仕事にも

ではなぜここまで思い切った制度を導入したのか。それには社員のワークライフバランスの充実とともに会社の経営戦略が大きく関係しています。

その狙いの1つは増えた休みを社員それぞれがスキルアップなどにつなげることで仕事に生かしてもらうことです。

どういうことなのでしょうか。入社5年目、人事課の松本大樹さんの休日・水曜日を取材させてもらうと、朝、家を出てあるビルに向かいました。

水曜日の松本さん

そこで机に向かい本を開く松本さん。専門学校に通って勉強しているのです。これまでは土日だけでしたが、毎週水曜日も7時間ほどを資格を取得するための勉強にあてています。

松本さんは、「社会人として強みを身につけようと思って、税理士の資格を取ろうと。それを会社にも還元したいと考えています」と話します。

週休3日制の導入を担当した藤田正仁・広報秘書部長は、制度の狙いについて次のように話します。
 

藤田正仁・広報秘書部長

「週休3日にすることで仕事の効率化とか質の向上というのは期待するところだが、それに結びつくような経験、旅行でもいいし、資格の取得でも、それが仕事に結びついていくようなサイクルというか、私生活が充実して仕事も充実していくというようなことを望んでいる」

将来の経営陣を獲得したい

もう1つの大きな狙いは、今いる社員だけを考えたものではないと言います。
週休3日制を呼び水に高度な人材を獲得しようとしているのです。

会社は人口減少や少子高齢化で鉄道やバス事業を取り巻く環境が厳しさを増す中で、都市開発ビジネスの強化に乗り出しています。

会社が跡地開発を進める予定のスポーツ施設

そのビジネスを会社の成長につなげることができる経験豊かな人材を必要としているのです。

都市開発ビジネスを成功させて地域の活性化につなげることができれば、鉄道やバスの公共交通の利用者も増えていく。そうした好循環を思い描いていますが、地域の人を呼び込む魅力ある街づくりはそう簡単ではありません。

そこで大都市で都市開発に関わった経験があり35歳以下の中堅の即戦力を呼び込みたいと考えています。

ただ、優秀な人材を獲得したくても大企業と比べて遜色ない水準に賃金を上げることは困難です。
そこで制度の導入に向けて1年半ほど前から検討を重ねてきました。その結果、若い世代にとっては賃金だけではなく休日が増えることが魅力になるとして、地元出身でキャリアを積んだ人などを呼び込めるのではないかと考えたのです。

人事担当者は人材獲得のためミーティングを重ねる

人事の担当者は、「完全週休3日を魅力的な情報発信ができれば採用につながっていく。新規事業を考えたときにM&Aの経験を積んだ方とか、上昇志向を持っている人や考え方が固定化してない柔軟性を持ってる人が欲しい」と話しています。

さらに、会社では30代から40代の年齢層の社員が比較的少ないことから、こうして新たに獲得した人材を会社のかじ取りを担う将来の経営陣に育てたいという思いもあります。

“優しいようで厳しい制度”

一方、休みを増やすことは会社にとっても簡単なことではありませんでした。休みが増える一方で、出勤する日の1日あたりの労働時間が長くなっては本末転倒です。

そこで業務の効率化を図ることが大きな課題になっています。

このため、本社のオフィスを改築して紙の書類を保管していた棚を7割ほど削減し、思い切った電子化を進め社内では原則、資料に紙を使わないことにしました。

 

また、打ち合わせスペースのいすを撤去することで必要なことだけを話し合うよう促して
打ち合わせ時間の短縮につなげるといった地道な工夫も。

社員に対しても資料を作成する際に対話式AI、ChatGPTでたたき台となる文章をつくって参考にすることも推奨するということです。

会社側は社員のワークライフバランスの向上につながる一方で、「優しいようで厳しい制度」だと考えています。社員1人1人も今までより短い時間で成果を求められるため、さらなる業務効率化が必要になるからです。

藤田広報秘書部長は

「完全週休3日制の導入というのはわれわれグループにとってもチャレンジだ。われわれが10年、20年、地域の中で成長していくためには、われわれの求める人材の方に会社を目指してもらい、一緒にまちづくりをしていってもらいたいと考えている」

と話します。

“差別化”を売りにできるか?

会社では、完全週休3日制は四国での導入事例はまだあまりないと見ている上、公共交通を担うグループの会社としても珍しいのではないかと考えています。

他の企業にはない独自の人事システムを売りにしたいという思惑です。

伊予鉄グループのHP

今、社員のワークライフバランスをどう充実させ、どうやって優秀な人材を獲得するかは愛媛県内の企業にとって共通の課題になっています。

こうした中、休みを増やすという新たな試みで“差別化”を図ることで人材獲得につなげることができるのか。愛媛で始まった取り組みに引き続き注目したいと思います。

  • 伊藤瑞希

    伊藤瑞希

    2016年入局、津局と松江局を経て現在、松山局で経済分野の取材を担当。趣味はゴルフ、腕前は同伴者を引き立てる絶妙なレベル。

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