西日本豪雨5年 被災地から発信を続けて
- 2023年07月20日
西日本豪雨5年。大きな被害があった西予市のケーブルテレビ局、西予CATVは懸命に発信を行いました。今も野村町の復興について取材を続けるケーブルテレビ局の取り組みを取材しました。
(NHK松山放送局 田坂あゆみ)
地域密着のケーブルテレビ局
西予市内をカバーするケーブルテレビ局、西予CATVです。運動会に祭り、伝統の「乙亥大相撲」など地域に根差した話題を幅広く取材、夕方の情報番組などで放送しています。
番組制作に関わる社員は5人で、取材、撮影から編集、アナウンスまで幅広く対応します。
発災当日の対応
5年前の西日本豪雨。7月7日、西予市内を流れる肱川が氾濫、大きな被害がありました。野村町在住で、当時技術営業課に所属していた山本和正さん(現在・制作放送課長)は、激しい雨音に目を覚ましました。
野村大橋が水に浸かった画像が友人から送られてきて、本当に驚きました。何とか出社しようと情報を集めたのですが、どの道も寸断していることが分かり、出社は断念せざるを得ませんでした
西予市中心部にある西予CATV周辺も浸水。社員の中には自宅が床上浸水した者もおり、社員14人の内、当日出社できたのは4人だけでした。
この日はお客様からの電話の対応、情報収集にずっと追われていたと思います
当時、新入社員だったアナウンサーの田中朋奈さんです。田中さんは宇和島市出身で、野村町にある高校に通っていました。身近な場所が浸水している映像に衝撃を受けながらも、出社して電話対応などに当たっていました。
映像を見ても状況が理解できませんでした。自分がいたところが水に浸かっている映像を見ても、全然信じることができませんでした
発災翌日から被災地取材
発災翌日の8日、本格的な取材を始めた西予CATVの社員たち。被害の大きかった野村町に取材クルーが向かいました。
甚大な被害のありました、野村町中心部に来ています。茶色く濁った水が濁流となって流れています。
普段は街の話題を取り上げることが多いケーブルテレビの社員にとって、災害報道は初めての経験。被災した現場や避難所の状況など、手探りながら懸命に取材を続けました。
本当に、今の状況、こんな状況です。水かさがまだまだありますとか、家屋の状況とか、本当に見たままをお伝えしたんですけど、繰り返すしかなくて、なかなかアナウンサーも大変だったと思います。
新入社員だった田中さんも、先輩社員たちとともに野村町に入り、避難所などで取材を行いました。
当時はカメラの使い方もよく分かっていない状態でした。被災地に行って何を撮ればいいのか、被災者の方にどういう声掛けをしたらいいのか分からず、とにかく自分の無力さを感じていました。
取材を担当した奥野裕史さんは、地域住民に近い地元ケーブルテレビだからこそ、取材の難しさを感じたと言います。
我々がボランティアで、お手伝いをした方がいいのではないか。そういうところに葛藤がありまして、カメラを向けられる側の気持ちを考えると、本当に苦しかったですね。
西予CATVでは、道路の通行制限や停電、給水、学校の休校などについても発信しました。西予市の危機管理課から情報を入手、地元ケーブルテレビ局ならではの、きめ細かな情報を出すことを心がけたと言います。
災害への対応を見直し
西日本豪雨のあと、西予CATVは災害への対応を抜本的に見直し、マニュアルにまとめました。「発災直後」「発災から1週間以内」など、それぞれの時点での具体的な行動内容を明記。役割分担も明確にしました。災害を想定した予定稿や、基本形となるテロップも用意。発災時にもより速やかに対応できるよう、環境整備も行っています
また、日ごろから視聴者に防災への意識を高めてもらうミニ番組を制作し、定期的に放送するようになりました。「避難のタイミング」「食料・飲料などの備蓄」など身近で具体的な内容のものを放送するようにしています。
うちの会社は、限られた人数でやっているので、発災後すぐに情報を出すことができないというのを痛感したので、発災前に予防の効果があるコンテンツを発信し、注意喚起を促したいと考えています
西予CATVには気象情報などを流すチャンネルがあり、以前から市内にある定点カメラの映像を流していましたが、西日本豪雨後はより多くのカメラの映像を見られるようにしました。1画面で4台のカメラの映像を見られるようにして、リアルタイムで肱川や町の様子などが分かるようにしています。
野村町の復興 伝え続けて
被災地の様子も継続して取材しています。特に力を入れているのは、4年前から行われている、「のむら復興まちづくりデザインワークショップ」です 。ワークショップには行政や地元住民や学生、愛媛大学や東京大学の研究者などが参加。肱川沿いに整備を予定している交流広場の活用法など、様々な立場から復興に向けて意見を出し合っています。
西予CATVではこの取り組みを継続的に取材、発信を続けており、ワークショップが完結する際には、番組化を目指しています。
地元の密着しているケーブルテレビ局としては、区切り区切りではなく、継続してどういった復興がなされていったんだろうというのを、記録で残しておく、これが今度何かあった時の参考になるのではないかというのが一番の狙い
アナウンサーの田中さんは野村町のワークショップを取材し続ける中で、この取り組みを伝えることの意味を強く感じるようになっています。
大人たちがはじめに動きだしたと思うんですけど、それを受けて、高校生・中学生・小学生という風に、復興の動きが広がっていって、それが本当にすごいなと思っています。自分たちの町を思って動ける子たちがいっぱいいるということにすごく感心しています。自分たちの町は自分たちで何とかするという、そういう強い思いを届けていけたらいいなと思っています。
取材を終えて
被災地の取材では、日頃から視聴者との距離が近い地元CATVだからこその葛藤や大変さがあったというお話が非常に印象的でした。また、豪雨後は視聴者に防災意識を高めてもらう取り組みの実施や復興の様子を継続的に取材するなど被災地への思いの強さを感じました。放送局で働く自分にとっても、改めて災害への意識を日頃から持つことの大切さや視聴者の防災意識向上につながる情報発信の重要性を再確認する現場でした。