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生まれ変わってもタオルになりたい

今治で始まったタオルのアップサイクル
  • 2023年05月23日

アップサイクルという言葉をご存じでしょうか。リサイクルとはちょっと違います。「捨てられるものから価値ある商品を生み出す」という点では同じですが、資源まで戻さずに素材を生かす、というのがアップサイクルです。
日本一のタオルの町、今治市で始まったタオルのアップサイクル。
背景には業界をずっと悩ませてきたある問題がありました。
今治タオルが生まれ変わったら何になるのでしょうか?

             (松山放送局 今治支局 木村京)

ことし4月、今治市のおよそ30社のタオルメーカーの商品を扱う店舗に姿をあらわしたタオルの回収ボックス。
使用済みの今治タオルを集めて再生しようという試みが始まりました。

仕組みをご紹介します。
回収するのは今治タオルと認定されたマーク付きの商品限定。
それを繊維メーカーの工場でいったん綿の状態に戻します。
綿を集めて糸にして再びタオルに製品化するという流れです。

今治市にはおよそ100社のタオルメーカーがあります。
そのうち80社が加盟しているのが「今治タオル工業組合」です。
実は組合では、このアップサイクルの仕組みを既におととし導入していたんです。
対象は使用済みタオルではなく、業界を悩ませてきたある「存在」でした。

業界を悩ます「捨て耳」とは

市内の老舗タオルメーカーの工場にお邪魔しました。
このメーカーでは主に家庭用やスポーツタオルを年間およそ16万トン製造しています。

タオルを織る機械をのぞくと端から糸くずのようなものが切り離されていきます。
これが「端材」です。織る工程で発生する生地の端切れのことで業界では「捨て耳」とも呼ばれています。
このメーカーで発生する端材は1日に10キロ程度。すべて廃棄しています。
今治全体では年間数百トンが焼却処分されていると推計されています。

 

タオルメーカー 村上政嘉 社長

「パンの耳は食べられるのでいいんですが(笑)。これは捨てるしかなく、何か有効に活用できないかと昔から思っていました。タオル業界全体としても長年の課題でこれまで議論しつつもなかなか難しかった」

タオルをアップサイクル

捨て耳はクッションなど手芸の材料になるため、消費者向けに販売されているケースもありますが、ほぼすべて廃棄するしかないことは業界の長年の課題でした。
そこで組合が大阪の繊維メーカーと連携して導入したのが、アップサイクルのシステムでした。これまで廃棄されてきたものが生まれ変わる、実に画期的です。

 

端材から糸をつくる(提供:クラボウ)

回収され繊維メーカーの工場に運び込まれた端材は、異物を取り除いて綿に戻され、ひねりながら糸になっていきます。

 

こうして生まれ変わった糸がこちら。
繊維メーカーによりますと、短い繊維が多いため、やや毛羽が多いものの、やわらかな独特の風合いになるということです。
この糸は販売されていて、今治のタオルメーカーが買い取ってタオルを作ってみたところ・・・

複数の色の端材が組み合わさり、なんとも不思議な淡い色合いになりました。
まだ試作品の段階ですが、一部のメーカーはアップサイクルされた糸を使って、オリジナルの商品を開発しているということです。

村上社長
「使う端材が毎回違うため糸が変わり、タオルの色合いも変わってきます。1色のタオルと違って、面白いしいいんじゃないかと思っています。安心安全な今治タオルとして環境に配慮した中で、ものづくりが行われていることをこれからも積極的にアピールしていきたい」

タオルの回収は始まったばかりでまだ量は少ないですが、当面は500キログラムのタオルの回収を目指しています。組合は、使えなくなったら捨てるという消費者の意識を変えることが狙いだとしていて、いずれはアップサイクルされたタオルを新商品として売り出したいと計画しています。

ではそのタオルも「今治タオル」になれるのでしょうか?

今治タオル本店

今治タオルは、吸水性など厳しい試験をパスして初めて「今治タオル」と認定され、あの有名なマークがつきます。
組合によりますと、今回の糸はロットごとに素材が異なるため毎回チェックを受けるとなるとコストと時間がかかります。そのため、費用対効果を考えて今治タオルブランドの認定を取得せず通常のタオルとして売り出すメーカーも出るかもしれないということでした。
一方、組合の製品として売り出す場合は必ずマークの認定が必要となるため、コアな層をターゲットに数量限定販売なども視野に今後商品化から販売まで進めたいとしています。

木村の感想

「環境に配慮した商品じゃないと消費者の理解も得にくい時代になってきている」
社長の言葉からは、今治の生産者たちが「日本一のタオルの産地」という立場に決してあぐらをかかず、挑戦を続ける姿勢が伝わってきました。アップサイクルされ生まれ変わったタオルは、今治タオルと聞いてすぐ浮かぶような、真っ白でふわふわのタオルとはひと味違いましたが、手に取ってみると何とも言えない不思議な魅力がありました。新たな特産品として定着するのか、今後も注目していきたいと思います。

  •  木村京

     木村京

    2020年入局。2022年8月から今治支局。
    生まれ変わっても記者になりたい。サステイナブルな暮らしにあこがれます。

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