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水の料金も値上げ…愛媛県西予市でトイレ・風呂の水再利用実験

  • 2023年09月29日

電気、ガス、食品。身の回りのさまざまなモノの価格が値上がりする中、私達の生活に欠かせない「水」にその波が及ぼうとしています。
背景にあるのは水道の料金収入の減少と水道管の老朽化です。人口の減少が進み、水道の利用者が減る中で水道管を修理して維持するための財源が不足する中、水道料金を値上げする自治体が増えているのです。
風呂や洗濯などで毎日、使う水はどこまで高くなるのか?そんな懸念が強まっている中、水道インフラに頼らず生活に使った水を浄化して繰り返し使うシステムの実証実験が愛媛県西予市で進んでいます。
(NHK松山放送局 記者・奥野良)

風呂や洗濯の排水、雨もすべて再利用

実証実験が行われているのは、愛媛県西予市の山あいにある住宅。8月下旬に設置されたのは、「小規模分散型水循環システム」と呼ばれる新たなシステムです。
東京のスタートアップ企業「WOTA」が独自開発した水処理の技術で、既存の水道インフラに頼らず、生活で使った水をその場で浄化して再利用します。

実証実験で設置された「小規模分散型水循環システム」

トイレや風呂などで使われた生活排水は、極小の穴が開いたフィルターで汚れやウイルスを取り除き殺菌処理して再生され、飲んでも問題がないレベルまで浄化されるということです。

水の使用量を確認する水量モニター

住宅の脇に設置されたタンクは、排水処理をするタンクと処理後のきれいな水を貯水するタンクがあり、センサーを活用して使用量や水質を分析。生活水と、トイレ水の処理の水路は系統を分けて処理しているといいます。

水道の老朽化は深刻

水道管を通して浄水場から水を供給し、排水を下水処理場で処理していた従来の水道インフラとは異なり、住宅単位で水処理を実現させたこのシステム。

生活排水を再利用する実証実験のイメージ

愛媛県で実証実験が行われている背景には日本の水道インフラを取り巻く深刻な現状があります。日本では高度経済成長期に人口増加へ対応するため各地に水道管の整備が進みました。令和3年度時点で水道の普及率は98.2%とほぼ全ての地域で普及しています。
しかし、日本中に張り巡らされた水道管は今老朽化して一気に更新の時期を迎えているのです。

維持には地球4周分・33兆円必要

厚生労働省によりますと、法律で定められた水道管の耐用年数は40年。全国の水道管のうち、耐用年数を超えた水道管は15万2500キロ。実に地球およそ4周分にあたる長さです。今後30年で水道管の更新に必要な費用は約33兆円に上ると試算しています。

実験を行っているスタートアップの前田瑶介CEOは次のように話します。

「人口が減少して水の需要も減る中、今後の10年間から20年間で水道管を更新するのかも含め、何にどのくらいの投資をすべきか判断が求められる。水道インフラを持続できるのか、今が重要な時期だ」

愛媛では2800億円不足か

愛媛県でも各自治体が水道問題に直面しています。県によると、水道管を含めた水道施設をこれまでどおり使えるように維持するのに必要な投資額は令和40年度までの1年ごとの平均で216億円に上るといいます。その一方で、県内では人口減少に伴って水道料金を支払う利用者数も減っていて、各自治体の水道事業の収入は年々下がっています。

県内の自治体の水道事業の収入見込み

この結果、県は、令和40年度までに合わせて2800億円が不足する見込みだとしています。

相次ぐ値上げ

インフラの維持に設備投資が必要な一方で収入が減っていることによって不足する財源を補うために、県内の自治体で水道料金の値上げが相次いでいるのです。

松山市はことし4月、22年ぶりの料金引き上げに踏み切りました。引き上げ幅は平均で13.89%、平均的な家庭で月に375円の負担の増加です。 今治市の家庭の水道料金はことし8月から平均で9%、新居浜では去年10月に全体で32.8%引き上げられました。

実証実験を担当する愛媛県の山名富士デジタル変革担当部長は次のように話します。

「10数年前から水道の財源の確保は難しいと分かっていたが、具体的に解決策がなかった。既存施設の老朽化と人口減少を抱える地方自治体にとってこのシステムには大きな期待を持っていて、県内各地への横展開も考えていきたい」

水道がない生活

水道水が自由に使えない生活はどのようなものか。実は、今回西予市で実証実験が行われているのは、水道が整備されていない住宅です。

住民の山本英明さんと、近くに住む住民は自ら給水設備を設置しています。これまではその設備を使って山の湧き水を生活用水として使っていたのですが、特に天気が悪いときなどは生活に必要な水を手に入れるのも一苦労だといいます。

「台風や大雨のあとは、水源地の山を登って水まわりの掃除をしていますが、大変です。そうしないと、ゴミがたまって汚れた泥水しか出なくなるからです。蛇口をひねったら常にきれいな水が出る人たちにとっては全然理解してもらえない作業ですが」

地区の住民にとって水は決していつでも気軽に使えるものではないのです。

スタートアップ企業と西予市はこの地区で水道の整備を進めると設備投資・維持管理を含め15.5億円かかると試算しています。実験に使われているシステムを導入すると9億円程度のコストはかかりますが約4割は抑えられる可能性があるといいます。

愛媛県では人口の6%余り、およそ9万人が水道の整備されていない地域に住んでいて、県はこうした地域で導入を進められないか検討したい考えです。

山本さんは使ってみた実感を次のように話します。

「家の水は1回使ったら排水をして捨てるだけと言う感覚で育ってきました。最初は生活排水の利用するのは少し抵抗がありましたが、水質もにおいも全く気になりません。水道がなくてもこれで安心です」 

新たなインフラに?

実証実験は、西予市のほか今治市、伊予市でも予定されています。そして、県やスタートアップ企業は水道の老朽化する地域でも水道に代わるインフラにできないか検討を進めたい考えです。

スタートアップの前田CEOは

「日本が直面する将来の水道インフラを解決する取り組みは、単に私たちが『やりたい』課題ではなく、今後必ず『やらなくてはいけない』課題だと思う。次の世代のために我々が未来を作り出していきたい」

と話します。

「やらなくてはいけない」取り組み

とはいえ、システムの導入には、まだ課題もあります。生活用水を再利用することにユーザーである住民の理解が得られるか、導入地域を県や市町村と連携してどのようなスケジュールで拡大できるかといったことがあります。
さらに、従来の水道を更新するのと比べると半分ほどに抑えられると試算はしていますが、それでもシステムの導入の財源をどのようにまかなうかも大きなハードルです。

ただ、将来、私たちの生活にとって必要不可欠な水が自由に使えなくなるような事態を防ぐためにも、日本が抱える“水の危機”について、今から官民一体となって動き始めることが求められていると感じました。

  • 奥野良

    奥野良

    2019年入局。警察・裁判取材を経て現在、行政取材を担当。趣味はサッカー観戦で、国内だけでなくヨーロッパのスタジアムにも足を運ぶ。

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